広告費ゼロで4億円の効果 “おにぎりアクション”成功マーケティングの裏側 

おにぎりがアフリカの子ども達を救う力に(撮影:TABLE FOR TWO)

SNSにおにぎりの写真を投稿するだけで、アフリカの子どもたちに給食が届けられる“おにぎりアクション”。2年前の2016年、こちらのYahoo!記事を書いた後に大きく広がり、今年も開始から2週間で既に6万枚もの写真が投稿されている。

この“おにぎりアクション”は、SNSを使ったマーケティング戦略が大成功した事例で、2017年にはマーケティング大賞の奨励賞、アジア・マーケティング3.0アワードも受賞した。

NPOであるがゆえに、広告費は掛けられない。にもかかわらず、4億もの広告効果を生み出したのは、企画者の大宮千絵さんのマーケティング術によるもの。今期も、大宮さんの前職である日産自動車の他、味の素冷凍食品、イオン、伊藤園など多くの大手企業が協賛企業に名を連ねた。

「意図した通りに広がった」と語る大宮さんは30代半ばの2児の母。自分と同じ母親世代をターゲットにしたマーケティング戦略、その極意を聞いてきた。

言いたいことを我慢してシンプルにしたら爆発的に広がった

どんな企業にとっても必須であるマーケティング戦略。講師として、マーケティングについて語る機会も多い大宮さんは、おにぎりアクションがなぜここまで成功できたのか、的確な言葉で表現する。

「まず、メッセージがシンプルであること。そして、これは面白いって思ってもらえる強力なインパクトがあること。この2つがないと、どんなに素晴らしいことをしていても伝わりません。こんなに良い取り組みなんです、と伝えたい気持ちをグッとこらえて、言いたいことを絞ったことで成功したと思っています。」

アフリカの子ども達に給食を届けるという素晴らしい活動も、少し遠い世界のことに感じてしまう。その距離感を縮めることが出来たのは、日本人にとって身近な“おにぎり”をキーワードにしたことによる。

ただ、実は1年目に投稿された写真は、約5500枚。約11万枚と急激な広がりを見せたのは2年目からなのだ。前年の10倍以上の投稿があった理由は何なのか。

「実は2つのことを改善したことが関係しています。ひとつは、名前を短くしたこと。よりシンプルにするため、“おにぎりいただきます!ソーシャルアクション”から“おにぎりアクション”に変更しました。もうひとつは、SNSにハッシュタグ(#OnigiriAction)をつけて投稿するというシステムを加えたこと。1年目はホームページに写真をアップするというものでしたが、SNSに投稿する方が圧倒的に楽でシンプルだとのご意見を頂きました。しかも、自分がアップした写真をたくさんの人に見てもらって、いいね!やシェアしてもらえるという、SNS好きな人の心をくすぐる要素もあるのだと思います。」

給食を食べるために学校に来ている子も少なくない(撮影:TABLE FOR TWO)
給食を食べるために学校に来ている子も少なくない(撮影:TABLE FOR TWO)

その後は順調に認知度も高まって、去年は16万枚以上の写真が投稿されている。今年の目標は20万枚。快進撃が続く一方、高評価と比例してプレッシャーとの戦いも始まった。

協賛打診のため、葛藤を抱えながら退職した会社へ

毎年、10月から11月にかけて実施しているおにぎりアクション。昨年の企画終了後、12月には総括しながら、来年はどうするかという打ち合わせが始まった。そして、流行りのグランピングなどをイメージする形で、キャンプや外出先でもおにぎりを…というテーマに決まったという。

「ヒットして3年目、毎年同じことをやっていても飽きられてしまうので、テーマを作るようにしています。昨年はおにぎりをデコレーションするということで、旭化成ホームプロダクツさんが「サランラップに書けるペン」という商品でスポンサーになり、インスタグラマーさんが可愛くデコって写真をアップしてくれたことで、さらに多くの人に知ってもらうことができたと思います。今年は、キャンプやピクニックなどのお出掛けがテーマとなり、翌年の構想をする中で、新卒から8年お世話になった日産に、協賛の相談をしに行こうと決めました。」

その理由は、家族での「お出掛け」に最高の車である日産自動車のセレナが、パートナーとして真っ先に思い浮かんだからだという。過去2年の盛り上がりがあって、ようやく企業側からWIN-WINだと感じてもらえるようになったものの、前の職場に相談しに行くことをどのように受け止められるのか、葛藤を繰り返す日々だった。

「すごく葛藤がありました。お世話になっていた上司とは、辞めた後もメール等でのやりとりはしていて、マーケティング大賞を受賞した時にも連絡をくれたり、応援してくれて、それを励みに頑張っていました。それでも、こういう話をしに行くのはどうなんだろうという気持ちがあったので、本当に会うその瞬間まで葛藤しながら伺ったという感じです。その方はすぐに快諾してくれたのですが、新しい企画が社内で前進するのはなかなか難しいとも感じました。」

数年前まで自身もマーケティング部門で働いていたため、内部調整の大変さは実感しているのだろう。その後は、日産を代表するファミリーカー、セレナのマーケティングチームと直接やりとりし、チームに社会的な活動を応援したいという熱い想いがあったこと、社内を動かす優秀な方々がいたことにより、実現に結びついたのだという。

日産のファミリーカーを体感できるリアルイベントを実施(撮影:TABLE FOR TWO)
日産のファミリーカーを体感できるリアルイベントを実施(撮影:TABLE FOR TWO)

「やはりSNSを使ったマーケティングに対しては、社内には懐疑的な意見があったと思います。効果が見えにくいし、成果が出るのかどうか分からない、という意見に加えて、こういったタイアップは前例もあまり無かったでしょうし。それよりもリアルなイベントで触れてもらう、という方法が良いという感覚が強い。なので、その時点で協賛が決まっていたイオンさんの店舗でリアルイベントも実施すること、SNSは、写真を投稿する消費者をセレナが応援するというイメージで進める等、様々な方法を検討しました。日産の社員だった頃から、セレナは家族でお出掛けするのにピッタリな車だと思っていたので、セレナチームがこの活動を応援してくれ、一緒にやれることになった時は、本当に感慨深かったです。」

リアルイベントで体感した“寄付は怖い”という感覚

日産自動車が協賛企業に入ったことで、おにぎりアクションは4年目にして初めて消費者と直接会うリアルイベントを実施することになる。同じく協賛のイオンやイオンモールの力を借り、全国各地のイオンモールで実施。ここで、大宮さんは自分達が勘違いしていたことを知る。

「2年目、3年目と爆発的なヒットとなり、 おにぎりアクションという言葉も少しずつ周知されてきたと勘違いしていました。でも、イオンモールに来たお客さん達の9割は知らなかった。まだまだなんだなと実感しました。しかも、アフリカの子ども達に給食を届けるという企画説明の際、“寄付”という言葉を出した瞬間、お客さん達が引いていくのが分かりました。おにぎりアクションへの参加や寄付も当たり前という人よりも、寄付って聞いただけで怪しい団体なんじゃないか、と思う人の方が多数派なんですよね。」

Facebookなどリアルな友人が中心のSNSを使っていると、ただ同じ感覚の人が集まっているだけなのに、自分の周囲で流行っていることが世の中でも同じように流行っていると勘違いしてしまう。この一般的な感覚との差を感じたことがある人は多いのではないだろうか。

感覚が似ている人が仲良くなるので、同じような環境の人ばかりと話すと市場の感覚と乖離していくのだ。どうすれば心を掴めるのかを常に考えて、自分の感覚と市場の感覚が乖離しないように心掛けないといけない。

「マーケティングを担当する者としては、今回の経験も必要だったと思います。どうやって知らない人に来てもらうのか、歩いている人をいかに止めるか、ということも研究しました。いくらおにぎりアクションの説明を分かりやすくしたところで、誰も反応してくれません。可愛いおにぎりと一緒に写真が撮れたり、ファミリーカーのセレナの後部座席でキャンプ体験できたり、なんだか面白いことを体験できそう!って思ってもらうしかない。そんな発想に変えたら、多くの人がハッシュタグと一緒に写真を投稿してくれました。セレナが家族キャンプに便利だということを体感してもらったり、CMを見たときに身近に感じて思い出してもらったり、そんな効果を期待しています。」

10月にイオンモール幕張新都心で行われたイベントでは、日産車の後部座席でキャンプ体験も(撮影:TABLE FOR TWO)
10月にイオンモール幕張新都心で行われたイベントでは、日産車の後部座席でキャンプ体験も(撮影:TABLE FOR TWO)

ターゲット層も考えてメッセージとSNSを選択

マーケティング大賞の受賞後、講師としての依頼は増加。イベント等でマーケティング術を話す機会も増えている大宮さん。4歳と1歳の男の子の母親で、30代の共働き。ファミリーカーやスーパー、食料品など、おにぎりアクションに協賛する企業のターゲット層とピッタリ重なるからこそ、分かる感覚もある。

「Instagramは40代が増えているので、作ったおにぎりを写真に撮ってアップするおにぎりアクションはお母さん世代にマッチしました。メインターゲットは30代40代の母親たちなので、投稿者の半分以上を占めます。この世代で情報感度が高い方たちが投稿してくれているので、セレナをはじめとする協賛企業さんのターゲット層にも合うんですね。その次に多いのが、中高生や大学生。学校や学生団体の参加もあり、広がってきています。学生や20代の中には、綺麗な写真をアップしないといけないInstagramに疲れている人たちもいるようで、Twitterが多い。若年層のTwitter回帰傾向が見えてきますね。」

不特定多数の人にシェアされやすいTwitterやInstagramの投稿が多いのは、SNSを使ったマーケティングにとっては追い風になるという。

「とにかく、最初は『なんだろう、これ?』と気になって調べてもらうことが大切です。おにぎりアクションも、“おにぎりで世界を変える”という、え?どこにでもあるおにぎりでどうやって?というところから入っています。“おにぎり”と“世界”って全く関連が無さそうな言葉ですよね。それに加えて、お母さんが愛情を込めて手で握る“おにぎり”という言葉には、アフリカの子ども達への愛情も重ねています。この感覚が、“おにぎり”を握る立場にある子育て世代の共感を呼んでくれました。皆さん、いつもは長文で投稿しないSNSであっても、おにぎりアクションについての説明は長文でしてくれるんです。あぁメッセージが届いているな、共感してもらっているな、と感じます。実は、この共感もマーケティングの極意でしょうね。」

私の周囲でも、この時期は毎日のように誰かがおにぎりの写真を投稿している。言われてみれば、確かに全員が母親たちだ。

運動会や遠足もあるこの秋の行楽シーズン、おにぎりを作ることがあるのであれば、携帯で撮影してアップしてみてはどうだろうか。その1枚の写真を投稿するまでの数分間、アフリカの子どもたちに思いを馳せることで5人に給食が届くのだから。