日本のファクトチェックに足りない3つの視点「フェイクニュース対策」ガラパゴス化の恐れ

IFCN担当者によるファクトチェックのワークショップ=シンガポール、筆者撮影

日本国内のフェイクニュース対策を検討していた総務省の有識者会議は12月20日、ソーシャルメディアやポータルサイトなどを運営するプラットフォーム事業者に自主的な取り組みを求める最終報告書(案)をまとめました。表現の自由の観点から「政府の介入は極めて慎重であるべき」と法規制ではなく、ファクトチェック団体などと連携した取り組みを求めていますが、ファクトチェックのあり方については十分な議論が行われていません。

筆者は、12月上旬にシンガポールで開かれた「APAC Trusted Media Summit 2019」に昨年に続いて参加してきました。Google News Initiative(グーグルニュースイニシアティブ)などの主催で、アジアを中心に28カ国から300人弱のジャーナリストや研究者がフェイクニュース対策の取り組みを共有するもので、日本国内のファクトチェックに不足している視点が浮かび上がってきました。

ファクトチェックの定義の明確化を

1つ目はファクトチェックの定義です。

サミットでは、主催団体のひとつであるInternational Fact-Checking Network(IFCN、国際ファクトチェック・ネットワーク)の担当者によるファクトチェックに関するワークショップがありました。そこではまず最初に、ファクトチェックに関する言葉の整理がありました。

ブラジルでファクトチェックサイトを創立した経験も持つクリスティーナさんは、政治家などの公的な発言を確認するファクトチェックと、ベリフィケーション(検証)の区分を提示し、「(図の)右側は新しい領域。誰が書いているか分からない、ソーシャルメディアに書き込まれるようなユーザーによるコンテンツが対象」と説明しました。

ファクトチェックとベリフィケーションの区分=クリスティーナさんのプレゼン資料を筆者撮影
ファクトチェックとベリフィケーションの区分=クリスティーナさんのプレゼン資料を筆者撮影

クリスティーナさんが提示した区分図は、2018年にユネスコから出版された「Journalism, 'Fake News' and Disinformation」でも紹介されていますが、国内では、政治家の発言、選挙時の誤情報、災害時の流言などさまざまな対象にファクトチェックという言葉が幅広く使われています。

このようなファクトチェックという言葉の定義について最終報告書(案)は触れていません。ファイクニュース対策の対象については、下記のようにインターネット上に流通する情報と限定しており、ベリフィケーション側のようにも見えますが、定かではありません。

本報告書の検討対象としては、インターネット上に流通する情報に限定するものの、「フェイクニュース」の多義的な側面を捉えて検討を深める観点から、政治・選挙に係る情報に限らず、災害、健康・医療情報に係る情報なども広く含めて対象とする

出典:プラットフォームサービスに関する研究会最終報告書(案)

今後、フェイクニュース対策を本格的に進める際には、ファクトチェックと称してインターネットメディアや新聞社などが行っている取り組みを整理する必要があるでしょう。

求められるバランスとプロセスの透明性

次に重要なのはバランスです。

IFCNはファクトチェックの5原則(下の図参照)を定めており「党派的ではなく公正に取り組むこと」は一番目にあります。クリスティーナさんは「バランスをとっていかなければいけない、ファクトチェックは、誰かのためにやるわけではない」と強調していました。

IFCN Code of Principles=クリスティーナさんのプレゼン資料を筆者撮影
IFCN Code of Principles=クリスティーナさんのプレゼン資料を筆者撮影

このようなバランスは、ファクトチェックサイトPolitiFactの創設者であるBillAdairデューク大学教授も「政治的な言説に関わるすべての重要人物をチェックしなければならない」と6月に開催されたファクトチェックの国際会議で述べたと自身のブログで明らかにしています。

バランスが重要なテーマになっている背景には、ファクトチェックを行うメディアや団体がリベラル寄りであるという批判やトランプ大統領のような一部の政治家に対象が偏っているのではないか、という指摘があります。ファクトチェックが相手陣営に対する「攻撃」として使われていることも問題視されています。

「情報源の透明性を確保すること」も重要です。クリスティーナさんは「情報源を提示することで、読者や視聴者が、同じ手順を踏めば作業をやり直すことができるようにすることが大切。そうすれば、ファクトチェッカーをチェックすることができる」と述べました。

最終報告書(案)はプラットフォーム事業者には透明性を求めていますが、国際的にはファクトチェックのプロセスそのものに、何を対象に、どのような確認や検証を行ったのか、できる限り知らせる透明性が求められているのです。

国際的な議論とかけ離れた国内のファクトチェック

しかしながら、6月に筆者が指摘している通り、国内ではIFCNの原則からかけ離れたファクトチェックが行われています。国内でファクトチェックを推進する団体であるNPO法人ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)は、ガイドライン逸脱を有権者に広く周知していませんでした。

サミットでは、言葉の定義から守るべき原則、さらにはファクトチェックの影響をどう考えるかまで、幅広い議論が行われました。ファクトチェックやベリフィケーションは現在進行形であり、問題に対処するためには困難が伴いますが、より適切なファクトチェックのあり方について考えていこうという姿勢がありました。

最終報告書(案)でファクトチェックのあり方が触れられていない理由は、国内のファクトチェック団体の活動が十分ではないことも要因です。そのため、活性化のための環境整備推進を求めるにとどまっています(下記の図参照)。

参考:プラットフォームサービスに関する研究会最終報告書(案)PDF

総務省のプラットフォームサービスに関する研究会最終報告書(案)の概要から
総務省のプラットフォームサービスに関する研究会最終報告書(案)の概要から

国際団体の加盟ゼロ、ファクトチェックのあり方議論が必要

IFCNには世界各国の約70のファクトチェック団体が加盟していますが、国内はゼロです(加盟には5原則を守る必要がある)。ファクトチェック団体の活動推進と同時に、ファクトチェックのあり方も議論していかなければ、フェイクニュース対策が国際的な動向から取り残された「ガラパゴス」化する恐れがあります。

【この記事はJSPS科研費 JP18K11997(ミドルメディアの役割に注目したフェイクニュース生態系の解明)の助成によるものです】