『KERA』休刊と2010年代原宿ファッションの変遷

『KERA』2017年5月号

ファッション月刊誌『KERA』が2017年4月15日発売の6月号をもって休刊、デジタル版への移行が発表された。ムック誌『Gothic&Lolita Bible』も2017年5月24日発売予定号を休止。「昨今の読者ニーズや出版業界の急激な変化を真摯にとらえ、月刊誌としての発行形態の見直しを致します」という(参照)。

最近の『KERA』を見ると、ゴスロリ誌としての枠を超えて少し甘めの要素を入れた、むしろ『LARME』に近いブランド・コーデや、モデルのAKIRAさんや『h.naoto』などが牽引してきたパンク系男前コーデ、増田セバスチャン氏がプロデュースする『6%DOKIDOKI』のテイストを引き継いだ紅林大空さんのポップカラー路線などに分化していて、一時はクラシックなロリータといったイメージだった春奈るなさんのコーデもロリータ要素を残しつつカジュアル化しているという印象があった。『BABY THE STARS SHINE BRIGHT』『Angelic Pretty』といったブランドも掲載されているけれど、もはや「ゴスロリ誌」ではない、と言っても過言ではない状況だった。

実際に原宿の街を歩いてみると、中国・韓国などからの観光客でその影響を感じさせるようなコーデを見かけるが、奇抜で突飛な、個性がひと目でわかるようなコーデをした女子が減ったように思う。そういった意味では、「いちばんリアルな原宿ストリートファッションマガジン」を標榜する『KERA』がさまざまなジャンルをカバーせざるをえなくなり、耽美系やゴスロリからの距離感が変わっていたのも当然の帰結といえるのかもしれない。

ここ数年における『KERA』の功績として挙げられるのは、何と言ってもきゃりーぱみゅぱみゅという人材をストリートから発掘したことだろう。2009年秋に「こんな大きなものがあるのか!」というリボンを頭で飾って読者の目を惹きつけたことをきっかけに「ケラモ」となり、単に「かわいい」だけでなく変顔や毒を織り交ぜるスタイルが支持された。その後2011年に中田ヤスタカプロデュース、『ロクパー』の増田氏が美術を担当したMV「PONPONPON」で世界中に羽ばたいていったことは説明の必要がないだろう。

ほかにも、『ニコニコ動画』の「歌ってみた」初の歌手ピコが『KERA』で連載を持っていたこともあり、その「カワイイ」はSNS時代になるにつれて親和性が高かった。各モデル・歌手などが『Twitter』などを積極的に活用したということが、その傾向に拍車をかけた。

2011年はゴシック・ロリータが、それまで影響を与えてきたアニメ・マンガなどから、逆にアイテムのデザインへ取り入れるという現象があった年でもあった。当時原宿にあった『ニコニコ本社』では、ファッション情報サイト「乙女衣装図鑑」が初音ミクなどボーカロイドをモチーフとしたアイテムを各ブランドが発表するファッションショーが実施されていて、外務省の「ポップカルチャー発信使(カワイイ大使)」の青木美沙子さんも参加していた。

カワイイ大使も期待! 「初音ミク」がゴスロリファッションとコラボ (ニコニコニュース)

振り返ると、2011~12年ごろが『KERA』で紹介される「ゴシック&ロリータ」の時代だったと捉えることができるだろう。ただ、この頃には既に陰りは見えていて、例えば『KERA』の読者層とファンがかぶるヴィジュアル系をピックアップするテレビ東京の『Vの流儀』は2012年4月に『ロック兄弟』にリニューアルして「V」の看板を外した。

その後、2013年には有力ブランドの一つだった『ピースナウ』が倒産した。これについては筆者が過去に触れている。

ピースナウ倒産とクールジャパン(Yahoo!ニュース個人)

また、同年9月には新宿の『マルイワン』が閉館。ここには『KERA』で取り上げられているブランドがほとんど入店していただけでなく、V系バンドのイベントを開けるレコード店や、耽美系のマンガを多数扱っている書店もあった。この閉店で「ケラっ子」の行く場が確実に一つ失われた。

原宿のストリートに目を戻すと、2012年から13年にかけて、雑誌『Zipper』とショップ『スピンズ』が牽引した古着ミックススタイルの流行があり、さらにアメリカ西海岸を意識したアッパー系ファッションもラフォーレ原宿でイベントを行うなど、ファッションが多様化していった。街の開発という面で見ても、2012年に東急プラザ表参道原宿がオープンし、2013年に『CUTE CUBE HARAJUKU』がオープンした後は、インパクトのあるトピックがない。

それでも、インバウンド効果もあって外国人が東京で訪れる街として原宿はどんどん国際化していっている。例えば制服ショップの『CONOMI』の原宿店には、夏になると新年度前の台湾人の女の子が大挙やってくる。国際化と同時に、「ここでしか変えないものがある」観光地化も急速に進んでいるといえるだろう。

そんな中、「原宿ファッション」とは何なのか。その輪郭が急速にぼやけていったという面も否めないのではないだろうか。先述した『ロクパー』の増田氏は、「kawaiiのその先」と題して『KAWAII MONSTER CAFE』を2015年8月にオープンさせているが、そういった「ネオ原宿」的な要素や多国籍化する街の容貌を『KERA』は汲み取ることができなかった。

とはいえ、雑誌は休刊してもサイトとデジタル版は引き続き発信される。もともと『KERA SHOP』をリアルでも展開していたようにECと親和性が高く、各ブランドへの影響は重大なものにはならないのかもしれない。ただし、特に地方の読者の輪郭はぼやけていくのだろう。嶽本野ばら氏の『下妻物語』で描かれた世界が過去のものになる可能性は高いのではないか。

一見、『KERA』の休刊によって読者の「居場所」がなくなり、ゴシック&ロリータというジャンルが凋落していくという道を辿るように思えるが、そう考えるのは早計だ。各ブランドはファンに向けた「お茶会」を開いてよりコミュニティ的な要素を強めているし、新宿のコルセットブランド『abilletage』はイベントを不定期に開催して着飾っている人が集まる場を用意している。たとえメディアでの露出は減っても、ファン層はより深化して居心地の良い場所に集まってゴシック&ロリータ服を着ることを楽しむことになるのだろう。ある意味では、オートクチュール的なファッション流通への回帰と言ってもいいかもしれない。

また、長年『KERA』や各ブランドが作り上げてきた「ゴスロリ」のイメージはもはや強固なものになっていて、さらにネットでイメージが進化している。例えば2016年にTwitter発で話題となった「童貞を殺す服」も、『NO.S PROJECT』の服が挙げられている。

ここから更にイラストへと派生するなど、クリエイターのイマジネーションに「ゴスロリ」は多く寄与しているのはもちろん、ネットユーザーもそこに「乗って」いる。それを汲み取っていくことができるのかどうか、『KERA』のデジタル移行にあたっての課題となるのではないだろうか。