【連載】17歳の殺人者 第7回 抜け出られない泥沼

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抜け出られない泥沼

その頃、Cの部屋では女性に対する暴力がはじまっていたのだった。

カズキも加わった十一月二八日の輪姦後の十一月三○日、Aは女性の家から警察に捜索願いが出される前に先手を打つ。女性を外に連れ出し、自宅と親友のところに電話をかけさせ、「友だちの家にいるから捜索願いは出さないで」とAは言わせたのだ。

Aは女性にその後も同様の嘘の電話をかけ続けてさせているが、女性は助けを求めるSOSを出すすきをうかがっていた。

十二月初め、女性は意を決して、二階から階下に降り、一一○番したのだった。少年たちは昼寝をしていたが、Aが女性の行動に気づき、「裏切った」制裁としてAとBで女性を殴った。Aはそれでも許さず、ライターのオイルを女性の足首にかけ、火をつけた。

この頃から、女性に対する精神的な虐待もエスカレートしていく。後の章で述べるように、「東中野駅構内の電車追突事故でおまえの親父が死んだ」「じつはウソだよ」「ほんとは死んだ」とからかったり、女性が家に帰ったとき、どこでなにをしていたかを言う練習をさせるなどもしている。

十二月の後半になると女性への暴力はより加速していく。

カズキがAの命令で、地元にある「フラワーフレンド」という花屋の手伝いをさせられているときだ。そのころAは暴力団関係者とつき合うようになっており、花屋はその関係者が経営していた。カズキは、新宿の暴力団事務所の電話番もさせられるようになっており、Aらとの関係を清算するどころか、以前にも増して従順な手下になっていた。

新宿の組事務所にいたAから電話があった。

「カズキ、Cの部屋に見張りに行ってこい」

花屋からCの部屋に行くと、部屋にはDと女性がいた。カズキがAから見張りを交代するように指示されたことをDに説明すると、Dはゲームをやるために階下に降りて行った。

「わたし、どうなるの?」

女性がカズキに聞いてきた。Aが「オレはヤクザだ」と女性を脅していたせいだろう、不安と恐怖が顔ににじみ出ていた。

「ジブンは下のもんだから、それはわからない」

カズキはへたに答えるとあとが怖いと思ったので、そうごまかした。

そこへBから電話がかかる。

「フラワーフレンドに戻ってこい」

再びカズキはフラワーフレンドに戻り、Bといっしょに店番をした。しばらくして、カズキは銭湯に行き、花屋に帰ってくると、Bがだれかと電話で話しこんでいた。会話が終わると、またすぐに電話が鳴り、Bがとった。

「カズキ、亀有の駅前のマックにおれの彼女がきているから、迎えに行ってこい」

カズキはBに命じられたとおりにBの恋人を迎えに行き、花屋に案内すると、今度はCの家に行くようにBが命じた。口調からして恋人と二人きりになりたいようだった。

この日カズキがCの部屋に上がるのは二度目。すると、またBから「フラワーフレンドに来い」と電話があった。行くとBの恋人の姿はなかった。そこにAから電話があり、「六時か七時に行くから、そこにいろ」とBとカズキに指示してきた。

新宿の暴力団事務所から花屋にAがやってきた。Cもいっしょだった。みんなでタコヤキを食べたあと、シャッターを閉めて、Cの家に四人で向かった。道すがらAはCとカズキに「あの車、蹴ってこい」とか「あの女、蹴ってこい」とさかんに命じ、二人はさからわず、Aの言うとおりにした。

Cの家に行く道と、カズキの自宅へ向かう道の岐路に来た。カズキが自分の家の方向に行こうとしたら、Aが声をかけた。

「飯くったら、夜、来いよ」

「わかりました」

カズキは夕食後、寝たふりをして親が寝静まるのを待ち、バイクでCの家にむかう。カズキはAから離れたいという気持ちをごまかしながら、Aたちの命令に身をゆだねていた。

玄関から入り、階段を上がって行ったら、女性が真っ裸にされて、自慰をさせられているところだった。Bが女性の腹部を触りながら、「おまえ、なんか食ってるのかよ」と聞いた。

女性はがりがりに痩せていて、あざだらけだった。BのほかにはCしかいなかった。火傷のあとは、さらにひどくなっていた。逃げだそうとした罰に加え、失禁で布団がぬれたことを理由にBとCが殴り、Aが火傷のあとにライターのオイルをかけ火をつけたのだ。女性が悲鳴を上げ、熱がって火を消そうとパニック状態になるのがおもしろいと、何度もくりかえしていたのだった。

Bがカズキに「やれ」と言った。

「いいですよ」「やですよ」と断ったが、脅す口調で「用意しとけ」と言い残したかと思うと、すぐにポルノ雑誌を持ってきた。カズキは嫌だったがページをめくった。

すると女性が「Cくんは?」と聞いてきた。

ところが、そのひと言にBが怒り出した。女性は少しのあいだ席を立ったCの居場所を聞いたのだった。少なくともカズキにはそう聞こえた。が、BにはCに女性が好意を持っているように聞こえたらしい。「B先輩は妬いたんじゃないか」と、カズキは思った。

「てめえ、Cとやっただろう!」

Bはそう怒鳴ると女性を殴り倒し、喉、首、胸を殴りだした。女性はうめき声を上げながら苦痛に顔を歪める。カズキは思わず顔をそむけた。

女性は泣きながら否定した。言い張るため、さらに殴られる。カズキは目をそむけながらも「気の強い子だな」と思った。Bは殴るのをやめると、「服を着ろ」と言い、女性にCと二人きりになったときのことを詳しく紙に書け、と命じた。

女性は言われたとおり書き出した。カズキがそれを読むと、Cが迫ってきたことがあったが、拒否したことが書いてあった。

カズキはその日以来、Cの部屋には寄りつかなくなる。Aたちとこれ以上いっしょにいてはだめだ、という気持ちが再び強くなってきたのだ。エスカレートする女性へのリンチを目の当たりにしていたせいもある。

土木関係の仕事を覚えはじめたばかりのカズキは、Aらから電話があったら、「おばあちゃんの家から仕事に通っている」と伝えてくれるように頼んでおいた。職場の電話番号は教えないでくれ、と念を押した。

しかし、数日後、どこで調べたのか職場にAから電話がかかる。

「フラワーフレンドに来い」

受話器のむこうでAがすごんでいるのが手にとるようにわかった。

が、カズキはそれまで絶対だったAの命令を初めて無視した。

すると、その日の夕方、友人たちがカズキの家にかけこむようにしてやってきた。

「おまえ、やぱいぞ。A先輩たちが、すっげえ捜しまわっているぞ」

思わず身がすくんだ。生きた心地がしなかった。

会社にはしつこくAから電話があり、カズキが電話口に出ると、いつも同じことを怒鳴った。

「来なかったら、ぶっ殺すぞ!『極青会』にはいったのにかんたんにやめるな。けじめとれ!」

カズキはそれまで相談事などしたことのなかった母親に本当の事情を説明した。すがれるものにはなににでもすがりたかった。ただし、女性がCの部屋に監禁されていることは話していない。

母と息子で考え抜いた窮余の策はファミリーレストランでカズキと母親、AとBの四人で会うことだった。

自分は口出ししないことを母親は約束した。「殴られるのは覚悟しておきなさい」と、母親は息子に通告した。気丈な母親だった。あらわれたAは、やはり親の眼前でも態度を変えることはなかった。

「テメエ!けじめとれ!」

「なんで逃げるんだ!」

そのうちにBが「どうするんだよ」と文句を言いながら、カズキの顔面を殴りはじめた。店の中だろうと親の前だろうと関係ない。Aもテーブルの下で足を蹴ってくる。こらえきれなくなった母親が「やめて!」と叫んだ。すると、その声に驚いた周囲の目を少しは気にしたのか、AとBは暴力をいったんは止めた。

「アニキに恥かかせることは、ただじゃすまないことだぞ」

BはAのことをアニキと呼ぶことがあった。

「今日は来たからとりあえず許してやるけど、夜、気をつけろ。うしろからバットでだれかが殴ってくるかもよ。車で拉致されるかもな。おまえとヒロのリストはまわってるから気をつけろ」

Aはねちっこぐ脅してくる。カズキはただ黙って、殴られた痛みに耐えていた。

「最後にけじめとして、思いっきり外で一発殴らせろ」

Aが言った。母親も、それで終わりなら、と納得した。「お母さんはむこうへ行っててください」とAは母親を引き離し、カズキは駐車場へ連れて行かれた。AとBは文句をたれながら一発ずつ思いきり顔面を殴った。カズキはもんどりうって倒れた。目が腫れあがり、一週間も眼帯が取れなかった。カズキは丸坊主にすることも「けじめ」として約束させられた。

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