【連載】17歳の殺人者 第29回 「おれも先輩から、やれとか言われてたらたぶんやってたと思う」

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「おれも先輩から、やれとか言われてたらたぶんやってたと思う」

古びた二階建て木造アパートが密集している。道路をへだてた反対側には町工場や印刷所が軒を並べている。そんな街の一角に、シゲル(仮名・一八歳)は暮らしていた。シゲルは足立区内の中学を卒業したあと、職を転々とし、いまは無職である。

数日前、練馬少年鑑別所から出てきたばかりである。逮捕、入所の原因は恐喝と傷害。パチンコ店から出てきたところの大学生を仲間二人で脅し、現金およそ三万円を奪い、相手の顔面を一発殴った。

「鑑別は退屈だった。夜とか寝る時間がすごく早くて、寝らんないの。布団ひくのが六時くらいで、消灯が八時だった」

女子高校生の監禁殺人を犯した少年たちとは顔見知り程度だった。街でAに会えば、シゲルからあいさつをしていた。

上下ともわざと色おちさせたジーンズ。スニーカーは踵をつぶして、ひきずって歩いている。シゲルは鑑別所で経験したことを、私が聞きもしないのに一人でしゃべりつづけている。チッ、チッと歯のすき間から、ひっきりなしに唾液を路面に飛ばす。

「はじめは、個人部屋で二日間すごして、それから集団の部屋に移って、そこでけんかした。なんかジブンに単車を一○万ぐらいで売ってくれるっていう野郎がいたんだけど、それがいま警察に没収されてるやつだって言うから、そんなんただでよこせとか言ったら、その野郎がどこどこの暴走族のアタマとかぬかすんだよね。それが嘘くさかったから、腹たってぶっとばした。そしたら、次の日ばれちゃって、それでまた単独の部屋に審判日の十日前から移されたんですよ」

シゲルが小学校三年生のとき、夫婦のいさかいがもとで、母親は蒸発。その母親が鑑別所のなかでむかえた息子の誕生日にとつぜん姿をあらわした。

「とつぜん来た。誕生日の前日。もう、びびった。なんで、おふくろがここにいるのかなって信じられなかった」

母親はシゲルに、まず、「誕生日おめでとう」と言った。

「今日、誕生日だってこと覚えてる?とか言われた。そんなこと聞かれて、おれは、どうも、とかって答えた。出ていったばかりのころは会いたかったけど、だんだん日がたって忘れてた。でも、いま会ってよかったなって。鑑別のなかで会ったっていうのは、あんまり嬉しくなかったけど、自分のこと覚えててくれて、嬉しかった」

シゲルはしきりに照れた。

「かあちゃんは、自分が家に帰ったらいなくなってた。その前の日、家の中がなんかうるさいなあと思ったら、親父とけんかしてた。かあちゃんが出てったあと、親父もけっこうつらそうだった」

母親が姿を消してから、父親はシゲルと二つ下の弟を連れて、一軒家から2DKのアパートに越した。

「かあちゃんがいなくなって、帰る時間とか決まってたのに、そういうのもなくなって、遅く帰ったりするようになった。やっぱり家に帰って誰もいないと、つまんないから」

月に数回程度サボるぐらいだった中学生活も、二年生になると、一週間に半分ちかく休むようになった。休んだ日は、家でごろごろしていることが多かった。夜になると、仲間とゲームセンターに入りびたった。

「高校行く気は最後まであったけど、先生とかに無理だとか言われたから。半分あきらめてた。成績悪いし、学校とかでも悪いことけっこうしてたから。先生にしょっちゅうおまえなにしに学校に来てるのかって叱られてた」

父親も母親がいなくなってから仕事を転々とした。それまでは、従業員十人ほどのプラスチックの成型工場をきりまわしていたが、折からの人手不足で倒産。晩酌の量も以前より多くなったように、シゲルの目には映った。

シゲルはCの家に女子高校生が監禁されていることは噂で知っていたと言う。

「おれも先輩から、やれとか言われてたらたぶんやってたと思う。殺すまではしないと思うけど……。やっぱり、殴れとかそういうこと言われたら、先輩とか怖いからやってたと思う」

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