【連載】17歳の殺人者 第19回 十四歳以下だったら、なにやっても刑務所に入らなくていい

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十四歳以下だったら、なにやっても刑務所に入らなくていい

コウジ(仮名・一八歳)はトラックの運転手をしている。足立区内の中学を卒業してから、先輩の紹介で就職した。手取りは三○万をすこし切るくらい。中学時代から亀有を地盤とする暴走族の特攻隊長をやっていた。一八歳になったから、暴走族は「卒業」した。

「事件のあと、よく仲間と話したんですけど、あいつらスジ通ってないって。女に手を出すなんてサイテーのやつらですよ。おれたち悪いことさんざんやったけど、ぜったい女には手を出さなかった。もし、そんなことをしてバレたら、ただじゃすみませんよ。あいつら不良じゃなくて、ただのナンパでしょ。男のやることじゃないですよ」

黄色のブルゾンに黒いスラックス。よく磨かれた革靴。とれかけたパンチパーマ。

話しているあいだに何度もポケットベルが鳴る。仲間からの呼び出しらしい。鳴るたびに公衆電話に行き、小銭をズボンのポケットからせわしなく取り出しては、電話機に放り込む。相手が電話に出ると、「おう、コウジだけど」とドスの利いた声を出す。

「走りとけんかだけ、スジとおしてやってりやいいんですよ。そうすれば、下はついてくる。でもさ、Aはステッカーやマッチを売ったりしてカネを稼いでいたんでしよ。ハンパですよ」

コウジは足を組んで、喫茶店の椅子にふんぞり返るようにして座っている。

「Aが『極青会』やる前に、地元の族のアタマみたいな連中が十人ぐらい中心になって、グループをつくってた。『金星会』って言ってました。とにかく、ケンカの強いやつばっかで、ヤクザでもなんでもこいって感じで、こわいもの知らずって感じだった。このへん走るんなら、一○○万はらえ、とか平気で言ってましたもん。そのグループの名前のはいったステッカーとかマッチとかを一個一○○○円ぐらいで売ると、もうかる。で、それを売ってもらったほうも"やった、売ってもらえた"って喜ぶ。買ったやつがよそ者になにか悪さをされたときは、そのグループがケツもってくれるし、かわいがってくれた。それに、バイクとかカバンにそのステッカーを貼ってれば、背後に『金星会』がついてることになるから、安心して遊べるし、『金星会』の誰々さんと知り合いなのかって一目おかれることにもなる。生きていく知恵みたいなもんです」

Aは悪知恵がはたらいた、とコウジは同じことを何度も言う。Aの狡滑さを認めているのか、それともどこかでバカにしているのか、微妙なニュアンスなのだ。

「いちどマッチやステッカーを買ったやつには、こんどはやりもしないパーティー券も売りつける。ここまでくると恐喝っぽいけど、その券は知り合いや友人のツテ関係にしか売らなかった。どうしてかって言うと、もし、警察にたれこまれても、恐喝じゃないって言えば押し通すことができる。でも、学校のセンコウとかにチクって、それがばれて、探しまわされて、けっきょく綾瀬にいられなくなったやつとかいましたけどね。

へ夕をうって、Aの恨みを買うともうここでは生きてられない。Aが自分を探してるっていうことは、それは殺されるってのと同じぐらいのことなんですよ」

コウジが早口でまくしたてる。

「あいつはクチがうまくて、先生ともうまくやっちゃう。だから、教師ともめたっていう話は聞いたことがないんです。表裏の使い分けがうまかった。ハッタリと脅しを使い分けて、のし上がっていったんですよ」

コウジは小学校のころから、ツッパリに憧れていた。勉強は中学に上がるころから、「さっぱりわからなかった」と言う。

有名になりたかった。どんどんけんかをして、相手をぶっとばせば、地元で名が売れる。そう思って、てあたりしだいにけんかを売っていった。

「暴走族の集団に時速一○○キロ近いスピードで突っ込んで行く。しらふじゃ、できないから、アンパン(シンナー)とかやってから、行くんですよ。"テメエら、おれらァ、○○中のコウジって知っててけんか売ってんのかあ"って怒鳴りながら、木刀ふりまわして、ぷん殴ったり、蹴飛ばしたりする。そのときは自分が死ぬんじゃないかとか、相手が死ぬんじゃないかとかなんて考えないですよ。けんかのときは相手をつぶさなきゃ自分が殺されるんですよ」

コウジは、「一四歳以下だったら、なにやっても刑務所に入らなくていいという法律」をわかった上でやっていた。少年法のことである。Aも同様だった。

コウジたちはあらゆる悪行をつくしてカネを稼いだ。綾瀬駅前のゲームセンターでバールで両替機をこじ開け、バッグに小銭を流し込んだ。店番が食事を買いに行っている間がチャンスだった。喫茶店に逃げ込んでは、山分けしていた。まわりの若者たちは、注意しようものならなにをされるかわからないという恐怖から、見て見ぬふりをする。警報器がとりつけられるまで、コウジたちはやり放題だった。

「アンパン」は常習だった。

「アンパンと女には手を出すなっていう掟みたいなものがあるんだけど、そんなものは無視っていうか、眼中にない。赤まむしの瓶とかが二○○○円ぐらいで買えて、一日でなくなる。やったことないやつなんか、ほとんどいないんじゃないですか」

空を飛ぶ夢をよく見た。死んだっていいと思った。アンパンで勢いをつければ、どんな恐ろしいことだってできた。

「だから、Aはアンパンのやりすぎで、ついにやっちまったかって思った。おれじゃなくて、よかったとも思いました。そのときは自分がやっていることに気がつかないから、やったあととか、覚えてなくて、あとから友だちに"おまえ、ヤバかったぜ"とか言われて、そうだったのか、ってわかったりとかね。そりゃあ、相手が怖いときとかあるから、そういう気持ちから逃げるためにアンパンやったりする。で、とにかくからだを張って人より悪いことをやれば、それが何倍にもなってかえってきて名前が売れるんですよ」

事実、Aもシンナーを常用していた。

コウジが学校に改造した特攻バイクで乗り付けることはあたりまえだったらしい。学校にはほとんど行かない。たまに行っても、授業中でもおかまいなしにガラッと戸を開けてはいって行って、仲間と集会の打ち合わせをして帰る。教師は恐ろしくて注意できない。

「おれらに注意なんかしたら、その場でぶっ飛ばされるどころか、夜道とか歩けませんよ」

私は、コウジに「人を殺してしまいそうな時はなかったのか」と問うた。君の話を聞いていると、命を奪うのも落とすのも簡単な気がする、と。

「簡単っていうか、たとえば、走りのときに道ばたにいるだれかに注意されたりするじゃないですか。そういうときって、相手がひとりでもふたりでも、ふつうのオヤジでも若いやつでも、なんかめちゃくちゃアタマにきちゃうんですよ。そのときだけ、自分が正義になったっていうか、文句つけるほうが悪いって感じになっちゃって、みんなでボコポコに木刀とかでぶん殴っちゃう。ムカついてやっちゃうんですよ」

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