「貧困バッシング」を叩いても生産的な議論にならないと思う件

「貧困」報道のアップデートが求められているのでは?(写真:アフロ)

 NHK『ニュース7』で女子高生が「進路を諦めざるをえなかった」としてネット上で本人の『Twitter』と思しきものが特定されて炎上状態となった件では、さまざまな識者が見解を出しているものの、そのどれもが「貧困」への理解につながるような論説とは思えない。

 9月3日には、NPO法人ほっとプラス代表理事の藤田孝典氏による毎日新聞の記事がこの話題に触れ、『Yahoo!ニューストピックス』でも掲載されていた。

 「1000円ランチ」女子高生をたたく日本人の貧困観 下流化ニッポンの処方箋 藤田孝典 (毎日新聞「経済プレミア」)

 <貧困>「貧乏人らしく」女子高生たたきの大誤解(Yahoo!ニュース)

 余談になるが、この両者は同じ内容の記事でタイトルが変わっている。筆者が『Yahoo!ニュース』編集チームに訊いたところ、配信された記事のタイトルは毎日新聞側でつけられたものだという。ここで「大誤解」としたことが、再びネット上での「炎上」に灯油をかけることになっているのは、リアルタイム検索でタイトルを入れてみれば分かる(参照)。

 ネット上で問題にされていたのは、「貧困」以上にNHKの報道姿勢に対するものだった。特に女子高生が母親に「1000円のキーボード」を購入して与えたという事をフレームアップした「演出」について遡上にのぼっているのだが、この点について藤田氏をはじめとする論者の多くが読み違えているように感じる。それに「誤解」を与えているのはNHKであってネット上の人たちではない。むしろNHKや毎日新聞をはじめとするメディアの貧困を扱う報道がどうあるべきなのかを論じるべきなのではないだろうか。

 もうひとつ、藤田氏のオピニオンでミスリードだと感じたのは、「相対的貧困」に対する説明だ。

 

冷蔵庫を持っているか、ホームパーティーを開いているか、という項目もありました。国によって違いますが、通常の人が享受しているこれらの指標がもし剥奪され、その社会の人間が考える「普通の暮らし」ができていなければ、その人は「相対的に貧困である」と考えられます。

出典:「1000円ランチ」女子高生をたたく日本人の貧困観

 筆者はホームパーティーなんて開いたこと、一度もないよ! ホットプレートも持ってないし! 単に友だちが少ないだけだけど!

 ……ということはさておき、「普通の暮らし」というのはあまりにもあいまいに過ぎる。一体どのような状態が「想定的貧困」なのか分からなくなる。例えば今回のように高校を卒業後「アニメの専門学校に行く入学金50万円が払えない」というのは「相対的な貧困」にあたるのか。そりゃ払える人と比較すれば「相対的」に「貧困」になるでしょ、という誤解を与えかねない。

『相対的貧困率等に関する調査分析結果について』より
『相対的貧困率等に関する調査分析結果について』より

 

 実は日本でも厚生労働省の『国民生活基礎調査』と総務省の『全国消費実態調査』をもとに、「相対的貧困率」を算出している(参照)。厚労省の2012年の調査によると、「相対的貧困率」は16.1%とされており、年々微増している。特に、世帯主年齢別で30歳未満では27.8%で一番高い。また、世帯類型別では「単身」が34.7%、「大人1人と子ども」が54.6%となっている。

 では、この「相対的貧困率」はどのように算出されているのか。厚労省の資料では下記の通りとなっている。

『国民生活基礎調査(貧困率) よくあるご質問』より
『国民生活基礎調査(貧困率) よくあるご質問』より

 国民生活基礎調査における相対的貧困率は、一定基準(貧困線)を下回る等価可処分所得しか得ていない者の割合をいいます。

 貧困線とは、等価可処分所得(世帯の可処分所得(収入から税金・社会保険料等を除いたいわゆる手取り収入)を世帯人員の平方根で割って調整した所得)の中央値の半分の額をいいます。

 これらの算出方法は、OECD(経済協力開発機構)の作成基準に基づきます。

 つまり、サンプルの中で真ん中の順位の人の収入の50%を「貧困線」として、それ以下の人が「相対的貧困」世帯であるとされている。これらの数字を見ると、くだんのNHKの報道の母娘は「相対的貧困」の可能性が高くなり、説得力が増すのではないか。

 もしかして、貧困を論じている識者の間では「当たり前」のことなのかもしれないが、多くの人にとってはそうではない。そんな中で「相対的貧困」という言葉だけを持ちだしても、言葉が一人歩きする結果になることは目に見えている。

 『国民生活基礎調査』は5年に1回で、次回は2017年に調査される。この時に「貧困線」の年収はいくらなのか、それ以下の世帯数はどれくらいあるのか、といったことを「貧困」をテーマにするメディアは明らかにすべきだろう。

 その上で、今回のNHKの報道の女子高生のケースでは「絵が好きで、アニメのキャラクターデザインの仕事に就きたいと、専門学校への進学を希望していた」という。「キャラクターデザイン」という仕事の厳しさや専門学校への志望ということが本当に本人が進む最適解なのか、キャリア教育が十分になされてない可能性があることについては既に指摘した。

 進路は一つじゃない NHK『ニュース7』“貧困女子高生”に伝えたいこと(ふじいりょう)

 これから、メディアは「貧困の実態」以上に、「貧困の連鎖」あるいは「貧困の悪循環」をどうすれば防げるのか、といったことを主題にすべきだろう。とりわけひとり親の世帯は生活保護の受給率が高く(2011年で13.3%)、生活保護家庭の大学進学率が31.7%と大学進学率70.2%に対して著しく低く、父親の所得が低いとその子どもの所得が同じように低くなる率が3割以上という数字が出ている(参照)。

 こういった統計をもとにせずに、「貧困」についての理解が深まることはないと言っていいだろう。「貧困バッシング」を叩いて、さらに新たなバッシングを招くというのは生産的でない。「貧困」の当事者の現状を報じることも重要だが、特にキャリア教育の充実が子どもの「貧困の悪循環」を断ち切るカギであるということは、もっと強調されていいのでは、とも感じる。

 そして、メディアに求められるのはエモーショナルな「肖像」ではないということに、そろそろ気づいてもいい頃なのではないだろうか。ましてネットでの反応の「無理解」を断じることが、「貧困」の解消につながることはまずないと断言できる。より正確な「理解」を求めるのであれば、各種統計や解決のための手段についても、同時に提示することが不可欠だと思える。