【連載】17歳の殺人者 第38回 6.少年Dの告白 「なにも考えてないです」

目次へ

6.少年Dの告白 「なにも考えてないです」

一九九○年六月二五と二六日の両日。弁護側の最終弁論がおこなわれた。

四人の加害少年たちは身動きせずに法廷の床を見つめている。傍聴席から見ていちばん右側に座る、「ナンバー4」と言われているDも背中を丸めていた。

検察側が提出した論告要旨には、Dの個別的情状について次のように書かれている。

〔被告人Dは、小、中学校を経て、都立高校定時制に進学したが、一学期で中退した。中学校時代は家庭内暴力を繰り返し保護観察に付されたことがあり、また高校中退後は折り畳み式ナイフを所持したり、出身中学校に投石して、窓ガラスを割るなどした件で検挙されており、早くからその反社会的性格を顕している。

のみならず、同被告人は、極めて凶暴であり、本件殺害行為以外にも積極的に関与している。同被告人の犯行において、被告人Aらに追従して敢行した面があることは否定できないが、被害者に対し他の被告人に劣らず執拘に殴る等の暴行を加え、同女が死亡した当日には鉄球つき鉄棒を使用して被害者の背中、腹部等を殴るなどの行為に出ており、右暴行は被害者の死亡にも大きく影響したものと思料され、被告人の刑責は重いと言うべきである〕

この検察が作成した「D像」について、Dの弁護団の一人であるS弁護士は私に言った。それは検察がDというコインを表側から見たものとすれば、S弁護士の見方は真裏から見たものだった。

「たしかにかれのやったことは重大です。しかし、かれは自分から事件に積極的に関わったという認識はなく、まきこまれたという認識しか持てていない。つまり、目の前でひどいことがされていても、自分には関係ないと思い、"おまえもやれ"と命令され、断るとあとで殴られるから、その恐怖心から自分もいやいや加わる。自分でことの善悪を判断できず、人に流されるまま動いてしまう。自分に直接関係がないと思われることについてはなにも考えないに等しい。そんな少年を刑務所にいれてもなんの効果もない。少年院でじっくりとカウンセリングを受け、人間らしい感情を取り戻さなくてはならないんです。かれは自分が犯した罪に苦しまなければならない。事件当時と同じ状態だとそれができないのです。それでは罪を償うこともできない」

八九年二月一七日の公判。

Aらが被害者の女子高校生の女性を「ヤクザに追われている一などと脅かし、Cの家の前まで連れてくる場面について、DはS弁護士の質問に次のように答えた。

四人の人間関係を再度おさらいしておくと、DはそれまでAらとはまったくと言っていいほど付きあっていない。その日、DはたまたまCの家にファミコンをやりに来ていた。DはCの兄と中学の同級生であった。しかし、接点がないわけではなく、姉はAの恋人だったし、半年ほど前にAから公園に呼び出されたりは柔道の技をかけられ、三針ぬうけがを負わされていた。DにとってAは、恐怖の対象だった。

弁護人:(Aは)Fさんを脅かすようなことを、そういうことを言葉で言ってなかった?

「ヤクザが外にいっぱいいるとか、そんなようなことを言ってたと思いましたが」

弁護人:それを聞いて君はどう思いましたか。

「いえ、特になにも思ってないです」

弁護人:特になにも思ってないと言うけど、ヤクザが周りにいっぱいいたら怖いじゃないか。実際にヤクザがいると思った?

「いえ、なにも思ってないです」

弁護人:その話をしたときに、Fさんは怖がってた?

「いえ、怖がっていたようには見えませんでしたが」

弁護人:君はそれからずっとそこにいたのかな。

「いえ、いないです」

弁護人:どうしたの。

「家に帰って、寝ました」

弁護人:Fさんのことを、なんというかな、心配したりということは、Fさんはどうなるんだろうというようなことは考えなかった?

「なにも考えてないです」

弁護人:Fさんが監禁されているというふうなことを、逃げられないようにCの部屋に閉じ込められているというふうなことを感じた?

「いえ」

弁護人:FさんがAに騙されて連れてこられた、というふうなことは考えましたか。

「いえ、考えてないです」

C宅から自宅に明け方に帰ったDは、たっぷりとまる一日近く睡眠をとる。そして、また翌日、ファミコンをやりに再びC宅へ出向くが、Cの部屋にいる女性を見て「お、いるのか」と思ったぐらいで、女性がそこに泊まっていたのだということさえ意識しなかったのだと言う。Dと女性はいっしょにファミコンをやった。

翌日の夜もファミコンをやるためにDはC宅へ出かけて行く。四人のほかにカズキとヒロがいた。最初に女性を輪姦した日である。夜中になり、D以外の連中が騒ぎだした。急に誰かが女性に抱きつき、驚いた女性が「やめて」と言うと、Aが布団を女性の頭から被せ、下着を脱がせてしまった。

弁護人:Aは本当に四人にFさんのことを強姦させると思ってた?そのとき。

「いえ、分からないです」

弁護人:なんで分からないの。

「いえ、元々嘘言っているか、本当言っているか分からない人なので」

弁護人:そのときも本気で言っているかどうか分からなかった。

(うなずく)

弁護人:君たちにみっともないことをさせて、で、おもしろがってるところで終わるかとも思っていたわけ?

「いえ、思ってないです」

弁護人:じゃ、その後、強姦しかないじゃない。

「いや、なにも思ってないです」

弁護人:どうなるか先のことは考えなかった。

「先のことは考えないです」

Dの答えの大半は「なにも考えてないです」である。その場に居あわせながら自分には関係がないと感じられるものなのだろうか。そこにいるのに、いないと思うことのできる分裂した感覚。「支配者」の意思にしばられ、コントロールされるだけの空洞化した身体なのか。

目次へ

電子書籍で本書の購入を希望の方はこちら