地方→東京の学生は減っているのに「地方創生のために23区内大学を制限する」不思議

そもそも、地方から東京への学生は減っているのに、なぜ制限するのか…

地方創生のために「学生が過度に東京へ集中している状況」を是正しようと、政府が東京23区内の大学の定員増を原則として認めないという方針を打ち出しています。しかし、実は地方から東京への学生は減少しているのです。町中心部にあった大学を郊外移転させた要因のひとつとされる工場等制限法の影響も、東京以外のほうが大きいのです。

参考:これまでの記事

そもそも、地方から東京への学生は減っている

まち・ひと・しごと創生本部の「地方大学の振興及び若者雇用等に関する有識者会議」の第1回会合(2017年2月6日)に提示された基本資料のp41に「東京都の大学への入学者数」があります。これを見ると、東京都の大学に入学した地方圏の学生は、2002年の4.5万人(36%)から2016年は4.3万(30%)に減少しています。

地方大学の振興及び若者雇用等に関する基本資料p41
地方大学の振興及び若者雇用等に関する基本資料p41

東京圏に関してもp42に資料があるのですが、東京圏の大学に入学した地方圏出身者は、2002年の8.7万人(36%)から2016年は7.6万人(31%)と減少しています。東京の大学への入学者数は、地方からではなく、東京圏から増えているということです。

東京23区の大学生は増えたのか?

もうひとつ、すでに書いた立地の記事の反応でもありましたが、町中心部にあった大学を郊外移転させた要因のひとつとされる工場等制限法の影響も、基本資料のp39にあります。工場等制限法廃止前の1976年(昭和51年)の東京圏学生数は90.7万人、3大都市圏以外は57.8万人です。廃止後の増加率が高いのは東京圏以外。3大都市圏以外は94.4万人になっていますが、その後減少しています。そして、23区内の学生は76年のほうがいまよりも多いのです。

地方大学の振興及び若者雇用等に関する基本資料p39
地方大学の振興及び若者雇用等に関する基本資料p39

なぜ、このような資料を提示しながら、「地方創生のために23区内大学を制限する」という結論になるのかナゾ過ぎます。

避けては通れない大学の特色

東日本編を書く時に、「まち・ひと・しごと創生基本方針2017」を紹介しながら、「そもそも、大学の特色づくりが十分ではない話が是正されていないのに、なぜ23区はという話は割愛し、先に進みます」と書いたわけですが…もう一度、基本方針の文言を確認してみましょう。

地方創生の実現に当たり、大学の果たすべき役割は大きいが、大学の特色作りが十分でない、また、地域の産業構造への変化に対応できていないとの指摘もある。そのため、地域に真に必要な特色ある大学の取組が推進されるよう、産官学連携の下、地域の中核的な産業の振興とその専門人材育成等に向けた優れた地方大学の取組に対して重点的に支援する。

また、今後18 歳人口が大幅に減少する中、学生が過度に東京へ集中している状況を踏まえ、東京(23 区)の大学の学部・学科の新増設を抑制することとし、そのための制度や仕組みについて具体的な検討を行い、年内に成案を得る。東京圏の大学の地方へのサテライトキャンパスの設置や、学生の地方圏と東京圏の対流・還流を推進することにより、若者の流動性を高め、地方と触れ合う機会を拡充する。

出典:まち・ひと・しごと創生基本方針2017

まさか地方の大学の特色づくりが不十分だから32区の大学を制限という話?ではないですよね…

どんな特色をもっているの?

これまでも地方国立大学は、学部・学科の改組、予算の配分などによって改革の方向性を国に「誘導」されてきました。

基本資料p19で「地域のニーズに合わせて変わる国立大学(例)」として挙げられているのが下記の図です。地域のニーズに合わせて地方国立大学は変わろうと努力をしているのですが、やるべきことは東京圏の高校生でも、行きたいと思う大学づくりなのではないでしょうか。もし受験生の保護者の方が記事を読んでいて、ここに掲載されている大学に行かせたいでしょうか…

地方大学の振興及び若者雇用等に関する 基本資料p19
地方大学の振興及び若者雇用等に関する 基本資料p19

文部科学省が取り組んでいる予算配分例である「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業(COC+)」の選定事業一覧を見ると、なかなか凄い事業名称が並んでいます。「地域イノベーションを推進する三重創生ファンタジスタの養成」(三重大学)や「学共創郷育:「やまと」再構築プロジェクト」(奈良女子大学)など(何かが根本的に間違っている気がします…)。

地域の若者(女性)からも選ばれない

もう一つ、そもそもの話を…この有識者会議の第1回会合のページに、コマツ相談役の坂根座長提出資料というのが公開されています。

コマツは創業地の石川県小松市に本社機能を移転するなど、地方を重視する積極的な姿勢で知られています。坂根氏が提示しているのは、静岡経済研究所(SERI)の2016年の資料。その中でも、岩間晴美研究員の『若年女性の流出問題を考える「静岡県における若年女性の流出要因を考える」』のサマリーには「若年女性が就職したいと思うような“働く場の多様性”が欠けている点が県外流出につながっている」「生活全般の満足度は、首都圏在住者が県内在住者を大きく上回っている」との指摘が行われています。

アンケートでは、「ずっと静岡組」「Uターン組」「進学時流出組」「学卒後流出組」に分けて調査を行っており、進学先を選ぶ基準では「進学時流出組」が知名度やブランド力、校風や雰囲気、偏差値などを重視するのに対し、「ずっと静岡組」は先生や親など周囲の意見や学費を重視しています。地域の大学を積極的に選ぶ理由に乏しい状況が浮かび上がっています。

坂根座長提出資料静岡経済研究所(SERI)の2016年の資料
坂根座長提出資料静岡経済研究所(SERI)の2016年の資料

郊外への移転にしても、特色ある大学づくりにしても国(文科省、お金を出す財務省)の方針に誘導されていった地方国立大学。その結果が、立地も悪く、特色にも乏しいのでは、受験生に選ばれるわけがありません。

東京だけでなく世界から行きたくなる地方大を

地方の大学の特色が出て、受験生が各地から集まる好循環をどう作るのか。そのためには適切な評価と、インセンティブ設計が必要です。知(地)の拠点事業などをみても評価軸が不明瞭です。大学の評価軸の一つである偏差値は、日本では大学は「総合的」に判断されがちです。しかしながら、欧米では分野ごとにランキングがあり、日本で知られている大学が上位とは限りません。

世界の大学をランキングしているQSランキングのサイトによると、社会学分野(Sociology)では、1位ハーバード、2位UCバークレイ、3位はオックスフォード、4位はロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)、5位はウィスコンシン大マディソン校。哲学(Philosophy)では、1位はピッツバーグ、2位はオックスフォード、3位はニューヨーク大学(NYU)、4位はラトガース、5位はハーバードです。著名総合大は確かに強いですが、特色を持っている大学はランキング上位に顔を出します。

専門誌である大学ジャーナルは下記のような記事を出しています。

「QS専攻分野別世界大学ランキング」は、46の専攻分野別に大学をランキングしたもの。歯科分野で世界第3位にランクインした東京医科歯科大学のほか、今回新たに、名古屋大学が物理学と天文学で世界第49位、筑波大学がスポーツ関連学で世界第26位にランクインし、日本の大学は、2016年度より2校多い計9校が専攻分野別で上位50位にランクインする躍進をみせた。

出典:QS専攻分野別世界大学ランキング2017 日本の大学が躍進

国内メディアでは良く大学のランキングが紹介されていますが、大半が大学ごと。これを学部・学科ごとや研究分野ごとも加えるだけで特色を出しやすくなります。母校の広島大は高等師範学校の伝統から「高校教員になるなら広大」という評判がありました。実際、徳島新聞で記者になって高校を取材すると、校長や副校長に多くの卒業生がいて、取材活動がスムーズに進むことがありました。23区内大学を制限する前に、このような、特色を可視化し、強化するような取り組みが必要ではないでしょうか(個人的には、人口減と国際的な競争力を考えれば、23区内にさらに大学を集積したほうがいいとの考えです)。

研究分野別の「強さ」が伝われば、遠くても「この大学に行く」という受験生も出るでしょう。秋田の国際教養大学(AIU)や国際基督教大学(ICU)は立地は良くありませんが、教育や校風で特色ある大学として知られ、全国から学生を集めています。研究、教育などの評価軸があることでインセンティブとなるでしょう。メディア・ジャーナリズム分野でのランキング導入は、法政大学メディア社会学科的にも大歓迎です(あくまで個人的な見解です)。