ネットネイティブ世代の「お祭り」 アニソン系フェス『Re:animation』が辿った10年間

『Re:animation 12』の一コマ(提供:『Re:animation』)

 2019年12月31日のNHK『紅白歌合戦』。米津玄師の「パプリカ」「まちがいさがし」「カイト」がそれぞれFoorin、菅田将暉、嵐によって歌い上げられた。本人が出演していないにもかかわらず、3曲も国民的番組で流されたのは、ある意味においてネット発のアーティストらしい、インタラクティブ性あふれる演出として記憶にも記録にも残る壮挙だといえるだろう。

 よく知られているように、米津は2009年頃に「ハチ」名義で『ニコニコ動画』で楽曲を発表しはじめ、「結ンデ開イテ羅刹ト骸」「マトリョシカ」「パンダヒーロー」といったヒットを生み出したボカロPでもあった。個人的に「マトリョシカ」は、発表当時のトリッキーな曲調でメッセージ性の高い世界観を歌詞で展開するというボカロ曲の潮流に合わせていて、彼が世に発見される端緒となったことが理解できる曲だと思える。

 

 

 その後に本人名義で活動を開始した後も『YouTube』『ニコニコ動画』などで曲を発表し、2013年のメジャーデビュー後の活躍はここでは触れない。重要なのは、2010年前後に活動を開始したアーティストにとって、動画配信サイトがまず発表の場となっていて、ネットとリアルを自由に行き来しながらパフォーマンスをし続けているということで、今回の『紅白』で本人不在ながら強い存在感を与えたというのは、その延長線上として捉えることができる、ということだ。

 

ネット生配信でリアルを融合させた『Re:animation』

  

 さて、ネットとリアルを行き来するのはアーティストだけでなく、ファンにも同じことが言える。その端緒といえるのが、2010年に新宿・歌舞伎町シネシティ広場(旧コマ劇場前)で敢行された『Re:animation』だろう(参照)。この時の模様は『Ustream』によってライブ生配信され、視聴総数は約8000を記録。これを見て「只事ではない」と感じた人がシネシティ広場に足を運び、『Twitter』でその興奮をツイートで伝えるというケースも少なからずあった。DJたちのプレイも、アニソンだけでなくトランスからハードコアまでさまざまなテクノが大音量で野外に流され、来場者が好き勝手に踊る様子が全世界に観られたという意味においても、エポックメイキングなイベントだったように思える。

 もともと『Re:animation』は、2005年に放映されたアニメ『交響詩篇エウレカセブン』のファンが『mixi』でオフ会をはじめたというのが由来となっている。『Re:animation』オーガナイザーの"ちへ”こと杉本真之によると、その際にアニメのDVD鑑賞やカラオケをして盛り上がったことをきっかけに、音楽イベント『GEKKO NIGHT』を2006年2月に開催。『エウレカ』のチューンだけでなく、各話のタイトルやロボット名の元ネタとなったアーティストの曲もかかり、「テクノやハウスやニューウェーブのパーティーだった」と振り返っている。それが、アニメ全体とハウスミュージックのイベントとして進化したのが『Re:animation』というわけだ。実際、第一回では『エウレカ』のOPソング「sakura」のNIRGILISのメンバー稲寺佑紀がハウスとアニソンをミックスさせたプレイを披露していた。

 

 2010年前後の音楽の裾野を振り返ると、とりわけ『Ustream』『ニコニコ生放送』によって、これまで宅録派だった音楽愛好家が、手軽に自分のプレイを「やってみた」として発表できるようになったというのが大きい。とりわけ、2009年12月24日にDJ Okadadaが『Ustream』で配信したプレイは『Twitter』により拡散。最終的に2200人が視聴し、ソーシャルメディアならば無名でもリスナーが獲得できることの証明となり、プレイヤー・リスナー双方に大きな影響を与えた。同じ年には秋葉原にアニソン中心のDJクラブ『MOGRA』がオープン。ここも初期よりブースレンタルデーを設けて、フロアでプレイする機会をなかなか得ることが出来なかった層に広く開放したことにより、新たな才能を発掘する場として機能していた。そんな中でおうちプレイからクラブへ、クラブという箱から野外へとさらに一歩前に進めたのが『Re:animation』だったという位置づけもできるだろう。

 

 『Re:animation』はその後新宿から中野サンプラザ前、お台場潮風公園と場所を移して開催され続けたが、基本入場無料で開催資金をクラウドファンディングで募るという形を取り続けていた。出資者には優先入場権や特別なエリアでの鑑賞権、「推し」の横断幕やのぼりの掲載権などのプランを用意し、運営側や出演者と参加者との距離が近づけるような仕掛けを重ねてきた。その一方で『アイドルマスター』のステージ(2012年・第4回)や、チップチューンの第一人者・ヒゲドライバーの出演(2013年・第6回)、ロシア好きという特異なキャラクターで知られる上坂すみれ(2016年・第7回)といった人気アーティスト・声優を起用し、メジャーとの架け橋も徐々に強固なものになっていった。来場者も、山梨県上野原の桂川河川敷で開催された『Re:animation 12 in Uenohara』では10000人を記録しており、そのムーブメントはもはや無視できない存在となっている。

フェス色が強くなった『Re:animation 14』の見どころは?

山梨・上野原桂川河川敷からの夕日(提供:『Re:animation』)
山梨・上野原桂川河川敷からの夕日(提供:『Re:animation』)

 そんな『Re:animation』も2020年に10周年を迎え、再び上野原で3月28日・29日に『Re:animation 14』が開催される。今回はチケット制で、VIPエリアやレジャーシート・テントサイトなどが発売されフェス色が強くなっているほか、上野原市のふるさと納税による購入も可能となっているのが特徴として挙げられる。今回、ヒゲドライバー・アニソンディスコ・AJIRIKAといった『リアニ』おなじみのアーティストに加えて、バーチャルYoutuberのミライアカリと、声優・歌手の茅原実里も出演者としてラインナップされている。

 

 

 ミライアカリは、既に『Re:animation 13』でも出演しているが、この時は新木場ageHaでの開催だった。クラブハウスを飛び出して、野外でどのようなアクトを見せてくれるのか。技術面でも真価が問われると思われるので、Vtuberの可能性を探るという意味でも必見だろう。

 

 また、茅原実里は『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』のED「みちしるべ」など、メロウな曲調で歌い上げる姿などが印象的だが、同時に歌手としてのアイデンティティを強く持ち合わせている声優として知られている。アニソンDJイベントでは、「ヲタ芸」を楽しむファンが集うことは当然で、彼女の曲が流れる時も普通に踊られているのだが、Twitterのファンの中からは「異文化」での出演を危惧する声も上がっていた。「自由」を標榜する『Re:animation』で、ファンがどのように彼女を迎えるのかということはイベントのカラー自体が試されているとも取れる。ただ、このようなチャレンジを常に続けてきたというのが『Re:animation』の10年間だったということを、踏まえる必要がある。

 ここまで記したように、『Re:animation』は生配信やクラウドファンディング、ネット発のアーティストやムーブメントを取り入れつつ、メジャーで活躍するアーティストも出演するイベントへと成長してきた。そういう意味では、ネットネイティブ世代が自分たちで作り上げた「お祭り」と捉えることができるだろう。さまざまなカルチャーの「交差点」としての機能も果たしつつ、海外のアニメ・音楽ファン層からも注目されているだけに、「クールジャパン」や「地方創生」という文脈でも考察するに値するのだが、それは別の機会へと譲る。いずれにしても、個人的には「アニソンのイベントだから」という色眼鏡なしに参加する人が増えることを、切に願いたい。

追記

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の懸念のため、『Re:animation 14』の開催延期となった。今後の対応およびチケット購入者への対応は、2020年2月26日に公式ホームページで発表されるとのことだ。