【連載】17歳の殺人者 第30回 「あのひとたち、大事なもんていうのがなかったんですかね」

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「あのひとたち、大事なもんていうのがなかったんですかね」

「最近、シメる人がいなくなったから、わけのわかんないやつがよそから来て、悪さしてるんですよ」

こういらついているのはサトシ(仮名・一八歳)だ。東綾瀬中学出身。Aの一つ先輩にあたる。足立区内の工業高校に席を置いているが、ほぼ欠席状態である。アルバイトで大工の見習いをはじめたばかりだ。

シメる人、というのはAのことである。サトシは学校や街なかでAに守ってもらっていたという自覚がある。Aは後輩だが、力関係は逆だった。Aは「サトシだけには手を出すな」とあちこちでふれまわっていたと言う。

たとえば、街なかでサトシの友だちが一方的にAに挨拶する。「ナンダ?おまえ」とAはいぶかる。「ハイ、サトシの友だちです」と答えると、「おう、そうか」と面倒をみてもらうことができた。この街でなにかトラブルにまきこまれそうになったら、Aの名前をだせばいい。だから、サトシにはAは「やさしいアニキ」という印象がつよい。

「Aさんたちがあんなことになっちゃったのは、やっぱ"男"を上げたかったんじゃないですか。目立つの好きだったし。それを綾瀬のやつだけじゃなくて、ほかの街のやつらにも知らせたくて、死刑とか、そんなんになるなんて思ってもなかったんじゃないですか。Aさんたちにはいろいろとかわいがってもらったけど、いまは東綾瀬中っていうと、"ドラム缶"の後輩かってことになって、なにするかわかんないって、だれも手を出してこないんですよ。

思うんですけど、あのひとたち(Aらのこと)、大事なもんていうのがなかったんですかね。女とか、なんでもいいと思うんですよ。夢とかね。おれはそれをさがしてるから、今は怖くてケンカできませんよ。卒業してからバカやってませんもん。アタマかち割られたくないですよ。アタマ、ハゲにして許してもらえるなら、そうしますよ」

サトシと居酒屋に行った。サトシが後輩を呼び出し、一〇分もしないうちに三人がすっとんできた。横のテーブルでは男女十数人がコンパをしている。ときおり聞こえる会話からすると、高校三年生らしい。

サトシは地元の顔見知りらしいが、声もかけようとしない。男が十人。女が五人。「あいつらは○○高校へ進んで……まじめっ子なんだよね」

サトシが私に言った.かれらは勉強ができたクチらしい。身なりはこざっぱりしていて、ラルフローレンのボタンダウンシャツをこざっぱりと着こなしている子が半数近くいる。泥で汚れた仕事着をはおっているサトシたちとは対照的な服装。

サトシの後輩たちは席に着くなり、かれらに敵意を剥き出しにしていることは私にもわかった。

「なんか、おまえら文句あんのか」

こう、後輩たちがからんでいったのは、それから一時間もたたない頃だ。

むこうは十人ほどいるが、多勢に無勢という感じではなかった。相手は完全に震え上がってしまっていた。「なんだ、おまえ」と襟ぐちをつかみあげられ、「べつに……」としか答えられない。

「やめとけ」とサトシが後輩を諭し、その場はおさまった。私はサトシに「あとはよろしく」と言い残して駅に向かった。しかし、「おさまった」と思ったのは私の思いこみにすぎなかった。

後日談によると、結局、サトシの後輩たちは相手を連れ出した。男たちは女を帰した。女の前でけんかに負けるとはずかしいからだ、というのはサトシの理屈である。けんかなれしているサトシの後輩たちは、一度にかかってくることができない棒立ちの男たちをつぎつぎに殴りとばしていった。そこにどこからかサトシの友人がとんできて、「おれの知りあいだから、やめてくれ」と懇願した。サトシらはそれで拳をさやにおさめた。暴力にとくに理由はいらない。「ナマイキだ」と自分で自分の行動モードを暴力モードに切りかえるだけで十分なのだ。

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