ネットユーザーが踏まえておくべき薬機法と、キュレーションメディアの「無理ゲー」

薬機法は、誰でも発信できるネットではユーザーも抵触してしまう可能性がある。(写真:アフロ)

DeNAのヘルスケア情報メディア『WELQ』がずさんな記事を量産していることが明らかになり、『WELQ』以外の運営メディアも全記事非公開となった事件。今回の問題に関する筆者の考えは既に記した。

ネットメディアの現場から見えるDeNAメディア炎上騒動の風景(ふじいりょう)

『WELQ』がSEO対策のために長文の記事を作り、その過程で引用を超えた著作権侵害をしていたというのは論外だとして、もう一つ重要なのは「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(薬機法)への理解不足だ。

『WELQ』に限らず、キュレーションメディアの多くは登録ユーザーに公開権限がある場合が多い。サイバーエージェント運営の『Spotlight』は2016年12月8日付けで「編集部が記事の内容をチェックのうえ公開」する形に変更となったが、LINE運営の『NAVERまとめ』やリクルート運営の『ギャザリー』はユーザーが任意のタイミングで公開できる。ブログサービスは言わずもがなだ。つまり、現状では薬機法に抵触するようなコンテンツをネットに投下することは止めどなく出来る環境にある、と言えるだろう。

そもそも「薬機法」とは

薬機法の第一条では、医薬品等の品質や有効性、安全性の確保と、それらを使用した際の危害の発生及び拡大の防止をはかり、その研究開発の促進と保健衛生の向上を目的にしているとされている。ここで注意したいのは、医薬品「等」の中に「化粧品」も含まれているということだ。ヘルスケア系の記事だけでなく、美容系のメディアやそれを書く人にとっても、把握しておくべき法律だと言えるだろう。

この法律がカバーしているのは、医薬品の認可や薬局の開設、販売の許可など広範に及ぶが、第一条の六で次のように定められている。 

国民は、医薬品等を適正に使用するとともに、これらの有効性及び安全性に関する知識と理解を深めるよう努めなければならない。

これを言葉通りに受け取るならば、『WELQ』で掲載されたような信憑性の低い記事を『Twitter』などで拡散した人は、法の精神に反しているということになる。我々ひとりひとりに関わる法律だということを理解する必要があるだろう。

医薬品の性能について誇大に書くのはNG

さて、メディアや書き手(もちろん、それにはブログや『Twitter』も含まれる)にとって重要なのは、薬機法で第六十六条で次のように定められていることだ。

何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布してはならない。

多くの医薬品等は当然ながら使用者のよって個人差がある。だから「○○に必ず効く」といった表現は「誇大」ということになる。また、教育用資料や説明会のビデオなども「広告」と見なされるので、それらの資料をそのまま紹介することも危険だ。仮に「広告」でなくても、「記述」「流布」もNGなので、ブログや美容品のレビューサイトなどでは「非常によく効くので試してみて下さい」といった表現も「明示的な記述」ということになり、この法律に抵触する可能性が高い。

さらに、同項には「医師その他の者がこれを保証したものと誤解されるおそれがある記事を広告し、記述し、又は流布することは、前項に該当するものとする」とあるので、医師・薬剤師などの「監修」があったとしてもグレーだ。第六十八条では承認前の医薬品等の広告の禁止しており、海外では認可されているが日本では認可が下りていない、といったものを紹介する場合も注意が必要だろう。

キュレーションメディアの「再生」は可能か?

ここでは、薬機法についてメディアや書き手が踏まえておく必要のあるポイントについてまとめてみた。しかし、特にネットメディアの編集者が知っておく必要のある法律は広範に渡る。著作権法はもちろんのこと、景品表示法、特定商取引法、プロバイダー責任制限法、誹謗中傷や名誉毀損に関する法律、各ジャンルごとに規制される法律、さまざまなウェブサービスのポリシー……。専門のメディアではなく、さまざまな情報を扱うネットメディアでは、それらをチェックするための知識が欠かせなくなっている。筆者もここで挙げた法律はすべて目を通しているけれど、正直に言えばきちんと理解しているのか心許ない。

ほとんどのまとめサイトは、少人数で運営して人件費を極限まで抑制し、多くの一般のユーザーに記事を書かせることで本数を稼ぎ、PVを上げることにより広告を入れるというビジネスモデルになっている。ここで挙げたような法律の知識のある編集者を雇い、全ての記事をチェックするというのは工数が増えるだけでなく必然的にサイトのコンテンツが減ることになるので、マネタイズのハードルが上がることになる。そして、法律に知悉している編集者・ライターは新聞社・出版社といったレガシーメディアでも多くない。はっきり言って、「無理ゲー」だと思う。

『プレジデントオンライン』の記事によると、DeNAの守安功代表取締役社長CEOは「コンテンツ制作にコストをかけた場合ビジネスモデルとして成り立つのかという質問。まさにそこを我々が考え抜くことが必要だと思っているので、挑戦はしていきたいと思います」と語ったという。また、これに先立って『NAVERまとめ』も、まとめ作成者の経歴や背景などを審査しランク付けをすることにより、信頼性を担保していく方針を発表している。

とはいえ、それぞれの専門分野に知見のある編集者を置く体制にすると、先述したようにビジネスモデルが成り立たなくなる可能性が高い。まして、ユーザーが公開できる仕組みのままでは一旦情報がネット上に流布されることになり、ヘルスケア分野においては薬機法に触れてしまうし、それ以外のジャンルでも例えば著作権違反の画像のキャッシュが残ってしまうこともあり得る。そういったリスクを残したまま、「おいしくなくなった」メディア事業を各社が続けていくのかどうか。

ここまで偉そうに書いてきたけれど、筆者もライティングや編集をする上で何度も「やらかし」をしたことがある。それを指摘して糺してくれる人がいたから、こういった問題に敏感になっていったのだけど、そういった経験が多くのライター・編集者が積み上げていけない、といった問題もネットメディア全体が抱えているように思える。

そういった意味でも、『WELQ』に端を発した一連の騒動でネットだけでないメディアや『Yahoo!』のようなポータルサイト・プラットフォームも含めて、重大な岐路に立っているということを実感する。この危機感をどれだけの関係者が共有し、改善していくのか、来年以降の各メディアの動向を注視する必要があるし、個人的にも襟を正したいと考えている。