【連載】17歳の殺人者 第36回 「そんなに悩んでいたんだったら相談してくれれば」

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「そんなに悩んでいたんだったら相談してくれれば」

Bが拘置所の面会室で「いちばん楽しかったころの友だち」と私に語っていたケンジは、いつも笑みを絶やさない。年齢のわりに、大人びた雰囲気がある。ケンジの髪型はゆるいパーマをあてた七三分け。白い開襟シャツ。ブルージーンズ。

Bがケンジと知り合ったのは中学三年のとき、同じクラスになったのがきっかけである。

私はまず、ケンジにBの初対面の時の印象をたずねた。

「中三のころは、たまに話したりはしてたんですけど、それほどつるんではいなかったんですよ。あの学校(東綾瀬中学)はちょっとのことで教師たちが生徒にリンチするから、おれは学校行ってなかったんですよ。Bが先生に"(ケンジを)呼んでこい"って言われて、おれんちへ来て、ちょっと話したりはしてました。あいつはちゃんと学校へ行ってたんですよ。まじめっ子というんじゃなかったけど、スポーツマンって印象でしたね。つるむようになったのは中学校を卒業してからです。おれんちがみんなのたまり場だったんですよ。そこになんかのきっかけでBも顔をだすようになったんです」

綾瀬駅前の喫茶店もたまり場になっていて、Bとケンジは必ずと言っていいほどいっしょにいた。

「いっしょにいて、楽しかったんですよ。とにかく、やさしいやつでした。とても友だちを気づかうやつでした」

おれらのグループはまとまりがあった、とケンジは言う。「少しでも意見の合わない者は絶対にグループに入れなかった」から、というのがケンジの分析だ。その上、意外なことを口にした。

「Bとつるむようになってから、おれはだんだん悪いことしなくなったんですよ」

ケンジは中学を卒業直後に少年鑑別所を体験している。恐喝で逮捕されたが、家裁で保護観察処分になったのだった。

「そのあとはビリヤードやったり、綾瀬の駅前で夜中にうまとびやったりしてました。駅から帰ってくるおじさんたちが、汗かいてやってるおれたちを見て、なつかしそうに"オー、うまとびかあ"なんて言ってました。いきなり、やろうぜって感じで始めたんです。ほかにも、綾瀬二丁目全体を使って鬼ごっことかしてましたよ。シンナーとかやろうもんなら、仲間じゃなかったです。それに、Bはふつうのやつにはないところがあるなあ、と思ってました。友だちにも礼儀正しいし、約束は守りますし、一時期おれんちに十日間ぐらいかなあ、家出かなんだかわかんなかったけど、寝泊まりしてたことがあったんですよ。そのとき、あいつのいた部屋に行ってみると"いままで泊まってて悪かった。いままで、泊めてくれてありがとう"って書き置きしてあって、ああ、こいつは普通のやつとは、少しちがうなあって思いましたね」

Bと顔を合わせることが少なくなったのは、ケンジが綾瀬から引っ越す前後からで、しぜんと縁遠くなった。Bはいままでの仲間をはなれて、監禁の部屋の主Cとつき合うようになっていたのだった。

「さびしいって気持ちはありましたよ。なんでおれの家に来ないのかなって。でも、向こうは向こうで楽しいんだろうなと思ってました。そのころBには彼女もできてたから、そっちに忙しいのかなって……」

Bはけんかがきっかけで高校を中退する。再び定時制高校に通うがうまくいかない。母親との関係も悪化の一途をたどった。

それらのいらだちが募っていって家庭内の物にあたるようになる。前述したが、ある日自宅の壁を叩いていたBを見た母親が一一○番通報したことにより、母親との関係は一気に崩れてしまう。

ケンジは「監禁」のことを知っていた。

たまたま道でBとぱったりと会ったとき、なにげない会話のなかでそのことが出てきた。Bは、監禁という言葉は使っていなかったが、「女子高校生を部屋に連れてきている」とケンジに言った。

それ以来、ケンジはBに会う機会があれば忠告していた。

「B、はやく、帰したほうがいいぜ」

そのたびにBは「わかった」と答えた。はじめて女子高校生の存在を知らされてから十数日後に再び邂逅したとき、「帰した」とBは具体的に返事をしたため、ケンジはひと安心していた。

しかし、Cの部屋ではまったく逆のことが進行していたのだった。ケンジは事件をテレビで知る。いきなり、見覚えのあるCの家が映った。「まさか」とケンジは身震いした。とっさにBはどうしたのだろう、と思った。が、Bが殺人に関与していたことは明白だった。

「あのとき、Bは嘘ついてたのかって。そんなに悩んでいたんだったら相談してくれればって。前だったら、これからの将来どうしようかって、二人で話してたのに。いい職業つきてえなあとか、でも中卒じゃだめかもなあとか……」

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