【連載】17歳の殺人者 第48回 忌まわしい過去を一歩一歩たどる

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忌まわしい過去を一歩一歩たどる

●一九九○年某月某日

事態が急展開。カズキから連絡があった。私に会いたいと言う。事件の公判内容について知りたいのだそうだ。かれによれば、「鑑別所にいる間は穴だらけの新聞を読まされた」のだそうだ。つまり、当事件についての記事だけ取り除いてカズキに渡されていたらしいのだ。かれは私に対して、公判記録をすべて見せること、ぜったいに氏名などを公表しないことなどを条件に取材を受けることを約束してくれた。「藤井さんがまだどういうヒトかわからないので、まず信用するところから始めたい」と言う。もっともだ。

●一九九○年某月某日

毎日のように私の「通院」がつづく。公判記録の複写を二回分ずつぐらいずつ持参して、カズキに渡す。かれは前に渡しておいた記録を私に返す。この繰り返し。かれは分厚くて、読みづらい記録を朝方ぐらいまでかかって読んでいるのだそうだ。布団をあたまから被り、ちいさなライトを照らして、ページをめくる。母親が着替えを持って来室したときに見つからないように、ベッドの下に隠した。

会うたびに次に会う日取りと時間を決めた。その時間に私がタクシーで行き、病院の前で待つカズキを拾い、近くのファミリーレストランにはいって食事をした。ときには病院の屋上で話しこむこともあった。

看護婦には「ちょっと買い物です」と言って出てくるそうなのだが、いつばれるかはらはらした。じっさい、一~二度、看護婦経由で母親にばれた。猛烈な抗議電話がかかってきたカズキも「ばれました。もう会えません」とその度に電話をしてきたが、数日経つと、「だいじょうぶです。また(記録を)持ってきてください」と私に請うた。

カズキは自分の忌まわしい過去を一歩一歩たどるような気持ちで公判記録を読んだと言った。とうぜん、自分の名前やおこなった行為も記されている。いったいあの悲惨な出来事はどうして起きてしまったのか、自分以外の少年たちは何を考えていたのか、そして自分はなぜ取り返しのつかない過ちに参加してしまったのか。カズキは自分を激しく責めながら考え抜いた、と言う。

●一九九○年某月某日

けっきょく、のべ一カ月ちかくにわたって、私はカズキをたずねていることになる。

「公判記録をぜんぶ読んで、ジブンのなかで整理してから、藤井さんにすべて話します」という彼の言葉に期待して、通いつめた。いつもどおり、ファミリーレストランにはいった。すると、かれが「じゃあ、話します」と言って、まくしたてるように、事件にかかわるようになったきっかけから、現在にいたるまで克明に話し出した。

テープレコーダーは使わないというのも、かれが取材を受ける条件の一つだったので、私はあわててペンをノートに走らせた。およそ二時間。「これで、全部です」と言って、かれから話を打ち切った。

●一九九○年某月某日

カズキと会う。私のほうからさまざまな質問をするためである。かれは言った。「人を殴ることとか、リンチすることとか、いじめることにくつに理由はないんですよ。ただ、むしゃくしゃするっていうか……」。理由のない暴力ほど、おそろしいものはない。理由がないということは目的もないということ。だから止まることもないのだ。

少年たちは理由のない暴力をいたるところで受けていた。父親。母親。教師の体罰。部活での先輩からの暴力。上級生にからまれる。そして、警察。いわれなき暴力は循環し、再生する。どこかで、だれかが、ひとつでもこの悪循環を断ち切っていく努力をしなくてはならない。

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