【連載】17歳の殺人者 第18回 「人が苦しんでるのも楽しいと思ったんです」

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「人が苦しんでるのも楽しいと思ったんです」

一九九○年四月二三日。最終の弁護人質問にAはこう答えている。序章ですでにことわったことだが、「Fさん」とは被害女性のことである。

弁護人:罪の意識ということだけど、Fさんをいじめたり、残虐なことをしていたときに、君たちに罪悪感はなかったわけ?

「悪いということは分かっているんだけど、悪いことをするのが当たり前になっていて、感覚が麻陣していたと思います。頭では悪いことをしているとわかっていても、悪いとは思いませんでした」

弁護人:ライターで火をつけたりとか、性的にものすごいひどいことをしたでしょう。そういうことをするときも、悪いけども構わないんだというような気持ちだったのかな。

「悪いことがジブンには楽しいことだから、相手がどうだろうとジブンがよければいいという考え方でした」

弁護人:どういうふうに楽しかったんですか。

「悪いことによっても違うんですけれども、Fさんが痛がっている姿を見て、なんかおかしかったり、そういうものもありました」

弁護人:人が苦しむのを見るのが楽しいという気持ちなの?

「楽しいというか、人が苦しんでるのも楽しいと思ったです」

弁護人:そこら辺が世間の人たちになかなか分かりにくいし、僕自身の気持ちのなかでも、君の気持ちを受け止めるとこでも大変なんだけれども、いつごろからそういうふうになっていったの?

「ジブンは小学校五年生ぐらいから、悪いことはかっこいいと思っていたから、どんなに怒られても、口では反省してても全然心では反省してませんでした」

弁護人:悪いことをすると、どうして格好いいんだろう?

「ジブンが小学校六年生ぐらいのときから、ジブンは三つ上の、悪い不良と呼ばれてる中学校三年生の先輩とよく遊んでいて、よくその先輩たちの"覚醒剤と殺人以外はみんなやった"と言うのを聞いていて、ぼくと友だちの二人~三人で、"じゃあ、おれたちは大きくなったら、殺人も覚醒剤もやってやろう"と話していました」

弁護人:それは本気でそう言ってたの、冗談で言ってたの?

「ジブンは本気で言っていました」

弁護人:そのころから、そんなこと本気で考えてたの?

「川俣軍司という通り魔事件があって、その川俣軍司物語というやつをなんかドラマかなんかでテレビでやってて、それを友だち数人で見て、感動したというかなんか……、なんと言うんだろう、人を殺すのが格好いいというふうに小学校のときは思ってました。人が出来ないことをやることは格好いいんだ、ということを思ってました」

弁護人:六年のとき、卒業の文集に"少年院の院長になりたい"と書いてたよね。だから、五~六年生のときはいろんな考えが揺れてたのかな。

「ジブンは悪いことをいっぱい経験したから、悪いことをした人たちの気持ちがわかるんじゃないか、と思い、少年院の院長になって悪い子を更生させるんだとか、そういうことを考えていました」

弁護人:罪の意識といっても、わかりやすくいうと、人の痛みがわかることだと思うんだよね。相手に殴られて大けがをしたこともあったね。他人も痛いだろうな、という感覚はなかった?

「やられたら、倍にして返してやろうと、仕返しのことばかし考えていました」

弁護人:いままで審理を受けてきたなかで、Fさんとのやりとりのなかで、この際、どうしても言いたいことがあったら言いなさい。

「ジブンとBとCの三人で、夜中だったと思うんですけど、Cの部屋にはいったときにFさんが倒れていて、おなかを押さえていて、Bはすぐにふとんにはいって寝ちゃったんですけど、Fさんはジブンの顔を見るなりすぐに"お水、お水をください"とすがるように頼んできました。そのときCがぶどうパンをたべていたので、Fさんに水とコーンスープとCが食べていたぶどうパンをあげました。水をあげたら"ありがとうございます、ありがとうございます"という、水が飲みたかったら下に降りて飲めるんだけれども、ジブンたちが脅かしていたから、Fさんは下に行って水一杯飲むこともできなくて、ジブンたちの来るのを待っていたという。(中略)ジブンたちがやった暴行のことが次々と頭のなかに浮かんできて(独房のなかで)外が暗くなってくると、自分がやったことに自分が追いつめられてくるというか、それはきっと被害者が成仏できなくて、ジブンたちがおこなった数々の細かい暴行の話をしていないから追ってきているのだな、といつも考えます」

弁護人:そのお水のことがひとつ言いたかったんだね。

「はい。あと、十二月(八八年・監禁中)の五日ぐらいだと思うんですが、東中野駅で電車の追突事故があって、"あの電車にお前の親父が乗っていて死んだぞ"と言いました。"どんな気分だ?"と言うと"悲しいです"と言いました。"嘘だよ。どんな気分だ?""うれしいです。生きていてよかった。ほっとしました""いや、本当は死んだんだ"そんなふうにFさんがどんなことを言っても揚げ足をとったり、突っ込んだりして、被害者がどうしようもなくなったことをいつも考えています」

弁護人:それを言いたかったんですか。

「はい。あと、武田鉄矢の『声援』という歌に"がんばれ、がんばれ"という歌詞があって、いじめて、それを歌いながら"お前も歌え"と歌わせました。Fさんはジブンたちが言っていないときにも、ちいさな声で"がんばれ、がんばれ"と、自分に言い聞かせるように言っているときが、何回かありました」

弁護人:だんだん目を開いてきて、自分たちのやったことがどんなにひどいことだったのか、わかってきたのですね。

「夜、暗くなると外から声が聞こえてきたりします。まだ言ってないことを全部言わなければいけない、そのことを言っているのだなと……。被害者がのたうちまわって死んでいる姿とかが次々と頭の中に浮かんできて、そういうことは考えたくないけど、考えなきゃいけないという、もうひとりの自分みたいのがいる、いつもそういうことばかり考えています」

Aが弁護人にあてた手紙に次のようなくだりがある。

〔ジブンのやったことは、もう死刑じゃないとおかしいと思います。でも、心のどこかでヤケになっているところがあるのと……やっぱり生きてみたいという気持ちもあるし……〕

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