【連載】17歳の殺人者 第52回 刑務所に入れてしまえば少年法は終わり

目次へ

刑務所に入れてしまえば少年法は終わり

事件発覚当時、当然のようにまきおこったのが少年法改正論議である。昨年(九七年)起きた神戸連続小学生殺傷事件を契機に少年法のあり方が再び大きく問題になっているが、当時もいまも同様に叫ばれているのが厳罰化だ。たとえば一八歳以下の少年にも成人と同様に死刑を適用すべき、との論調である。

「死刑にせよという世論もありましたし、被害者やその親御さんの気持ちを考えますと、当然のことかとも思いました。私も死にたいと思いましたが、それもよく考えますと、自分で自分のことを殺すわけですから、思い止まりました。

大人よりも軽くするということは、これからの人生を前向きに社会に復帰できるようにということだと思います。親としましては、(少年法によって)軽く済ませてもらってうれしいということもありますけども、解決しないと思う部分もあります。長くても短くても、教育がなされないわけですから、同じことだったのではないでしょうか。刑務所がしてくれたことというのは、罰を受けて刑に服していただけだと思います。刑務所に入れてしまえば少年法はそこで終わり、あとは刑務所の管轄で切り離されてしまうのですから。ほんとうなら、いろいろな心のケアといいますか、精神的にいろいろな面で教えていただきたかったというのが親として思いが残っています。悪いことしたから罰としてただ入れておいて、刑に服して出てきたら、ただ生きてるというのじやなくて、なにか世の中のために生きるようになってほしいと思っています。人様まかせみたいなものですけど……」

神戸連続小学生殺傷事件を、どう聞いたのだろうか。

「詳しくは知りませんけど、こういう事件が起きると、すぐ加害者の気持ちになってしまいます。やはり、加害者の側は亡くなられた方に申し訳ないとわかっておりつつも、自分たちは世間様にも顔むけできないし、かといって死ぬわけにもいかないので、やはりたいへんだと思います。どこに行ってもそんな気持ちは変わりません。生きていくのはたいへんだと思います。

私は、息子が関わってしまったあの事件がありましてからは、よその人とお話しする機会をつくることやお付き合いすることをできる限りしないようにしております。職場や近所の方と世間話をするぐらいで、付き合いを少なくしているのです。それに、私の親戚や兄弟に迷惑をかけちゃいけないということがありますから、特別なことがない限りたずねて行かないです。むこうさまの娘さんや息子さんの結婚とかいろいろありますし……。あまり顔を出したくないのです。

前のところに住んでいるわけにはいきませんから、けっきょく逃げるかたちでいまのところに引っ越してきました。当時、私の兄弟が言ってましたが、(私の)目つきは異常だったそうです。

いまでも、前に知っている方にちらっとでも会うと、頬がプレるんです。痙箪するんです。家賃や生活費を稼ぐために勤めておりますけれども、職場では同僚やお客さん相手ににっこりしたりして仕事をしておりますけれど、罪の意識といいますか、重い鉛がからだの中にあるみたいで、いつも心は晴れないんです。だから、死刑とか、厳罰とか言われなくても、裁かれなくても、心がいつもどこか重いのです。生きていて、鉛があるように重いのです……」

そう言って、Dの母親は言葉を震わせた。小柄なからだが小刻みに震えているのが、私に伝わってきた。私が何度かDの母親に会った時間帯は、いつも深夜の一時近かった。仕事を終え、閉まる寸前の銭湯にあわただしく入ってきたDの母親と、近所のカラオケボックスで話し込んだ。

目次へ

電子書籍で本書の購入を希望の方はこちら