APECで初めての女性起業家アワード 日本代表の受賞なるか

現地メディアに取材を受けるモーハウス代表 光畑由佳さん

ペルーが開催国となっている今年のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)。今週開幕した女性と経済フォーラムで注目を集めているのは、ロシアの提案で新設されたアワード。APEC BEST Award (Business Efficiency and Access Target Award)という名称で、女性起業家にスポットを当て、それぞれの取り組みや事例などを10分間プレゼンテーションするという。

台湾、ブルネイ、インドネシア、マレーシア、メキシコ、フィリピン、ロシア、中国、アメリカ…と各国から参加するこのアワード。ここに、日本を代表して参加するのは、日本における授乳服の先駆け、「モーハウス」代表の光畑由佳さんだ。

子連れ出勤でも話題になった授乳服ブランド

光畑さんが起業した「モーハウス」は、日本における授乳服の先駆けとなったブランド。東京・青山にあるショップのスタッフは育児中の母親たちで、ほとんどの社員が子連れ出勤しているということでも注目を集め、話題となった。本社は、自宅がある茨城県つくば市に置かれており、そちらでも育児中の母親たちが子連れで働いている。

赤ちゃんを抱いて出勤、仕事をするモーハウスのスタッフたち
赤ちゃんを抱いて出勤、仕事をするモーハウスのスタッフたち

実は、2年前に北京で開催されたAPECでも「モーハウス」の事例を紹介するために登壇している光畑さん。今回はベストアワードの候補者ということで、持ち時間は15分。通訳なしの質疑応答もあるため、英語でのプレゼンテーョンもかなり練習したと話してくれた。

「北京に続いて、2回目のお声がけがあるとは思っていなかったので、お話をいただいた時にはびっくりしました。女性と経済フォーラムということで、日本を代表して行くことになりますが、去年の男女平等(ジェンダー・ギャップ)指数でも日本は101位と先進国ではかなり低い順位で、マイナスの意味でも海外からも注目されていますから、きちんと伝えてきたいと思っています。

前回、北京で感じたのは、世界各国の方々が、“日本はとても良い制度をたくさん持っているのに、どうして女性活用が進まないのか?”と疑問を持っているということ。産前産後休暇だけでなく、育児休業が1年間も取得できるし、私たちは今ある制度をもっと活かすことができるのではないかと思いました。

女性が活躍する社会と言われながらも、保育園が足りなかったり、いろいろな問題がある中で、何ができるか。女性が活躍するのはナチュラルなことだとして活動をしている人も少しずつ出てきていますよね。日本人って“私たちダメだよね”と自分たちでマイナスなことを言うのが好きだけれど、そうではなくて、もっと自信を持って主張をしていきたいと考えています。」

賞を取ることで思いを伝えたい相手は日本の女性たち

モーハウスを運営する傍ら、特命教授として筑波大学や明治大学などでも授業を持っている光畑さんは、最近また女子学生たちの変化を感じているという。

『出産と育児、大変だと思いますか?』そう問いかけると、出産については100%が、育児については80%が手を挙げるという状況だった。それが最近では、出産は少し減って90%くらいになった一方、育児は100%の学生が手を挙げるようになったのだ。

「教室にいた留学生たちは、周囲の日本人学生たちがあまりにも手をあげるからビックリしていました。昔は、子連れで働くことも外で授乳することも当たり前だったわけですし、明治時代の日本人の子どもは世界一幸せだと言われていた。今回、賞が取れるかどうかは分からないけれど、海外にも発信する一方で、日本の人たちにも伝えたいのです。“大丈夫。私たちはちゃんと自分たち自身で答えを探し出せる”と。日本人の女性たちが自身を取り戻せる要素になるように。」

前回、北京で行われたAPECに登壇した時には、国内よりも海外メディアの反応が大きかった。でも今回は、育児がものすごく大変だと思われている今だからこそ、日本国内で報道されることを望んでいる。

日本では外注できない 海外が子育てしやすい理由

光畑さんは、現地時間の27日にも、約1時間半に及ぶディスカッションに参加している。「ケアシステム」というテーマでキーノートスピーカーを務め、ベビーシッターや家事代行に加え、unpaid workについても話をした。

APECのディスカッションに参加する光畑由佳さん(ペルーで撮影、右から2人目)
APECのディスカッションに参加する光畑由佳さん(ペルーで撮影、右から2人目)

「やはり海外に来ると、子育てしやすいと感じるのです。それは、気軽に外部サービスを使うことができるからなのではないでしょうか。若い人の間では罪悪感が減ってきているとはいえ、日本だと、本当に激務で稼いでいる人であっても全てを外注していると批判されることもあるし、気軽にはお願いできない雰囲気がありますよね。母親が罪悪感を持ってしまったり、周囲と違うことをしていると思ってしまったり。なんだか自分たちでガラスの牢獄に入ってしまっているような気もします。周囲の助けも必要ですが、これは自分たち自身で破らないといけないものでもあるんです。」

今、母親になっている世代の女性たちは、学生時代までは本当に男女平等な社会で育ってきている。今までずっと対等であるつもりでいたのに、子どもを持った途端に性差を意識することになるのだ。

透明で、目には見えない牢獄のような場所に、母親たちが自ら入ってしまっているという指摘は、その通りかもしれない。私たちは、無意識のうちに“こうあるべき”という母親像を気にしている。そのガラスは自分の力で中から破ることもできるけれど、夫や上司など周囲の人が手伝うことで、より壊れやすくなるのかもしれない。

働く母が増加したことで見えてきた課題も

一方、マタニティマークのトラブルなどを始め、ここ数年は働く妊婦や母親たちに厳しい雰囲気になってきているのも事実だ。

「昔と違って厳しい雰囲気になってきたのは、働くママが増えてきたから。十数年前、数が少ない時は珍しがられて、大切にしてあげられたけれど、数が増えてくる中で、特別待遇はできなくなりました。また、権利ばかりを主張する、態度が大きい方が一部に出てきたことも理由の一つかもしれません。

私の同世代で出産していない女性たちは、若い世代を応援したいと言ってくれます。でも、この“応援している人たち”は裏切られると反対に転じてしまう可能性もあるのです。実際、とても理解があった方が、ママたちに裏切られた、もう優遇はしないと言い出してしまったという話も聞くことがあります。」

子連れ出勤を実践し、子どもを傍らに置いて働けるモーハウスでは、社員もほとんどが働く母親たち。他の会社よりも働く母の割合が多いからこそ、新しい課題が先に出て来ているという。その内容は、基本的には『資生堂ショック』と同じだ。

昼間の11時から16時しか入りたくないという人が増える中で、どうするか。最初は独身の社員が埋めてきたけれど、働く母親たちのしわ寄せが来ていて早々に辞めてしまったら?子どもがいない人のワークライフバランスだって大切なのだから、仕事を押し付けることはできない。

今は、土日や夜、出張などを含め、全て働く母親たちの中でシフトを組んで、回すように頑張っている。

昔は、赤ちゃんを連れて出張に行っていたりしていたが、制度が整ってくると「子連れ出張なんてできない」という雰囲気が出てきてしまう。これは他の企業でも耳にした話だ。

「私は、日本のお母さん達が望むことをずっとやっていると、本当に“産む機械”になってしまう可能性があると思っています。仕事が大変だからミルクにするしかない、保育園を24時間にしてほしい…、そんな要求を100%全て真に受けて聞いていくと、お母さんと子どもが触れ合う時間が何も無くなってしまうでしょう。本当に女性が活躍できる社会にするためには、ただ働く母を増やせば良いというわけではないのです。母親たちの働き方が、自由で多様であるべきだと思います。」

女性起業家に送られる初のアワードは、現地時間の6月29日に決定する。

今から数時間後には、光畑さんのプレゼンテーションもスタート。日本の女性起業家が新設のアワードを獲得する、そんな快挙を期待したい。