東京では見られないモノもたくさんある!? 美術館・博物館が「地方創生」の役割を果たすための課題

金沢21世紀美術館(筆者撮影)

前回書いた『博物館・美術館に必要なのは「観光マインドを持った学芸員」ではなくPR戦略ではと思う件』がきっかけとなって、2017年4月26日のTOKYO FM『TIME LINE』に出演させて頂いた。テーマは「学芸員が地方創生に果たしている役割」で、パーソナリティの飯田泰之明治大学政治経済学部准教授のおかげもあってリラックスして話すことができた。『Radiko』でも配信しているので、お時間あるという人はこちらでお聞き頂ければと思う。

2017/04/26(水) 19:00-19:52 TIME LINE TOKYO FM(radiko.jp)

ここでは、ラジオで話したことや、時間の関係で話せなかったことを中心に記しておきたい。

山本幸三復興相の「学芸員はがん」発言を端に発した文化行政、とりわけ公立博物館・美術館のあり方だが、そもそも学芸員は忙しい。博物館法第4条第4項には「学芸員は、博物館資料の収集、保管、展示及び調査研究その他これと関連する事業についての専門的事項をつかさどる」とあるように文化財の修復に関わっているし、展示の企画を立てるにしても他の博物館・美術館の所蔵品の貸し出しの交渉もしなければならない。その上で企画展の図録の執筆も担当学芸員の仕事で、筆者のような取材者への対応もしなければならない。

とりわけ期間の長い企画展になると、専門家を招いた講演や市民が参加できるワークショップを開催されることも多い。こういった集客への努力というのは既になされていることを考えると、山本大臣の言う「観光マインド」を持った企画を、地域を巻き込んだ形で出来るだけの人的リソースは足らないというのが現状なのではないだろうか。

また、博物館・美術館職員の待遇の問題もある。2014年の調査では博物館の学芸員数は4738人で、そのうち専任は3235人(68.3%)。全体の非常勤の職員も5619人と多い。正規雇用ではなく、期限つきの契約職員扱いの募集も多く、月給も20~25万円という例も散見される。総じて学芸員の立場が専門性を求められる割に高くはない。

『TIME LINE』の中で、リスナーから次のようなコメントもあった。

実際のところは何とも言えないが、学芸員にもそれぞれ専門分野があり、展示すべてを網羅しているということは稀だ。美術館でのギャラリートークでも複数の専門家による踏み込んだ説明をしているようなところもあるので、来場者に説明が十分に出来るような人員を割けるだけのリソースをかけられるかどうか、現状では厳しい所も多数あるのだろう。

日本が諸外国に比べて文化予算にかける割合が低い(国家予算の0.11%)というのは既に述べた。一方、2014年度の調査で博物館・博物館類似施設(5690施設)の来場者の合計が約28万2億7899万6000人で、一館あたりにすると約64400人(出典)。日本全体におけるアート・歴史文化財に関する知見を広げるという機運が十分に高まっているとは言えない。

その中で、現在開催中の国立歴史民俗博物館の『デジタルで楽しむ歴史資料』展のように、プロジェクションマッピングやVRを駆使し、文化財保護の観点から一般人が擬似的に触れることができるように工夫している。

『美少女の美術史』展(筆者撮影)
『美少女の美術史』展(筆者撮影)

また、博物館・美術館同士での連携の例もある。島根県立石見美術館・青森県立美術館・静岡県立美術館の学芸員3人のユニット『トリメガ研究所』では、2010年度に『ロボットと美術』展、2014年度に『美少女と美術史』展を開催。後者は筆者も鑑賞したが、江戸時代の浮世絵の美人画から現代画家・写真家・美術家の作品まで網羅され、美少女という存在がどのように描かれ受容されてきたのか詳らかにされていた。会場にはマンガ雑誌やフィギュアまで置かれ、オタク・ポップカルチャーとの接続をすることで若者からも関心を持たれるような仕掛けが随所に見られた。

「アートの島」として知られる香川県直島や、金沢21世紀美術館のように現代アートを中心にした動きは、2010年に刊行された山口裕美氏の『観光アート』 (光文社新書)に詳しい。どちらもブランディング戦略の成功例だが、とりわけ現代アートは立体物に広い敷地が必要なケースが多々あり、東京のような大都市では場所の確保が難しい。それだけに現代アートの愛好者が足を運ぶ契機になりやすいという側面がある。どのような作品を収蔵するのかといったことは本来は芸術振興が目的だが、それが自ずと観光にもつながるというのが望ましいあり方だろう。

『魔女の秘密』展(筆者撮影)
『魔女の秘密』展(筆者撮影)

ここで強調しておきたいのは、各地にある美術館・博物館で同じような設計の建物は一つとしてないということだ。つまり巡回展でも各館のスペースに合わせた展示をしている。2015年3月に大阪文化館・天保山で開催された『魔女の秘密展』では、 ドイツ・オーストリア・フランスの30ヶ所以上の美術館・博物館にある約100点の作品のほか、プロジェクターを駆使した魔女裁判や異端審問の再現を行っていたが、2016年2月にラフォーレミュージアム原宿で開催された同展ではスペースが狭かったこともあり大阪と比べて展示物が限られていた。このように、同じ企画展でも地方の博物館・美術館の方が「広さ」を活用して贅沢な展示をしている場合がある。

実際のところ、東京の博物館・美術館だとどうしても有名画家・美術家の個展・企画展が中心になっていて、「変化球」で勝負することはなかなか難しい。ここまで挙げてきたように、地方だからこそできる展示も多い。それを愛好家にリーチするためにどうすればいいのか。各博物館・美術館でも『Twitter』『Instagram』を活用しているケースが増えているとはいえ、まだまだ都心部にまで情報が届いていない、というのが課題といえるだろう。そこには予算の問題もあるし、人的リソースの問題もあれば、各自治体との連携が十分でないといった問題も横たわっている。

番組では飯田准教授が文化財保護が篤志家からの寄付が中心だとして「予算をつけていくのも必要なステップ」と述べている。もっとも、博物館・美術館でも手をこまねいているわけではなく、2016年に弥生美術館で開催された『谷崎潤一郎文学の着物を見る』展では『Makuake』にてクラウドファンディングを実施している(参照)。尖った企画展や集客・収益化に尽力している博物館・美術館への適切な評価がなされるべきだし、地方自治体の予算でPR戦略を立てるといった工夫も必要になってくるだろう。

追記:2017年5月12日

博物館・博物館類似施設の合計の数字に誤りがあったので修正・追記しております。