「フリーランス協会」にそこはかとなく感じる危うさ

「プロフェショナル&パラレルキャリア フリーランス協会」サイトより

2017年1月26日に設立が発表された「プロフェショナル&パラレルキャリア フリーランス協会」(以下「フリーランス協会」)。代表理事はリモートワークや時短社員などを推進している株式会社Warisの田中美和氏で、幹事企業にはクラウドソーシングサービスのランサーズやクラウド会計サービスを提供しているfreeeなどが名を連ねている。

団体のホームページでは「フリーランスによる“働き方の変革”を」と謳い、多様化するフリーランス人材の実態を世の中に発信し、フリーランス人材が健全かつ前向きに活躍できる土壌を作り、柔軟な働き方を望む人にフリーランスという選択肢を提示して、個人の働き方の多様化を後押しするとしている。

「フリーランス協会」の設立はNHKやネットメディアなどが比較的大きく報じている。その多くは事実ベースながら、これまでとは違った業態で働く人に向けたサービスの提供を歓迎する扱いのように見える。

「フリーランス」の労働環境改善を目指す 新組織設立(NHKニュース)

「フリーランス協会」設立、フリーランスやパラレルワーカーを支援、企業と一体で「働き方改革」実現(INTERNET Watch)

ただ、個人的にはNHKの報道で「(フリーランスが)雇用関係を前提とする社会保障の仕組みが適用されないほか、立場の弱さから報酬や労働時間で不利益を被るおそれも指摘されています」として、協会が「社会保障や労働法制の改正を国に働きかけるとともに、働き手の収入の増加を目指し技能向上のための研修なども行う」としていることが気になった。

一見、いいことのように見えるが、「雇用関係を前提とする社会保障の仕組み」=厚生年金保険・健康保険に入るということは、現在の仕事の形態である「請負」でなく何らかの団体に「雇用」されるということだ。例えばクラウドソーシングサービスが「雇用主」となれば、当然ながら厚生労働省が定める最低賃金額よりも上の時給を払わなければいけないことになるが、案件ベースの、しかも数百円単位の安価な仕事が並ぶサービスがそれを実現できるようになるとは思えない。

もっと言うならば、「雇用」されるということは「労働契約」を結ぶということだ。就業規則をどうするの? 退職や解雇の条件は? このような議論が、ここではすっ飛ばされている。

この「社会保障や労働法制の改正」の対象となるのは、「請負」の運用をどのようにするのか、ということになるだろう。だが、個人事業主扱いで実態は指揮命令系統があったという「偽装請負」の問題を歴史的にはらんでいる。最近、DeNAの『WELQ』などのキュレーションメディアが多数のワーカーを使って記事を量産していたことが問題視されたが、ここも実態を見ると「他人の指揮命令を受けて労働に従事していた」と捉えることができる。つまり、クラウドソーシングサービスは労働者供給事業を行う者とみなされ、使用者として法律に規定されたすべての義務があると捉えられるはずだ。

いささか回りくどくなったが、クラウドソーシングサービスが提供している安価な案件の紹介は、2004年の製造業派遣規制の解禁をきっかけに問題視されるようになった「偽装請負」と同じような構造になっている。クラウドソーシングサービスのランサーズが幹事企業の「フリーランス協会」のいう「社会保障や労働法制の改正」が、低単価案件の請負の合法化のお墨付きということならば、それはワーカーにとって「改悪」と断じても差し支えないだろうし、労働法制全体に影響を及ぼす可能性が高い。

現在、政府の「働き方改革」で兼業・副業やフリーランサー、テレワークという業態が注目されているのは、1990年代に「派遣」という業態が一般化した過程と重なる。とはいえ、2007年のドラマ『ハケンの品格』では売り手市場だった派遣社員は、リーマンショックのあおりを受けて「派遣切り」が常態化するようになった。昨年末にヒットした海野つなみさん原作の『逃げるは恥だが役に立つ』でも、主人公のみくりは「派遣切り」に遭っている。時を経て「派遣社員」という働き方がもてはやされることはなくなった。

それと同じように、現在は多様な仕事があるクラウドソーシングも、不景気時に条件の悪い案件ばかりが大量に発注される場(現在でも相当悪条件のものが散見されるが)になりかねない危険性をはらむ。それだけに、「フリーランス協会」の政府への働きかけは警戒の目で見守る必要があるように思われる。

ちなみに、フリーランスが社保に入ろうと思うならば、現在でも可能だ。デザイナーやイラストレーターなどならば文芸美術国民健康保険組合がある。ライターでも『Publickey』を運営する新野淳一氏が主宰している日本デジタルライターズ協会出版ネッツのようなユニオンがある。クラウドサービスをベースに働くワーカーで、社会保障が心配ならばこれらの団体に自分で問い合わせてみるといいだろう。逆にいえば「フリーランスで働く」という心づもりがあるならば、この程度の知識は最初から持ち合わせているべきだと個人的には考える。