【連載】17歳の殺人者 第44回 「バカなので」

目次へ

「バカなので」

Dは八九年十二月十四日の弁護人質問にこう答えている。

弁護人:いま、お母さん、君のところに面会に来てる?拘置所のほうに。

「面会というのは会う、あれですか。いえ、会ってはいないです」

弁護人:君のほうで、お母さんに来るなという手紙を出したことある?

「はい。ぼくに害なので」

弁護人:お母さんが来るとなんで君に害なの?

「ぼくの性格がちょっと変になりますし、ぼくのそこでの生活にも影響するので」

弁護人:お母さんからね、君は愛情を受けていると思う?

「愛情ですか……。わからないですが」

弁護人:わからない。

「言葉の意味がよくわからないのです」

弁護人:愛情というのはなにかというその言葉の意味がわからないということ?

「言葉の……よくわかんないです」

弁護人:拘置所に小学校三年生ぐらいからの参考書をいれてもらっているよね。いま、どこまで進んだ?

「いまはちょうど五年生の中間ぐらいだと思いますが」

弁護人:これは君の意思でいれてもらったんでしょう。どうして、小学校の三年生から勉強をやり直そうと思ったの?

「バカなので」

弁護人:君が知識がないから、もう一回やり直そうと思ったわけ?

「そういうのは、思ってないですが……。ただ、バカなので」

弁護人:バカなので、小学校三年生からやり直すというのは、どういうことなの?内容がよくわからないんだけど。

「バカなので」

弁護人:小学校の三年生からやり直せば、そういうのがバカじゃなくなるという意味?

「いや、そういうのはわからないんですが」

弁護人:とにかくやってみようと思ったの?

「とにかくやってみようとかじやないんですが、……ただバカなので」

弁護人:Fさんのことについて聞くけれども、今ね、事件のことについてどう思っている?

「いま、考えて悪いことをしたと思っています」

弁護人:将来どういうかたちでそういう反省を表したいと思っている?

「わからないので……」

弁護人:考えてる?

「考えても、わからないので……」

「バカなので」を繰り返すD。自らを表現できぬ悔しさや苛立ちがにじむ。Dの十七年間の人生で、はじめて重たい心の扉をたたきつづけたのは、皮肉なことに加害者としての自分を弁護するS弁護士だった。しかし、そのノックは判決までの期限付きのものだった。

ゴロウが拘置所でDと面会したときのことを話してくれた。

「こっちの生活慣れたか、とかジブンから話しかけました。Dはおれってバカでしょって。バカだよ、おれはって……。涙ぐんでました」

Dがゴロウに言った言葉は自分を呪っているのか、自分をそうさせた大人たちを憎んでいるのか。気持ちを上手く表すことができないもどかしさなのか。

S弁護士は最終弁論でこう締め括った。

〔私たちが被告人の弁護人となったのは、被害者の遺族らの悲しみを理解できないからではない。被告人らの行為に怒りを感じないからでもない。被告人らの行為を大目に見てもらうためでもない。「自分はなにをしたのか」、なによりも、このことを被告人によく考えてもらうこと。そして、どのようにすることが被害者やその遺族らに対して誠実に責任を取ることになるのかということを考えてもらうこと。そのことを裁判手続きの過程を通じて考え抜いてもらうこと。その手助けをすることが、私たち弁護人の目標だった〕

目次へ

電子書籍で本書の購入を希望の方はこちら