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就職が決まっているから卒業要件を甘くしろとでも?TOEIC点数不足で「卒業危機」報道の問題点

藤代裕之ジャーナリスト
国際性をアピールする北海道教育大学函館校のホームページ

北海道教育大学函館校(道教大函館校)で、卒業要件に設定したTOEICの点数を4年生の約3割がクリアーできず、卒業の危機というニュース。北海道新聞は以下のようにリードで懸念を示し、12月に内定を得たという学生の「(留年したら)親にも迷惑がかかる」というコメントで記事を締めくくっています。普段は、日本の大学は簡単に卒業させすぎている、などと「大学パラダイス説」を唱えているマスメディアが、就職が決まっていたり、保護者に迷惑がかかったりするので、卒業要件をクリアーできない学生を「なんとかしろ」と言わんばかりの記事内容です。

【函館】道教大函館校(後藤泰宏キャンパス長)の国際地域学科地域協働専攻で、今年から英語能力試験TOEIC(トーイック)の得点ラインを「合格点」として卒業要件に設定したところ、4年生(239人)の約3割が「不合格」となっていることが分かった。このままでは3月末に卒業できないため、大学側は25日、補講とTOEIC追試を行う異例の「救済策」を決めたが、学生からは就職内定取り消しなどを懸念する声が広がっている。

出典:北海道新聞

卒業の必須となっている論文が提出できない、単位を落としたことで卒業単位が不足した、にもかかわらず「なんとか卒業できないか」という要求は大学にいるとこれからの時期によくあります。

ほとんど出席していない授業の試験を不可にしたところ、「卒業できない」と泣き付かれたり、保護者から激しいクレームが入ったり、それでも不可の判定を変えなかったら、身に覚えがないセクハラやパワハラで訴えられたり、と思わぬ問題に発展したという話もあります。

この記事を見た時に「また、面倒なことが起きるぞ」と思った大学教員も多かったのではないでしょうか。このようなマスメディアの記事が、就職や家庭の事情が卒業要件に優先する、という学生や保護者の考えを助長しているのです。

しかしながら、いまの大学は、マスメディアや年配の企業経営者のイメージにより語られるような「パラダイス」ではありません。「出席なんてせずにバイトしていた」というのは過去の話。文部科学省の指導もあり、授業回数、出席などが厳しくなり、厳格に管理されるようになりつつあります。文部科学省のサイトには

というそのものズバリのページが存在しています。カテゴリーは「大学における教育内容・方法の改善等について」です。そこには

大学設置基準(昭和31年文部省令第28号)(抜粋)

第25条の2 第2項 大学は、学修の成果に係る評価及び卒業の認定に当たつては、客観性及び厳格性を確保するため、学生に対してその基準をあらかじめ明示するとともに、当該基準にしたがつて適切に行うものとする。

出典:文部科学省

と、大学設置基準が抜粋されています。卒業要件に満たない学生が卒業できずに留年するのは、大学教育の質保証(出口保証)の観点からすれば望ましいことです。TOEICの得点を卒業要件にしているにもかかわらずそれを緩和すれば、社会への約束を守らずにウソをつくことになります。

一方、共同通信の記事は、就職のことは書かず、TOEICの得点が卒業要件となることは入学前から周知していたと記載し、カリキュラムの見直しを検討と入っています。この方向で、もう少し突っ込んだ記事を書くとすれば、卒業要件にしているTOEICの得点を獲得できるようなカリキュラムになっていたのか、という検証もあり得るでしょう。

TOEICの得点を卒業要件にしている北海道教育大函館校(函館市)の国際地域学科地域協働専攻で、4年生240人のうち3割に当たる約70人の得点が足りず、補講や追試で対応することが27日、分かった。3月に卒業するには、2月の追試が最後のチャンスとなる。大学側は、英語の授業数を増やすなど2018年度のカリキュラム見直しを検討している。

出典:日本経済新聞

出口保証を進めていけば、これまでのように「出るのは簡単」が、「出るのは難しい」になっていくのは当然です。留年が多くなっても、学生の懸念や、気をもむ、という視点ではなく、卒業要件を適切に守った、という方向で記事にしてもらいたいものです。

ジャーナリスト

徳島新聞社で記者として、司法・警察、地方自治などを取材。NTTレゾナントで新サービス立ち上げや研究開発支援担当を経て、法政大学社会学部メディア社会学科。同大学院社会学研究科長。日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)代表運営委員。ソーシャルメディアによって変化する、メディアやジャーナリズムを取材、研究しています。著書に『フェイクニュースの生態系』『ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか』など。

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