ネットメディアの現場から見えるDeNAメディア炎上騒動の風景

現在の『WELQ』

DeNAのヘルスケア情報メディア『WELQ』に端を発した騒動は、主にウェブメディアで生業をしている筆者にとっても他人事ではない。もう既に諸兄によってさまざまな問題点が指摘されているが、ここでネットメディア関係者でもある筆者から見える今回の事件について触れてみたい。

2016年11月29日の段階で、『WELQ』の全記事の非公開化が発表された段階では、その文書に責任者の名前がなかった(参照)。おいおい。今年の2月に同じように問題を指摘されてサイト休止に追い込まれた慶応大学鈴木貫ゼミの『青春基地』も代表者が明記されていたし、いくらなんでも大学生以下というのはないぜ、と思っていたのだが、守安功代表取締役社長CEOから、『WELQ』を含めた9つのメディアが非公開化されたと説明があった(参照)。ただ残された女性向けメディア『MERY』にも著作権がグレーなコンテンツがそのままになっている。これはやまもといちろう氏が指摘する通りだ。

DeNA「サイト炎上」MERY、iemoの原罪とカラクリ(山本一郎)

※2016年12月5日19時30分追記

『MERY』も12月5日に全記事非公開化が発表された(参照

『TechCrunch』のインタビューで守安氏は「医療・ヘルスケア情報の取り扱いに関して認識が甘かった」「方針は(自身が)出していたので、SEOを軸にしてメディアをグロースさせていく運営手法も知っていました」と語っているので、まったく擁護できる余地はない。これが新聞・テレビ・雑誌といったメディアならば辞任でも済まないかもしれない。

その上で感じるのは、ならば医療関係者の監修があればほんとうに正しい運営がなされていたのかといえば、やはり疑問が残るということだ。特にメンタルヘルスの分野では先生によって見解が分かれている疾患も多いし、東洋医学が絡むとさらに検証は難しくなる。これらの情報は薬機法(旧薬事法)や景表法に抵触する可能性があるので、まともなメディアなら扱わない。結果的にWebで検索した怪しい情報をユーザーは読むことになる。

医療だけでなく、グルメやファッションといった分野も、正解というものがない。そのためユーザーは正解「らしい」コンテンツを探して参考にしたりしなかったりする。そういうあやふやなジャンルで答えを求めるユーザーが、DeNAのキュレーションサイトだけでなく、『NAVERまとめ』などのユーザーが作った記事を読む、という構造は数年前から確立されている。

さまざまな形態のメディアに関わって思うのは、多くのユーザーは「深い」コンテンツを求めているわけではなく、一次情報/二次情報なのか、パクリや著作権違反をしているのか、そういったことを全く関係なしにネットで情報を得ている人の方が多数派だということだ。

例えばヒットしているドラマの原作者のインタビュー記事よりも、そのドラマの反応ツイートをまとめた記事の方が多く読まれるしSNSでも反応が伸びる。グルメ記事でも「知られざる名店」の実食レポートよりも、有名チェーン店の新商品情報のストレートニュースの方が『SmartNews』や『Gunosy』でピックアップされてよく読まれる。逆に言うならば、手間をかけた記事の方がKPI(PV、UU、読了率、なんでもいい)を達成するのが難しいという環境にウェブがなっている、ということだ。

繰り返しになるが、DeNAの各メディア運営には擁護できる余地はない。だが、ユーザーが求める情報を数多く発信するというメディア本来の役割は果たしていた、ということになる。残念ながらね。

人は信じたい情報しか信じない。新聞や雑誌といったパッケージされたメディアが一昔前よりも読まれなくなり、ユーザーが読みたい情報だけを読めるようなインターネットでは、ユーザーのリテラシーを求めるような記事はPVが取れない。そういったネット環境が、『WELQ』のようなメディアを生んだのではないだろうか。「政治は国民の鏡」という言葉があるが、ネットで双方向になった現在においてはメディアもユーザーのリテラシー以上のものになり得ないと言えるかもしれない。

だからと言って、筆者を含めたメディア関係者が簡単に諦めてはいけないのは、「深い」コンテンツを求めている人は「多くない」かもしれないがゼロではないからだ。より知りたい、より正しい情報が欲しいと考えているユーザーのために、それに見合ったコンテンツ作りをしていく。そのためには人のリソースも、お金のリソースも不可欠だし、それらを捻出するのは並大抵のことではない。それでもチャレンジをすることで信頼を得るという作業をやめてしまえば、ネットに限らず全ての「情報」が不確かなものになるだろう。そうならないために戦うことが、この仕事をする上では絶対に外せない。

その上で、より多くのユーザーの情報リテラシーを高めるための努力が要るだろう。ブログなどで「見る側」が簡単に「作る側」へなれる環境においては、著作権に関する知識はもっと深められるべきだろうし、不確かな情報の拡散に加担するとどうなるのか、地道に伝える努力も必要になってくるだろう。いずれにしても、今回のDeNAメディアの事件をメディア関係者のみの問題で済ませてはいけないのではないか、と強く思う次第だ。