博物館・美術館に必要なのは「観光マインドを持った学芸員」ではなくPR戦略ではと思う件

国立歴史民俗博物館『デジタルで楽しむ歴史資料』はVRを使用している(筆者撮影)

山本幸三地方創生相が滋賀県主催のセミナーで「一番がんなのは学芸員だ。普通の観光マインドが全くなく、この連中を一掃しないと駄目」と発言したことが問題視されている。山本大臣は囲み取材で「二条城で大政奉還のパフォーマンスや生花や茶会が海外の人から興味を持たれるが、学芸員は全部反対する」と語り、「観光立国として生きていく時、その人たちのマインドを変えていかないととてもうまくいかないと思っている」とインバウンド需要の見地から自説を述べている。

「学芸員はがん。連中を一掃しないと」山本地方創生相(朝日新聞デジタル)

諸外国の文化予算に関する調査報告書(野村総合研究所)より
諸外国の文化予算に関する調査報告書(野村総合研究所)より

まず、前提として2015年の文化庁の予算は1038億円で、韓国の1/2以下。国家予算が占める割合は0.11%と韓国の0.99%と比較して非常に少ないということを踏まえておく必要があるだろう(野村総合研究所「諸外国の文化予算に関する調査報告書」参照)。

また、学芸員は博物館法第四条4で「博物館資料の収集、保管、展示及び調査研究その他これと関連する事業についての専門的事項をつかさどる」とある。当然ながら重要文化財・国宝をはじめとする文化財の保存・保全を第一に考えた企画・展示を行うことが法によって責務とされている。この保存や管理に多額の金額を要しているという現実に対する理解もしておきたい。それ故の制約があるということも(二条城内で茶会とか、火気厳禁だろう)。

その上で、挑戦的な企画を行う地方所在の博物館・美術館は少なくない。千葉県佐倉市の国立歴史民俗博物館が2017年5月7日まで開催している『デジタルで楽しむ歴史資料』では、重要文化財『洛中洛外図屏風』を複製し、それをプロジェクションマッピングで屏風上にキャラクターが登場し京都の名所を紹介してくれるほか、所蔵している明治末期の万年筆や小諸城の絵図録からCGで再現したものを来館者がヘッドマウントディスプレー『Oculus』を利用したVR(仮想空間)で体験できるような取り組みを実施している。所蔵文化財をより深く楽しむために、限られた予算で出来る限りの事を現代技術と掛け合わせた企画展として評価していいだろう。

地方発の企画展がムーブメントとなる事例もある。2012年7月に備前長船刀剣博物館で開催された『ヱヴァンゲリヲンと日本刀展』は、人気アニメの機体やプラグスーツをモチーフにした刀・脇差を刀匠が製作して好評を博し、東京でも上野の森美術館での展示が実現し海外進出も果たした。ここでは平安時代から幕末までの刀姿の変遷や刀装具も同時に展示し、コラボにとどまらず来館者が歴史への関心に向く工夫が随所になされていた。

静岡県立美術館『蜷川実花展』(筆者撮影)
静岡県立美術館『蜷川実花展』(筆者撮影)

巡回展でも、その博物館・美術館の館内を活かした展示を行っている事もある。

筆者は2017年2月1日から3月26日まで静岡県立美術館で開催された『蜷川実花展』を鑑賞したが、圧巻だったのが2011年刊行の写真集『桜』を展示したスペース。壁・床にまで蜷川氏が撮影した桜のプリントで貼り付けられており、そこに写真集にも収められている作品が掲げられているという、震災時に取り憑かれたようにカメラを向けたという蜷川氏の意思を見事に再現してみせた空間になっていた。これは公立美術館ならではの広さと蜷川氏の事務所、そして担当学芸員のこだわりがなければ実現できなかったと思われる。蜷川氏は東京でも小規模な展示を数多く開催しているが、ここまで贅沢な空間作りができるのは地方の美術館ならではと言えるのではないか。

このように、地方まで行かないと見ることが叶わない企画展は全国で開催されているし、その影には学芸員の企画力がある。学芸員としての本来の役割である収集・保管・調査研究といったことだけでなく、展示方法に趣向を凝らしたものは、むしろ地方の方が多いのではないか。総じて学芸員は自分の役割以上のことを求められて、なおかつそれを果たしているように筆者には思える。

ただ、このような企画展の多くは後援としてクレジットされている地元新聞社・テレビ局を中心に広告・広報がされており、それが全国規模で知られる機会が少ないというのが現状で、遠方より足を運ぶ以前に開催が都道府県をまたいで「知られる」ことに対して、手が回っていないというのが筆者の印象になる。だから必要なのは山本大臣が主張するような「学芸員のマインドを変える」ことではなく、PR戦略を十分に練ること。そしてそこにリソースを割ける余裕が各博物館・美術館にあるのか、ということになる。

前述したように、日本は文化予算が諸外国と比較して少ない。PRエージェンシーを使うにしても数千万単位といった多額にならなくても効果的なPRの手法はいくらでもあるし、最近では『Instagram』などのSNSでの投稿を積極的に促す展示も増えてきた。そういった口コミで展示が行われていることを知るというケースもあるだろう。学芸員の仕事を増やすのではなく、外部への発信にまで行き届けるだけの余裕と裁量を各博物館・美術館に与えるというのが、あるべき文化行政のあり方なのではないだろうか。