【連載】17歳の殺人者 第39回 ファミコンの画面を見つめる目

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ファミコンの画面を見つめる目

S弁護士は初めてDを警察の留置所に訪ねたときの印象を私にこう語った。

「すごくいい子だと思った。新聞報道の知識だけで行ったから、もちろん新聞には正確に書かれていないだろうと感じつつも、ひどい事件だなという思いで行った。だから、どんなにかひどい、すさんだやつに会うのだろう、と思っていた。だけど、ぜんぜん予想と違っていたんです」

そのとき、S弁護士は、中学を卒業してから、どんな生活をしていたのか、などいくつかの質問をDに向けている。すると、次のようにDはいくつかの返事をした。

「高校は一週間で行かなくなった。高校は最初から行きたくなかったけど、お母さんが行けといったから。お母さんが勝手に願書を出した」

「定時制高校は九月に中退した」

「やめてから、友だちのお父さんがやっている空調設備取りつけの仕事をその友だちといっしょにやってた。スーパーのレジ打ちもやった」

少し幼稚っぽいとは思ったが、私の質問にはちゃんと答えるんです、とS弁護士。「いい子だなあ、ほんとうにこの子は本件にかかわっているのかな、と思ったぐらいです」。

しかし、Dが鑑別所に移ってからも面会を重ね、事件へのかかわりやD本人の内面に話が及ぶようになると、S弁護士はある違和感を抱くようになってきた。

「それはなにを質問しても、こちらの目をじっとそらさないで見て、うなずいてばかりいるんです。普通なら周りのいろいろなものを見ながら話をするでしょう。でも、Dはそうじゃない。私はそれをまじめな子というふうに見ていたのですが、どうもそうではないんじゃないか、と思えてきたんです」

S弁護士はそんなDのふるまいについて、ひとつの仮説を立てる。

「Dはファミコン中心に生活があった。一日中やっている。Cの家に出入りしていたのもそのせいです。Dは本当にゲームやファミコンが好きなんです。私とドラクエどこまで行ったとかいう話になると、表情が明るくなるんです。私はそこで気づいたんです。もしかしたら、Dがじっと私の目を見るのはファミコンの画面を見ているのと同じじゃないかと……」

そのころ、S弁護士はDの送致記録(検察・警察の取り調べ調書)に目を通して、驚いた。そこにDの言葉としてあるのは、「知りません」「見てません」「なにも考えてませんでした」というようなものばかりだったからである。

「普通なら(リンチなどにまきこまれそうになって)怖いと感じたら、逃げ出せばいいし、一一○番するとかするでしょう。それをしないで目の前で起きていることに自分が関係しないと思えるのは、ファミコンの距離と同じなんじゃないだろうか、と。

かれの会話は人と人が向かいあって理解し合うためのものじゃない。Dは人と話して、喜んだり、泣いたりするということができるようにならなきゃいけない。そうじゃないと、事件について反省することもできない。いくら事件とのかかわりが薄いとはいえ、被害者の痛みを重みとして感じられない。感じる素地がないんです。私はいままで多くの少年事件を扱ってきたが、そんなのお目にかかったことがない」

再び二月一七日の公判から。

弁護人:Fさんはいろいろな酷いことをされたよね。それを君は見た?

「いえ、ずっと見てないです」

弁護人:じゃ、どこにいたの、君は。

「僕はあんまり見たくなかったのでドア側のほうにいたから……」

弁護人:ドア側というのは、C君の部屋の入口のドアのこと。

「はい、そうです」

弁護人:そこのドアのところでどっちを向いていたの?

「ドア側です」

弁護人:ドア側を向いてそれでなにをしていたの?

「なにもしてないです」

弁護人:じゃ、Fさんにこういう暴力を振るうことを君はどういうふうに思っていたの?

「いえ、なにも思ってないですが。いやだったので見なかったんです」

「いやだなあと思っても、Aらの誘いを断る主体性がなかった。誘われてでも、監禁の現場に行っているということは大人の常識で見ると、少なくとも積極的に事件にかかわっているというふうに映る。でも、本人は"関係ない"とか"まきこまれた"という自覚しかない。そのことの悲しさを私は主張したいんです」

そうS弁護士は私に言うのである。冒頭陳述で氏はこう述べた。

〔被告人は小さいときからいじめられ続けて来たために、強い者に弱く、これに迎合して生きるという考え方が身についてしまった。自分が攻撃されるかもしれないとなると、これを避けるために、より弱い者を攻撃することを厭わないという考え方になってしまった。本件について見ると、被害者が自分よりはるかに弱い立場にあることを十分に承知していながら、目分の身を護るために、被害者に対して過酷な暴力を振るったのである〕

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