心ない『Instagram』投稿が原因? ラフォーレ原宿『テプラ』広告騒動を検証してみる

ラフォーレ原宿『グランバザール』最終日の模様(筆者撮影)

 キングジム『テプラ』をイメージした文字帯がカラフルに彩ったラフォーレ原宿『グランバザール』だが、その広告に対してモデル・アーティストの酒井いぶきさんの作品と酷似しているという声が上がり、『Twitter』でも本人が「私が1mmも関われなかったのは本当に屈辱的だし悲しいし、無力」とツイートして、広告を企画したWieden+Kennedy Tokyo(以下W+K社)とラフォーレ原宿側が釈明する事態へと発展している。

 ※参考 ラフォーレ原宿『テプラ』広告「パクリ」騒動について考察してみる(ふじいりょう)

 ラフォーレ原宿は2020年1月25日に公式サイトに「LAFORET GRAND BAZAR広告につきまして」で「アーティスト様に直接お会いして、ご不快な思いをさせてしまったことについてお詫びを申し上げたところです。引き続き、誠実かつ適切に対応してまいります」と掲載。一方、同日にW+K社はFacebookに「世間の皆さまをお騒がせしておりますこと、心よりお詫び申し上げます」「弊社はアーティスト様に直接お会いさせていただき、作品を再現もしくは模倣する意図は一切ないという点、および今回の企画意図をお伝えいたしました。今後も真摯に対応をさせていただきます」と投稿している(参照)。

 また、2020年1月28日には、酒井さんの所属事務所AMAZONEが声明を発表(参照)。「本件広告の制作及び発表に際し、酒井の作品についてご存知でありながら、事前にも事後にご連絡をいただけなかったこと、当方からの問い合わせ後のご対応について、弊社及び酒井が不快感を覚えたことについてはご理解をいただければ幸いです」(原文ママ)としている。

 ここでは、今回の広告に関して、なぜこのようなことが起こってしまったのか検証を試みたい。

「作品」の類似性についてのW+K社の見解

 筆者の取材に対して、W+K社の広報担当は今回のプロダクトの企画意図として、「コンビニのコーヒーマシン、トイレのボタン、自販機など、日本にはさまざまなものをテプラで説明する文化があります。こういった説明過剰文化に着想を得て、シンプルで洗練されたイメージのラフォーレの広告としてコンセプトと表現を作成させて頂きました」と説明した上で、酒井さんの作品との類似性に関しては「『テプラ』を貼るという手法を採用した以上、幅、色、フォントの種類など表現の幅が制約されます。必然的にビジュアルとして類似してしまうことがありますが、似ていると言われている部分が酒井さんの作品のどこなのかは把握していません。酒井さんの作品と比較したとしても具体的な表現が異なります。(ラフォーレの広告は)過剰な説明コピーやフォントの加工、カラフルな色使いをしており、洗練されたラフォーレのロゴタイプが隠れるようにしていますので、酒井さんの表現とは違います」と、あくまでオリジナリティがあると強調した。

 一方で、酒井さんとは2019年1月に自社の展示施設(現在は閉館)で、ステッカーを発売するイベントを実施したことを認めている。ただし広報担当は「(酒井さんの)広告制作の実績はありません」とも付け加えた。ここに「広告」と「作品」との齟齬が集約されているように、筆者には思える。さらにいうと、彼らが着想とした「説明過剰文化」の中に、酒井さんの「作品」も含まれていたのではないか(W+K社側はこのことについて筆者に明言していない)。

 なお、『テプラ』発売元のキングジムに問い合わせたところ、W+K社より商品名および絵文字等の利用許可依頼があり、「『テプラ』を広告や作品等でご利用いただくことは大変ありがたいことと考えており、同様の依頼については基本的に許諾をしているため、今回も利用を許諾いたしました」とコメント。一方、酒井さんについては、「当社に公認という制度がないため、公認しているとは言えませんが、『テプラ』をモチーフにしたアート作品等を手がけられていることは存じ上げており、こちらも大変ありがたいことであると考えております」といい、製品の提供についても「本人より依頼があり、当社のPR活動として有効であると判断した場合に限り『テプラ』PROカートリッジの提供を行っていました」と認めている。ただ、今回の騒動についてのコメントは差し控えるとのことだった。

問題の把握と、広告制作とテナントの温度差

 この問題を、ラフォーレおよびW+K社側はいつ把握したのか。ラフォーレの企画・制作担当の幹部の説明によると、「プレスリリースを12月23日に出した後に、ご本人からの連絡で認識しました」という。酒井さん側の声明では、「本年1月11日に、複数の知人から酒井に対し、酒井の作品と類似しているのではないかとの指摘を受けましたので、酒井も確認したところ、自分の作品と類似しているという印象を抱き、またラフォーレ原宿様からではありませんでしたが、入居テナント様からのご依頼によるイベントへの登壇やポップアップショップでの委託販売をさせていただくなど、ラフォーレ原宿様とはご縁があったこともあり、お問い合わせをさせていただき、その際に本件広告を担当したのがW+K様だとのご説明をいただき、その後W+K社のご担当の方からもご連絡をいただきました」としているので、この点に関しての齟齬は見られない。

 ただ、酒井さんとラフォーレの関係については、「催事出店実績はないですが、館内テナントでのシールのワークショップ、ミュージアムの物販イベントでブースでのアイテム発売、別の契約先のポップアップショップ(期間限定出店)でルックブックに携われていたことを後から確認しました」という。同幹部は「(ラフォーレ原宿は)おそらく日本一ポップアップショップを実施していて、各テナントでも常にイベントを開催しています。その全てを把握できていないのが現実ではあります」とも述べており、酒井さんからの指摘があるまでは存在を把握していなかったことが見て取れる。

『Instagram』投稿が心象悪化の決定打に

 酒井さん側の説明によると、W+K社およびラフォーレ側との話し合いは2020年1月21日に行われ、「テプラを使用した酒井の作品のことは知っていたが、本件広告はコンセプトが異なるし、インスパイアもされていないので盗用にはあたらないと判断をした」との見解を受け、それについて納得を得られるものではなかったとしている。

W+K様が述べておられるコンセプトの違いが仮にあったとしても、本件広告が酒井の作品と類似しているという印象を受けるものであることは間違いなく、それを過去に仕事の上での接点もあったラフォーレ原宿様及び個展の開催というご縁もあり、酒井の作品のことをよくご存知のW+K様が、これだけ大々的に使用することについて、事前にご連絡をいただけなかったこと、広告という性質上事前の連絡が困難であったとしても、酒井が問い合わせをするまで事後においても全く連絡をいただけなかったことについて、弊社及び酒井が覚えた不快感は払拭することができず、その旨をお伝えしいたしました。

出典:NEWS|AMAZONE

 とはいえ、この時点で酒井さん側は具体的なアクションを起こす意思はなかったという。彼女の態度が硬化したのは、まったく別の理由になる。『グランバザール』開始後の2020年1月24日にW+K社のクリエイティブデザイナーが『Instagram』に今回の広告を担当した旨を投稿(2020年1月29日現在アカウントが非公開になっている)。これを酒井さんが問題視。下記ツイートに発展し、係争が公に晒されることになった。

 酒井さん側の声明では、次のように憤りが綴られている。

1月24日に、本件広告を担当され、21日の会合にも同席をされていたデザイナー様が、インスタグラム上に本件広告についての書き込みをされているのを把握しました。そこでは、酒井の作品への言及は一切なく、面談の際に当方がお伝えした不快感に対する配慮も全く感じられないものであったため、酒井が1月24日から25日にかけてTwitter上で本件広告について発言をするに至りました。しかしながら、今後は酒井が本件について投稿をすることは考えておりません。

出典:NEWS|AMAZONE

 また、W+K社がFacebookに投稿した告知文は、酒井さん側が事前にチェックしたという。そこに「酒井の作品のことは知っていたが、コンセプトが違うので問題がないと判断して発表するに至った旨を加筆していただきたい」と要請したが受け容れられなかったという。この声明からは「これ以上こちらから問題にはしないけれどとにかくおこだよ」という気持ちが随所ににじみ出ている。

情報共有の不足と、SNSリテラシーのなさが原因

 今回の騒動は、W+K社およびラフォーレ社内で情報共有がなされていなかった事が第一の原因に思われる。W+K社の場合、広告セクション(ある意味花形だ)と、展示施設担当(裏方扱いかもしれない)との間での連携が密であれば、酒井さん側からの問い合わせがある前にリスクの所在が明らかになっていただろう。また、ラフォーレもプロモーション担当と、テナント担当との間での共有が十分でなかったことは明らかだ。酒井さん側の声明では、「W+K社」「ラフォーレ原宿」と大きく括っているが、「上」が当初把握していなかったというあたりに「無力」を感じざるを得ない。

 それ以上に迂闊だったのは、W+K社クリエイティブデザイナーの『Instagram』投稿だろう。「物言い」がついている案件について、業績としてSNSに公開投稿すればハレーションが起こる可能性は考慮されるべきで、当人の問題意識が欠如しており、W+K社のマネジメントが配慮を欠いていたとのそしりは免れ得ないだろう。ある意味、余計な投稿で寝た子を起こしてしまったとも取れ、SNSリテラシーの教材と化してしまったとも言える。CMも含めて話題性は十分で、Twitterでも「完成度が高い」という意見も上がっていただけに、一つの投稿によって、あまりにも大きな代償を負ってしまった。

 ラフォーレ原宿は、近年若手クリエイターが参加しやすい施設作りを進めており、ポップアップショップや各テナントでのアーティストを起用したイベントを推奨していたという。前述の幹部は「今後、酒井さんとも何らかの形でご一緒できる可能性を探っていきたい」と語ったが、今回の一件がしこりとして残らないことを祈るのみだ。