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バンコク中心地の爆発テロから3日 平穏が戻りつつある現地の様子は

藤村美里TVディレクター、ライター
(写真:ロイター/アフロ)

バンコク中心地で起きた爆発事故から3日。

事件後すぐに再開した鉄道をはじめ、その他の交通機関も学校や職場も、事件以前と変わらない日常に戻っている。

だが、犯人とみられる人物の写真が公開されているだけで、大きな手がかりは未だにない。

タイ国内でも、様々な憶測が飛び交うようになった。

  • テロが頻発した2年前のように、政治闘争の再燃か?
  • 軍事政権に反対する勢力の抵抗か?
  • マレーシアとの国境近くで起きている、イスラム勢力の影響か?
  • 中東で活動するISISが、バンコクまでを標的としたのか?
  • ウイグル族の強制送還について不満を持つ者の犯行か?

その内容は様々だが、事件直後からずっと、タイ人が口を揃えて言っていることがある。

「この爆発テロに関しては、犯人はタイ人ではない。」ということだ。

==エラワンを爆破するなんて、タイ人にはできない==

事件が起きたのは、バンコク中心部にあるエラワン寺院。

日本でも『願いが叶うパワースポット』として有名な観光スポットだ。手軽にお参りができ、さらには異国情緒も味わうことができる、初めてバンコク観光客が必ず訪れるような場所。だからこそ、日本人にとっても身近なところだとして、大きく報道されている。

外国人観光客だけではない。タイ国民にとっても、ここは大切な場所だという。

エラワンがあるのは、数多くのタクシーやバイクタクシーが行き交う大通りの交差点。ここでは、信号待ちで止まるわずかな間でも、エラワン像の方向を向いて手を合わせる、そんなドライバーの姿をよく目にする。

タイ人にとって、手を合わせて祈りを捧げることは特別なことではない。

普通に道を歩いているときでも、突然止まったかと思うと、隣にある小さな祠や奉られている神様に手を合わせる。ホテルやマンションにも小さな祠が置いてあり、毎日お供え物をしたり、手を合わせたり…。

そんな人たちが、ここまで大きな規模の爆発テロをあの場所で実行するのだろうか。

「タイ人の犯行ではない。エラワンに爆発物を仕掛けるなんて…そんなこと、タイ人にはできない。」

実は、そう断言している人は少なくない。

では、一体誰が、何のために起こした事件なのか?

動機がはっきりしない、不可思議な爆発事件

2年前、タクシン派と反タクシン派の政治闘争により、デモや爆発テロが起きていたことは記憶に新しい。軍事政権になって安定していたものが、また再燃したのだろう…という視点の報道が日本では多かったように感じる。

しかし、バンコク在住のタイ人にインタビューを続けていると、そうではないと考えている人も多い。

まず、2年前に続いていた爆発事件とは規模が違いすぎること。

そして、エラワン廟を破壊するような爆発を起こすこと、外国人観光客を巻き添いにする場所を選ぶメリットがないこと。(2013年〜2014年にかけて起きていた爆発事件は、外国人を狙った物ではない)

また、現在の軍事政権に反対する人たちの犯行ならば、今回の事件を起こすことによって、治安維持を理由に軍事政権が長引くという可能性もある。要するに、誰も得をしない事件だという意見だ。

その観点から、マレーシアとの国境付近で争いが続いているイスラム系の組織や、強制送還してしまったウイグルや中国との関連も疑われていたが、現在のところタイ警察はこの可能性は極めて低いと判断している。

動機が全くつかめないせいだろうか。バンコク市内では「その日のうちに、犯人は国外逃亡している。」という噂まで出ているのが現状だ。

この程度の証拠で、犯人が捕まるとは思えない、と既にあきらめの声も聞こえはじめた。

SNSで広まった#Stronger Together という言葉

今回の爆発事故により、多くのイベントは延期が決まった。日本のアイドルが出演予定だった『Japan Expo Thailand(ジャパン・エキスポ・タイランド) 2015』も中止となっている。

こうなってくると、バンコク市内では緊迫した雰囲気が続いているのではないかと思われがちだが、実際は不思議なほど平常時に近いと感じる。

誰に聞いても「気をつけているから、大丈夫。」という言葉が返ってくる。『大丈夫、問題ない』という意味の『マイペンライ』に代表されるタイ人の気質が現れているのだろうか。それとも、『大丈夫』だと思いたいのだろうか。

SNSなどで多くのタイ人にシェアされている画像。
SNSなどで多くのタイ人にシェアされている画像。

ここ数日で、SNS好きなタイ人の間で広まっているのが、#Stronger Togetherという言葉だ。タイの国旗にこの言葉をのせた画像がFacebookやTwitter、Instagramなどでシェアされている。プロフィールを一時的にこの画像にする人も出てきた。

今回の事件を皆で乗り越えよう、という雰囲気がある。

もし今後しばらくは爆発事件が起きないようであれば、バンコクの治安は再び安定し、微笑みの国に戻るだろう。

しかし、もし同じ規模の爆発がもう一度起きてしまったら…。

そうならないためにも、なんとか今回の事件が起きた理由を見つけてほしい。

なぜ、罪のない人たちが犠牲にならなければならなかったのか、ということを。

TVディレクター、ライター

早稲田大学卒業後、テレビ局入社。報道情報番組やドキュメンタリー番組でディレクターを務める。2008年に第一子出産後、児童虐待・保育問題・周産期医療・不妊医療などを母親の視点で報道。2013年より海外在住。海外育児や国際バカロレア教育についても、東京と海外を行き来しながら取材を続ける。テレビ番組や東洋経済オンラインなどの媒体で取材・執筆するほか、日経DUALにて「働くママ1000人インタビュー」などを連載中。働く母たちが集まる場「Workingmama party」「Women’s Lounge」 主宰。Global Moms Network コアメンバー。

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