山本美憂の“人間を生き切る”力

42歳で総合初挑戦した美憂(C)RIZIN FF/Sachiko Hotaka

元レスリング世界女王の山本美憂が42歳にして総合格闘技(MMA)初挑戦、しかも対戦相手は立ち技総合格闘技「シュートボクシング」の現役女王であり、今や日本の格闘技界の“顔”のひとりともいえるRENA(レーナ・25)。対戦前から大きな話題を集めた一戦が9月25日、さいたまスーパーアリーナでの「RIZIN(ライジン)」のリングで行なわれた。

試合は1ラウンド4分50秒、RENAが山本の首を締め上げるアームトライアングルチョークで完勝。プロのリングでの圧倒的な経験値の差がそのまま出た形となったが、山本が両足タックルで先んじて試合を動かす場面もあった。練習期間わずか3ヵ月ということを思えば、むしろ今後の伸びしろを期待させる内容だったと個人的には思う。

山本美憂の入場シーン(C)RIZIN FF/Sachiko Hotaka
山本美憂の入場シーン(C)RIZIN FF/Sachiko Hotaka

だが、会場にいた私がこの一戦で一番印象に残ったのは、実は試合内容そのものではない。自分でも意外だったのだが、それは山本美憂の入場シーンだった。

バンダナを巻き、白いTシャツ姿で登場した山本は、入場テーマ曲に乗って軽やかに全身でリズムを取り、ステップを踏みながら、ゆるい下りの花道を歩き、リングへ向かった。緊張をにじませつつも、その姿は実に気持ちよさそうだった。

彼女の入場シーンを肉眼とスクリーンで交互に確認しながら、ふとこんな言葉が浮かんできた。

「この人は、人間を生き切っているな」

手前勝手な解釈だが、「人間を生き切る」とは、「与えられた能力を活かし切り、後悔なくやりたいことをやり切る」ことだ。

13歳で全日本、17歳で世界を制した早咲きのレスリング女王は、アテネ五輪、ロンドン五輪を目指し復帰するも出場ならず。カナダ代表でのリオ五輪出場に賭け、カナダに移住するも、やはり悲願は果たせず。その間、3度の結婚、離婚を経験し、3人の子の母となった。そして今回、42歳にして弟、山本“KID”徳郁、息子、山本アーセンと同じMMAファイターとしてデビューを果たす――。

本人も「山あり谷ありの人生」と言っているように、その半生は波乱万丈そのものに見える。自由奔放だとかフツーじゃないという評価もある。

笑顔でRENAを称える山本(C)RIZIN FF/Sachiko Hotaka
笑顔でRENAを称える山本(C)RIZIN FF/Sachiko Hotaka

でも、「やりたいことをやり切る」のは、想像以上に固い意志と強いエネルギーが必要だ。だから、そうしたいと思いながらも、多くの人は時間がない、お金がない、周囲に迷惑をかけたくないなどの理由をつけて、生きる。「本当は、ほかにやりたいことあったけどな」「十全に生き切っていないな」という多少の後悔と折り合いをつけながら、それでも一所懸命、生きる。

この「多少の後悔」がどうしても許せないのだろう、山本美憂という人は。

自分を諦めもせず、誤魔化しもせず生きてきた。

凛としていながらも軽やかな入場シーンは、彼女のそんな“生き切る力”を象徴していたように思えてならない。“ツヨカワ(強くてカワイイ)対決”として注目を浴びた一戦だが、今後は彼女の生き方そのものに惚れるファン、特に女性ファンが増えていくのではないだろうか。