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ネットの馬鹿らしい記事を深刻に受け止めよ フェイクニュース対策に必要なこと

藤代裕之ジャーナリスト
APACTrustedMediaSummit 2018=シンガポール、筆者撮影

アジア地域のファクトチェック団体が取り組みを共有する「APAC Trusted Media Summit 2018」がシンガポールで7月23日から始まりました。話題の中心は、ソーシャルメディアで拡散するフェイクニュースや不確実な情報。フェイクニュース追跡で世界的に知られるバズフィードのクレイグ・シルバーマンさんは「インターネットのミームや馬鹿らしい情報をシリアスに受け止める必要がある」と呼びかけました。

サミットは、カンファレンスを中心に、ファクトチェックのワークショップなどが行われる全6日間のプログラム。主催は、Google News Initiative(グーグルニュースイニシアティブ)、International Fact-Checking Network=IFCN(国際ファクトチェック・ネットワーク)など。アジアのメディア関係者や研究者ら約100人が参加。日本からは、日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)、ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)、NHKが参加しています。

ファクトチェック団体は、予算も、人数も少ない

IFCNのAlexios Mantzarlisさんが、世界でのファクトチェック団体は、58団体、32カ国で活動しているが、「大きな問題になってきているのに、大半が非営利で予算規模も小さく、人数も少ない」と現状を説明しました。フルタイムで働く職員が5人以上の団体は11で、多くがフルタイム職員は数名でボランティアに頼っています。

Alexios Mantzarlisさんのプレゼンテーションから(APAC Trusted Media Summit 2018=筆者撮影)
Alexios Mantzarlisさんのプレゼンテーションから(APAC Trusted Media Summit 2018=筆者撮影)

なお、この58団体というのはIFNCの5つのコードを守っているリストに掲載されている団体で、日本の団体は7月23日現在リストに掲載されていません。

拡散する健康のフェイクニュース

「Verification and Chat Apps」と題したパネルでは、インドネシアからの参加者が、フェイクニュース拡散の舞台は、メッセンジャーアプリとソーシャルメディアで、健康に関するものが4割と報告。カンファレンスの合間に話をしたタイの研究者によると、お年寄りが健康に関するフェイクニュースを信じてしまう。「子供からがんに効くと言われると食べたり、買ったり、してしまう。メディア・リテラシーが低いのが問題」とのこと。

日本国内でも2016年にDeNAが運営する医療系まとめサイト「WELQ(ウェルク)」が問題となりましたが、フェイクニュースはアメリカ大統領選挙やイギリスのEU離脱といった政治的な話題に限らず、その地域で関心が高い話題で拡散することが分かります。

ネットの馬鹿らしい記事に注目を

シルバーマンさんは、いち早くトランプに関するフェイクニュースがマケドニアの若者から発信されたことを突き止めた記者。イギリスの新聞ガーディアンに似せたサイトから発せられた「Former MI6 Chief Admits Defeat to Putin on the Russia Fragmentation Strategic Plan.(元MI6首脳がロシア断片計画でプーチンを敗北させる)」というフェイクニュースの追跡を紹介しました。

バズフィードのクレイグ・シルバーマンさん(APAC Trusted Media Summit 2018=シンガポール、筆者撮影)
バズフィードのクレイグ・シルバーマンさん(APAC Trusted Media Summit 2018=シンガポール、筆者撮影)

フェイクサイトは、ガーディアン(Guardian)のiの部分にiに見えるトルコ語の文字を使用したURLを使い、本物のように装っていました。この記事はロシア語に翻訳されて拡散。翻訳者を追跡しましたが、正体は不明だったといいます。

シルバーマンさんが追跡したフェイクは政治的な内容ですが、「ミームや馬鹿らしい記事に注目するから、フェイクニュースを深く追跡することが出来る」と話しました。

日本国内でもソーシャルメディアを流れる噂は軽視されがちで、西日本豪雨でも報道は現場に集中し、被災者が不安に思うような噂、フェイクニュースのチェックは十分に行われていませんが、国際的にも、報道機関やジャーナリストの考えるニュースバリューと、健康や災害時の生活情報といった人々がソーシャルメディアで求める情報の「間」をフェイクが埋めている状況があるといえるでしょう。

BBCはイギリスの対策をインドに展開

BBCのトラシャ・バロットさんはインドでの取り組みを紹介。イギリスでBBCが展開しているリテラシープログラムをインドに持ち込み展開。インドで使われている言語に翻訳して高校と連携、インド工科大学の学生とサービス開発のアイデアを出し合うハッカソンも行っています。

BBCインドのトラシャ・バロットさん(APAC Trusted Media Summit 2018=シンガポール、筆者撮影)
BBCインドのトラシャ・バロットさん(APAC Trusted Media Summit 2018=シンガポール、筆者撮影)

グーグルとフェイスブックによる報告も行われ、グーグルの担当者からは健康情報に対するファクトチェックが触れられ、「東南アジアでは動画ニュースが伸びている」とYouTubeの対策も紹介されました。フェイスブックの担当者からはファクトチェックにより、フェイクニュースの拡散が80%削減されたと報告がありました。

【この記事はJSPS科研費 JP18K11997(ミドルメディアの役割に注目したフェイクニュース生態系の解明)の助成によるものです】

ジャーナリスト

徳島新聞社で記者として、司法・警察、地方自治などを取材。NTTレゾナントで新サービス立ち上げや研究開発支援担当を経て、法政大学社会学部メディア社会学科。同大学院社会学研究科長。日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)代表運営委員。ソーシャルメディアによって変化する、メディアやジャーナリズムを取材、研究しています。著書に『フェイクニュースの生態系』『ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか』など。

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