【連載】17歳の殺人者 第12回 草むらに捨てられていたコンクリート詰めのドラム缶

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草むらに捨てられていたコンクリート詰めのドラム缶

深夜○時近く、東京・江東区若洲一五号埋め立て地では、数十台のバイクがうなりをあげていた。

木材埠頭に通じる大型トラック用の道路のL字コーナーを、カラフルなカラーリングをほどこしたレーサーレプリカが一○○キロ近いスピードで走り抜ける。サーキットさながらの迫力である。両手で耳をふさぎたくなるようなエグゾーストノイズ。ツーストロークエンジン特有の、オイルの焼けるにおいが鼻をつく。

一○○メートルほど先の転落防止用バリケードのむこうには黒々とした東京湾が広がる。目にはいる建物は輸入木材保管会社の倉庫ぐらいで、雑草が生い茂り、冷蔵庫や家具などの粗大ゴミが捨てられている。夜になると、暴走族の集会場と化したり、ゼロヨン族やローリング族のレースコースになる。

そこにある木材保管会社に勤めて一四年目の警備員は、八九年の一月初め、自宅から自転車で職場に向かう途中、道路脇の草むらに赤茶けたドラム缶が放置されているのを見つけた。

「おかしいな、昨日までなかったものがある。変だな、と思ったが、どうせ、どこかの土木業者が捨てて行ったんだと思った」

三~四日してから、トラックがやってきて、ドラム缶の脇にコンクリートの残土を捨てた。ドラム缶はその瓦礫にのみこまれるように押され、横だおしになった。ある時、警備員が中を覗きこむと、コンクリートがびっちりはいっていた。まわりにはタバコの吸殻がたくさん落ちていた。

「まさか、あの中にコンクリート詰めの死体が入っていたなんて思わなかったから、事件を聞いたときには、そりやあ、びっくりしたよ」

警備員はバイクを駆る若者たちを横目で見やりながら言う。

「あいつら、うるさいし、事故で仲間が誰か死んでも死んでも走るんだ。おれがこの会社に入って二年目で高校生がバイクで転倒して死んだ。それからおれが知ってるだけで十人以上の若いのがバイク事故で死んでる」

「そんなに……」

と私が言いかけると、警備員はさえぎるようにしゃべりだした。

「このへんは昔からぶっそうなんだ。アベックが海に車ごととびこんで心中したり、自殺の名所なんだ。夜は暴走族の連中が強姦やら恐喝やらやっている。六’七年前には女のバラバラ死体も発見されてんだ。橋のところじゃ、亡霊がでるってんで、うちの若いのが二人もやめたよ」

私は、革のつなぎを腰までめくって小休止している少年に声をかけた.

「目の前の草むらに、女子高校生の死体がドラム缶にコンクリート詰めにされて置かれてあったことを知ってる?」

「ええ、知ってますよ」

「気味悪くないかい?」

「べつに、そんなことないですよ」

高校を中退して、ガソリンスタンドでアルバイトをしているというその少年は、L字コーナーを走り抜ける仲間のバイクを目で追いながら、そっけない返事をした。そして、カウルまたに"ILOVEYOU"とピンクやパープルのマジックで描かれた愛車に跨がると、白煙をのこしてあっという間に「コース」に戻っていった。

ドラム缶が放置されていた場所には、無残な死に追いやられた者の魂を弔うつもりで置いたのだろう、花束やジュースの缶が並べられている。ここが少年らの「狂気」の終着点だったのか。その横を喜々として爆音をたててすっ飛んで行く若者たちの群れ。

私は、別世界がとなり合う境界線上に立っている錯覚におそわれ、この殺伐たる風景に立ち尽くしていた。

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