【連載】17歳の殺人者 第31回 「あって、ないような関係だったんじゃないかと思います」

目次へ

「あって、ないような関係だったんじゃないかと思います」

綾瀬に住む、在日コリアン三世であるジホン(仮名・二○歳)は、幼いころから日本人に対して偏見をもっていた。なぜなら近所の日本人の少年たちから、「チョウセンジンが来た」などとはやしたてられることが多く、蔑視されていると感じていたからである。日本人への偏見は、子どもの頃から植えつけられた差別の反動だった。道ですれちがうと理由もないのに睨み合った。衝突が起こりそうになると、ジホンは自分の兄弟と近所の幼なじみの同胞と徒党を組み、防衛した。

日本人少年たちの、在日コリアンや中国人に対する差別感は根強い。日本人以外のアジア人はみな「チョウセンジン」とひと括りにして呼称し、「チョウセンジンはこわい」「チョウセンジンはすぐにけんかをうってくる」「チョウセンガッコーに近寄るな」という差別意識は代々受けつがれている。日本人ではないというだけで、敵なのだ。じっさい、ジホンが通っていた朝鮮学校の生徒と日本の公立学校との争いは絶えない。「チョウセンジンにけんかで勝った」となると、仲間から一目置かれるようになるという。

ジホンは東京朝鮮第四初中級学校に通い、中学からは千代田区にある日本の公立中学に越境、同時に地元の私塾へも行きはじめた。その塾には、当時対立関係にあった東綾瀬中学のグループも来ていたから、ジホンは休み時間も一人でだまってテキストに目を落としていた。

日本人ばかりのなかで、ジホンは誰とも話さないでいた。

その東綾瀬中学生たちのなかに、Bもいた。ジホンはBのことをこう回想する。

「じつは、ぼくに最初に声をかけてくれたのはBだったんです。Bはぼくが対立していたグループとは一線を引いていたようだったから、うまくパイプ役をやってくれようとしたんだと思う。声をかけてくれたときは、すごくうれしかった」

Bは一年の二学期にはいったころ、塾から姿を消した。「いい印象を持っていたのに、残念でした」とジホン。

Bがやめてからも、ジホンは何度かBに街なかで会ったりした。最後に会ったのは、Bが逮捕される一カ月ほど前。お互い、「元気でやってる?」と声をかけあった。

「ガラがめちゃくちゃ悪くなっていた。青年ヤクザという感じだった」

事件が発覚したことはテレビで知った。Cの家に女子高校生が監禁されていることは知らなかった。

「Bは小学校のころから、"不良"としては認められないところがあって、グループからは離れていた。だから、自分の位置っていうか、いっぱしのワルだってことをまわりに認めさせるには、Aといっしょにいなくちゃだめなんだっていう気持ちがきっとどっかにあったんだと思う。でも、BはほんとうはAのことが好きじゃない。いくら悪ぶっても、女の子を監禁するなんてこと、いいと思ってたわけじゃない。Aとかかわりたくないから、"帰したほうがいい"とは言えなかった。意見を言うとかかわることになるから。だから、あって、ないような関係だったんじゃないかと思います」

いまは韓国に留学中のジホンだが、当時のことはまるで別世界で起きていたことのようだ、と回想する。

「学校同士で、なめられたくない、というプライドのようなものがあるんです。"おれは○○中のだれだれだ"って言いながらけんかするとか、"おれを○○中のだれだって知ってけんか売ってんのか"ってなる。けんかとかが強くて、名前が売れてくると、"おれは○○中のだれだ"って言うだけで、道を開けられるようになる。そうすると、もっと仲間とか特に女の子たちから人気を取るためにむちゃくちゃなことをやりだすんです。アブナイこと、命を落とすようなことをやってのけたやつが、人気が上がる。ネンショウ(少年院)やネリカン(練馬少年鑑別所)を出てくるとハクがつく。それも、窃盗とかより、傷害ではいったほうがかっこいいんです。でも、やってるうちに自分のやってることがわかんなくなってくる。このぐらいやっても大丈夫だ、と軽く見てしまうようになってきて、自分で自分にブレーキがかけられなくなるんですよ」

ジホンは、「自分たちの世界を抜け出そうとしない」かれらの幼稚さを説明した。年齢差や腕力だけで築いたプライドだけで生きていこうとする。肥大化したプライドはぜい弱で、淀みに溜まった水の中でしか通用しない代物だ。水は外部へと流れず、少しずつ腐っていく。

「みんな、たいした夢はないし、生活だってうまくいってない。遊びたいのにきつい仕事しなくちゃいけない。同じ歳のやつはへらへらと遊んでる。だから、このままじゃだめだとか、でもいまさら勉強したくない、っていうジレンマばかりがたまってくるから、じゃあ、自分の将来のことを考えるのをよそうってことになる。だったら、中学やそのまえからの友だち関係のなかだけで、生きていけば楽だよね。地元を出なければ、後輩にはでかいカオできるし、そのままツッパリの世界にいたほうが楽なんだ。ここから出て行かなきやって思っているんだけど、自信がないから出れない。でも、反面いつも、でっかいことやりたい、男をあげたいって悩んでいるんだけど、その方法が見つからないんだと思う」

目次へ

電子書籍で本書の購入を希望の方はこちら