【連載】17歳の殺人者 第20回 被害女性を落としこめた、悪意のエアポケット

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被害女性を落としこめた、悪意のエアポケット

Aの公判証言をワタル(仮名・十七歳)という少年に伝えた。ワタルはAの一つ後輩にあたる。Aが「極青会」を旗揚げするまえまではいっしょに遊び回った仲だ。現在は建設会社で働きながら、夜間高校に通っている。黒いポロシャツに細みのジーンズ。右の手首にはシルバーのブレスレット。ワタルは冷静な男だ。とり返しがつかない事態にまきこまれる空気を読むと、サッと離れ、自分を守ってきた。

「A先輩、反省してるんでしょうかね」とワタルはつぶやいた。

そう思いたいが、と私が答える。

「あれだけのこと、やったんだから……そうでしょうね。たしかにA先輩は小学校のときから、めちゃくちゃワルかったですよ。小五でパンチパーマですもん。近くの小学校に金属バット持って殴りこみに行ってました。おれも応援に来いって声かけられましたけど、行かなかった。もんじゃ焼き屋さんがたまり場だったんですけど、A先輩はそこのおばさんに鉄板の油かけたりしてましたよ。自分を強く見せたかったんじゃないですか」

――君は事件についてどう思うのか。

「おれに言わせれば、あの連中はたまたま大きな事件を起こしたっていう感覚なんです。ようするに犯罪がだんだんとエレベーターみたいに上にあがって行ったんですよ。最初は恐喝とか傷害で捕まって、それから、ひったくり、婦女暴行、強姦。あの連中はいずれ捕まると思ってました」

――君は女性が監禁されていることを知っていたらしいな。

「オンナが監禁されていることは地元で数十人が知ってましたよ。おれは八八年の十二月の初めぐらいに友だちから聞いたんですよ。"カンキンオンナ"って言われてましたよ。おれも見たことありますもん。コンビニの前でCが連れているのを見たんですよ。うすぎたない女だなって思ったぐらいです。A先輩は地元の連中に、"やりにきていいよ"って言ってました」

Aはやけどをしている女性を車に乗せて何度も連れ出している。その時のことをAはこう証言している。

「暴走族の友だちを集めたことがありました。その中の一人が"ナンパしようぜ"って言い始めたので。"ナンパなんか、することねえや。自分がいま、女、監禁してるんだ"って話したら"うそだろう。見せろ"って言うから見せました」

――君はCの部屋には行かなかったのか。

「ええ、友だちでやりに行こうかなって言ってたやついましたけど、そいつも行かなかった。だって、やったらハマるのわかってたから。やったやつに聞いたら、ほとんどA先輩にむりやりやらされたって言ってましたよ。共犯を増やしたかったんじゃないですか」

――なぜ、だれも親や警察に通報しなかったのだろうか。

「はやく帰したほうがいいってBとかに言ってたやつもいましたけど、"もう帰した"ってBが言うから安心してたんですよ」

――君は監禁中にCやDと何回も話しているのか。

「話しましたよ。でも、話題としては監禁のことはお互い避けてました。恐喝のこととか、そんなことぐらい」

――監禁された女性が死んだということを知ったときはどう思ったのか?

「死んだっていう噂は流れてました。みんな、いつかA先輩なら人殺すだろうって言ってたから、やっぱりやったかっていう感じでしたね。おれらの親たちは"うちじゃなくてよかったね"って言ってました。そのころ、友だちでAからコンクリ詰めにするぞって言われたやついましたもん。それにヒロのことがありますからね。あいつ一カ月入院して安静にしてましたから」

ヒロ(仮名・十七歳)は、監禁直後の二月下旬の輪姦に加わった四人のうちの一人で、Cの中学時代の同級生である。ヒロは輪姦後も一日おきに顔を出し、女性と話をしていた。

ある日、AからヒロはCの部屋に呼び出しの電話をうけた。ヒロが「極青会」にはいらずに、別の「チーム」(暴走族)をつくろうと、冗談半分で誰かにしゃべった話がAに伝わったため、Aを烈火のごとく怒らせてしまっていたのだ。

ヒロは女性の前ではさみで丸坊主に刈られ、Aが出入りしていた暴力団の事務所に連れて行かれそうになったが、すきを見て逃げ出した。しかし、その一カ月後の八八年一月六日、友人の家に隠れていたヒロは見つかってしまう。女性が殺されて二日後である。

Aらはイスや灰皿などでヒロをめった打ちにし、Aはヒロに「僕は一○○万円でも許してもらえないので、川に飛び込みます」という「遺言」を書かせたあと、荒川の放水路に連れて行き、A、B、Cの三人がそれぞれ口にいれていたクッキーを川に投げ入れ、ヒロに泳いで探させた。

ワタルは言う。

「有名な話ですよ。リンチが終わったあとヒロは近くの公衆電話から、タメ(同い年)のやつに"死にそうだ"って電話してきたんですよ。いま思うとA先輩たち、もうひとり殺しちゃったあとだから、怖いものなしって感じだったんだろうけど、相手を殺しちゃうぐらいのケンカはずっと前からしょっちゅうでしたもん」

――「極青会」というのはいったいなんだったのか。

「A先輩が『極青会』を結成したのは、綾瀬で暴走族やりたかったからなんですよ。Bもやりたがってましたしね。『極青会』は極東青少年会の略なんですけど、あれは東綾瀬中学の暴走族なんですよ。A先輩は暴力団の青年部をやりたかったわけではないんですよ。暴力団の使い走りをやらされていたみたいだけど、やめたがっていたんです」

――なぜ、女子高校生を監禁したと君は考えるか。

「ここ(綾瀬)は全員が意気投合すれば、東京で上にあがれるんですよ。○○や××が東京のナンバーワンの暴走族だっていうやつ多いけど、A先輩は綾瀬がどんぐらいすごいかってことを見せたかったんじゃないですか。だからああいうこと、やったんですよ」

Aが虚勢をはるためには暴走族をつくりあげるしかなかった。悪いことをして捕まるのも、ハクをつけるためであり、女性を監禁して地元の仲間に見せるのも、Aが綾瀬という街を「背負って立つ」ための要素だった。そして最後に、階段を踏み外したのではないか――こうワタルは言うのだ。

女子高校生を「監禁」していたのは、A、B、C、Dだけではなかったと私はワタルの話を聞きながら思った。監禁の事実を知りえながら、危機意識を持てなかったというレベルで、ワタルたちも加担していたのだ。

女性が殺されるかもしれないという危機意識を持つことをかれらに期待してもむだなのだろう。それに危機意識を持つことはAらを敵に回すことを意味する。それが「監禁されている女性のことはどうでもいいんじゃないか」と周囲の少年たちを無関心にさせ、女性を包囲し、悪意のエアポケットに落としこめたのだ。

「おれたちの世界だったら、犯罪やって、パクられて、鑑別所でクサいめし食わされて、特別少年院に行くのがかっこいいっていうのがあるんですよ。ハクがつくじゃないですか。街を自信持って歩けるじゃないですか、大手ふって」

そうワタルは言う。

「小学校のときに、プロ野球選手とかパイロットなんかに憧れるじゃないですか。でも、そういうやつにかぎってワルくなっちゃうんですよ。けっきょく両方とも脚光浴びるじゃないですか。だんだん悪いことやっていて、怖くてぜんぜん近寄れないやつがかっこいいってなるんですよ。で、強くないやつは強いやつにつく。だって、もし殴られそうになっても、その人の名前だせば、"そうか"ってことになって、すみますからね」

――B、C、DらがAの手下になっていたのは、かれらの社会で生き残っていくための手段だという割り切った意識がどこかにあったからか。

「学年が一コちがうと命令は絶対だと思ってしまう。けんかが強ければ尚さらですよ。そういうおっかない先輩に殺しちゃえとか言われたら、その場にいたのなら殺しちゃうんじゃないですか」

女性を監禁していることで、自分たちの株をあげたいという歪んだ欲求。そういう「ハク」をつけることでしか、自らの生きる場や存在をたしかめることができなかったのか。

Aら四人、もちろんワタルも含めた、かれら「不良集団」は無秩序な暴力集団であると同時に、しかし腕力の強弱や「ハク」の程度、学年などに依拠した貧困な価値観に呪縛され、身動きがとれない不自由きわまりない集団だった。自由を求めてアウトローになったのではない。

そこを生き抜くかれらなりの知恵が「なにも考えないこと」ではなかったか。「なにも考えない」ことは防御であり、目を閉じた状態と同じになる。眼前で起きることはすべて自分に無関係で、自分の行動は絶対強者のコントロールで決定される。絶対命令下では、人とモノとの区別はないのだろうか。人間の命は紙クズと同じ重さしかないのだろうか。

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