もう「リアル」と「ネット」を分ける意味はない Twitterの返信範囲選択機能導入で懸念すべきこと

リプライの制限では「誹謗中傷」はなくならない。(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

 Twitterが2020年8月11日に「自分のツイートに返信ができる範囲を選択できる」機能を全ユーザーを対象に実装した。

 

 新たな会話への参加方法が始まります(Twitter公式ブログ)

 この機能では、ツイートを投稿する際に、以下の選択肢をユーザーが選べるようになっている。

 1)全員が返信(Twitterでのデフォルト設定)

 2)フォローしている人だけが返信

 3)@アカウントで指定した人だけが返信

出典:Twitter公式ブログ

 このうち2と3に関しては、ラベルが付き、返信できないアカウントのアイコンはグレー表示になる。ただ、この設定を利用しても、ツイートの閲覧や、リツイートおよびコメント付きリツイート、「いいね」はこれまで通り使用できる。

 2020年5月よりテストを行っていたというこの機能に関して、Twitter社は「スパムや嫌がらせから保護されていると感じることができるようになった」「この機能により阻止された攻撃的な返信は平均して3件だった一方で、攻撃的な引用リツイートは1件しか行われませんでした。また、望まれないダイレクトメッセージの増加は見られませんでした」といい、利用者の安全性が向上したとしている。

 しかしながら、「悪意のある返信者に別の嫌がらせの手段は見つけられませんでした」と断言しているのは「?」マークが付く。これまで通りコメント付きリツイートが使えるのならばクソリプを送る手段はあるだろうし、ツイートごとの設定になっているために、返信可能な別のツイートに嫌がらせ目的のリプライが寄せられる可能性も考えられる。結果として、ブロックかミュートで対応しなければならないということに変化はないように思われるし、仮にブロックなどをしたとしても、別のアカウントを作成して嫌がらせ目的で絡むというユーザーも出てくるだろう。スクリーンショットを撮って別のウェブサービスで罵詈雑言を連ねるという方法も考えられるので、抜本的な対策になるとは思えない。

ネットの「分断」を加速させる危険性

 

 一方で、デマや事実誤認などを指摘するためにリプライをしたくても出来なくなるという弊害により、より多様な価値観の共有がし難くなり、「集合知」の形成ができなくなるのではないか、という懸念がある。つまり、アメリカの法学者キャス・サンスティーン氏の言うところの「サイバーカスケード」、あるいは佐々木俊尚氏が指摘した「タコツボ化」が進むことにより、同じ意見の人たちだけで集まりコミュニティが形成され、別の意見の人たちとの対立が激しくなる可能性も否定できない。このことは日本経済新聞社データエコノミー取材班が鳥海不二夫東京大学大学院准教授とデータ分析会社ホットリンクの協力のもと日本のTwitter上の投稿状況を分析した「ネット民意 動かすのは誰」を見るとより示唆的だ。

 ネット民意 動かすのは誰(日本経済新聞)

 

 2020年6月11日~7月5日までの投稿状況の分析では、「リベラル・左派」(RT総数109万)・「保守・右派」(同26万)・「専門家」(同17万)・「メディア・ブロガー」(同7万)・「サブカル」(同・6万)を「5大コミュニティー」と定義。それぞれの傾向を比較している。

 注目すべきは、「リベラル・左派」のRT傾向が「(コミュニティー)内部から」が53%と最も多いことだろう。次いで多いのが「保守・右派」の33%で、「専門家」の16%、「メディア・ブロガー」の5%、「サブカル」の3%と比較すると、政治志向の強いアカウントほど、内向き度が高くなりがちというのが見て取れる。 

 さらに興味深いのは、各コミュニティーを構成するアカウント数。「5大コミュニティー」の中で最も多いのは「メディア・ブロガー」の32万で、「リベラル・左派」は11万と最も少なかった。これは「リベラル・左派」のアカウントが他と比べてアクティブだと言い換えることもできるように思える。

 この調査では、投稿やRTなどや情報収集に積極的な「アクティブユーザー」を約1389万アカウントとしており、「5大コミュニティー」のアカウント数は全体の割合で1~2%だという。これは2019年10月に刊行された田中辰雄慶應義塾大学経済学部教授と浜屋敏富士通総研・経済研究所研究主幹の共著『ネットは社会を分断しない』(角川新書)で、「保守・リベラルの一方だけの意見に接する人」は5%以下としていることからも、かなり実感値に近い数字といえるだろう。

 同書によると、「なぜネットの議論は極端に見えるのか」という問いに対して、書き込み数の多い人ほど意見に偏りがあることが理由として挙げられている。例に出されているのが「憲法9条改正」や「原発廃止」というもので、「強く賛成」または「強く反対」という意見を持つ人の書き込み数が多いことを示し、「リベラル・左派」「保守・右派」の書き込み数が人数と比較して多いとしている。そのために極端な意見が目立ち、中間層の萎縮しているという仮説を立て、「ネットを見ていると人々は激しく対立し、世の中が分断しているように感じるが、実際には分断が起きていない」と結論づけ、「ネットで見える世論を真の世論と思ってはならない」と結んでいる。

 

 この「分断」が起きずに「多様性のある意見」に触れることが多くのユーザーは出来ているという事は、「多くの意見を交わすことができる」というインターネットの特性が活かされた結果と見ることができるが、今回のTwitterの選択機能はその根幹を揺るがす危険性があるし、身内での褒め合いに終始するようなネット空間が健全とは言い難いように感じられる。

 

誹謗中傷・嫌がらせの「トリガー」は何か?

 

 Twitterがこのような機能を導入した背景には、リアリティ番組『テラスハウス』に出演していたプロレスラーの木村花さんが死亡した事件を契機に、誹謗中傷がクローズアップされたことも関連しているように思われる(参照)。ただ、木村さんのケースは番組作りに問題があったことも指摘されている。

 今や、テレビなどのマスメディアがネットでのクロス展開をすることは当たり前になっており、『テラスハウス』でもYouTubeなどでコンテンツを配信していたし、エンタメ系メディアが番組の内容を記事として出していた。これにより、木村さんへのヘイトが高まった可能性は否定できないだろう。誹謗中傷をしていたTwitterユーザーへの法的措置に注目が集まっているが、「それを煽っていたのは何者なのか」という視点も同じくらいに重要だし、そもそも「ネット」と「リアル」を分けて考えることにも違和感がある。

 

 現在、新型コロナウイルス感染症に関して、陽性者や医療従事者、クラスターが発生した都道府県民に対して、嫌がらせなどが発生していることが報じられている。

 2020年7月29日に陽性者が初めて確認された岩手県では、ネット上での中傷や差別発言、感染者特定の動きだけでなく、勤務先に約100件もの電話があり、差別的なメールのほか、事業所に直接来て中傷するケースもあったという。

 

 岩手初の感染者に中傷続く 知事「鬼になる必要ある」(朝日新聞デジタル)

 

 また、職員の感染が確認された長野銀行小諸支店では、2020年7月23日に正面入り口横の窓ガラス1枚が割られる事件が発生した。これも岩手県のケースと同様に、企業が感染者の発生を発表してマスメディアが報じたことにより、「リアル」で犯罪行為を犯した人が出たといえるだろう。

 

 長野銀行小諸支店 窓割られる 職員感染との関連も捜査(信濃毎日新聞)

 

 熊本日日新聞によると、4人の新型コロナウイルス感染が確認された熊本地域医療センターが職員に取ったアンケートで、26.3%に当たる109人が「風評被害を受けた」と答えたという。内容は家族に対する出勤停止要請、子どもの登園自粛要請など家庭にも及んでいる。

 風評被害、職員4人に1人 看護師らコロナ感染の熊本地域医療センター(熊本日日新聞)

 こういったケースを見ると、「誹謗中傷」そのものと同様に、「何が誹謗中傷のトリガーになっているか」も重要視すべきだろう。徳島県の場合、飯泉嘉門知事が県外からの「来県をお断りする」を発言。高速道路インターチェンジや観光施設などで県外ナンバーの実態調査を行った。これにより「自粛警察」が大量に生まれ、誹謗中傷どころか投石なども発生。飯泉知事は後に「県外の方であっても誹謗中傷をしていいわけではない」と述べたが、その「お墨付き」を与えるかのような発言がトリガーになったのは明白だ。

 徳島県知事ら 県外ナンバーへのひぼう中傷に警鐘(NHK政治マガジン)

「クソリプ」合戦から「訴訟」合戦に?

 

 もちろんのこと、ネットでの誹謗中傷は許されることではなく、明白に名誉毀損罪なので法的な処断が必要だろう。総務省はプロバイダ責任制限法における発信者情報開示の負担緩和を議論している(参照)が、既にネットでは著名人から「誹謗中傷には法的な手段を講じる」といった投稿が相次いでいる。

 最近では、吉村洋文大阪府知事が、新型コロナウイルス感染拡大防止にポビドンヨードを含むうがい薬が有効とした2020年8月4日の会見が行われた1時間半前に情報を知ったとTBS系『サンデー・ジャポン』でテリー伊藤氏が語り、会見当日の塩野義製薬の株価の動きが不自然なことから、インサイダー取引疑惑が上がったことについて、自身のTwitterに次のように投稿している。

 「吉村インサイダー疑惑なるものは、名誉毀損になりますので、削除されるようお願いします。一線を超えるものは、然るべき対応をとります」というのは、何者かが事前に情報を知った可能性がある以上、「疑惑」が持たれたことには説明責任があり、番組で発言をしたテリー伊藤氏ではなく、Twitterユーザーに告訴を匂わせるというのは筋違いに見えるし、仮に「然るべき対応」を取るならスラップ訴訟との批判を免れないだろう。

 このように、「誹謗中傷」の実態を十分に加味することなく情報開示請求が通るようになれば「別の被害者」を出す危険もある。今回、Twitterが導入した機能などにより、ネットの「ムラ社会化」が加速すれば、Twitterとは別のサービスに舞台を移して、際限ないクソリプの応酬が繰り返される可能性もあり、それがさらに「訴訟合戦」に発展するような事態も想像できる。

 

 折しも、Twitter JAPANの笹本裕社長は『文藝春秋』の取材で、次のように語っている。

 

「(中略)責任転嫁をするつもりは全くないのですが、利用者がこれだけ多くなった今、ツイッターに日本社会の実情が投影されてしまっているという部分があることは、否めないと思っています。つまり、日本社会に内在するヘイトやレイシズムが、ツイッターで表面化しているのではないかと。ですから、社会全体で教育をおこなっていくことも非常に重要なのではないかと日々痛感しています。そういうコンプライアンスや教育についての議論が、ツイッター上で起きてもいいんじゃないでしょうか」

出典:なぜヘイト投稿は放置される? Twitter社長に聞く「削除・凍結しない本当の理由」(文春オンライン)

 

 「日本社会の実情が投影されている」というのは個人的にも同感だ。しかし、リプライの制限をすること自体、「コンプライアンスや教育についての議論」ができる手段をユーザーから奪っているように感じるのは筆者だけだろうか。