小金井女子大生刺傷事件は「アイドル」だけに起こる事ではない

「アイドル」だけの世界と思い込んでいると……。(写真:アフロ)

 5月21日に小金井市のライブハウスで起きた刺傷事件から一週間が経過した。まずは被害にあった富田真由さんの回復を祈りたい。

 この事件について、富田さんが事前に警察に相談していたこと、容疑者の自宅から冨田さんと一緒に写った写真が見つかったことなどが明らかになっている。

 「防げたかも」悔やむ幹部=警視庁は対応検証-アイドル刺傷(時事ドットコム)

 容疑者宅から冨田さんの写真押収…タレント刺傷 (YOMIURI ONLINE)

 今後、警察の初動や、ストーカー規制法がSNSが普及した現状に合っていないなど、さまざまな問題が浮かび上がってくるだろう。が、ひとまずこれらは専門家諸氏の知見が上がってくるのを待ちたいと思う。

 この事件に関連して、歌手・声優として活動しているタレントの優月心菜さんのツイートが反響を呼んだ。これを受けて筆者は優月さんに取材、インタビュー記事を出した。

 【緊急インタビュー】小金井女子大生刺傷事件について優月心菜に聞く 「関係者もファンも危機感を持つべき」(ガジェット通信)

 ここで特に注意すべきなのは、SNSの使い方と、「アイドル」だけの問題ではない、ということだ。

 

リプの返し合いをする牧歌的な時代は終わりを告げた

 今回の事件では、容疑者のものと思われるTwitterアカウントが見つかっている。冨田さんに執拗にリプライを飛ばして絡む言葉が、どんどんエスカレーションしていく様子が残されていた(現在は凍結されている)。上記のインタビューで優月さんも次のように危険性を指摘した。

私もSNSが危険だと思っていて、対面でないぶん怒りや愛情がどんどん募っていってしまうこともありますよね。『Twitter』もメールやチャット感覚になってしまいますし。私の場合は全部リプライをしないルールにしています。上手に使えない子ほど返信をしないようにする必要がある。

出典:【緊急インタビュー】小金井女子大生刺傷事件について優月心菜に聞く 「関係者もファンも危機感を持つべき」

 

 Twitterには特定のアカウントに対するブロックやミュート機能があるが、今回冨田さんが容疑者をブロックしたことが感情を逆なでしたとの見方がある。『弁護士ドットコムNEWS』の取材で、小早川明子NPOヒューマニティ理事長も次のように述べている。

決定的だったのは、ツイッターのブロックだと思います。加害者はその前に「なぜブロックしないのか」という内容の書き込みをしています。あれは、「ブロックされたくない」という心理のあらわれでしょう。ブロックされるのが恐いんです。ところが、本当にブロックされて、絶望的になったんだと思います。

出典:「ツイッターのブロックや着信拒否をするのは危険」ストーカー相談の専門家に聞く

 タレントや歌手に限らず、表現活動をしている多くの人にとって、Twitterは告知の手段にもなっているので、止めるのは難しい。一方で特定の相手だけ無視をするというのは、見れば分かってしまう。となると、優月さんのように全部リプライしないと決めるというのが賢いように思える。

 ちなみに筆者の場合、最善なのは何を言われてもリアクションをしないことだと考えている。ただ、書く記事が炎上して自分Twitterアカウントにリプライが押し寄せてきた際、返信はしないが「あなたのメッセージをちゃんと読みました」という意味で例外なく「FAV(いいね)」を付けることにしている。それでほとんどのケースで2日間程度で反応が落ち着いてくる。

 話が逸れた。今回の事件で誰もが認識すべきなのは、コミュニケーションツールとしてのSNSには限界がある、ということだろう。

 2006年にTwitterがサービスを開始してから10年になる。利用者も増え、ヘンな人に突然絡まれるリスクも大きくなっている。のほほんとリプライのやりとりをしているだけで、誰かの不興を買うこともあるかもしれないし、当たり事故のように突然罵声を浴びせてくるアカウントに出くわす可能性は高くなっているだろう。何らかの表現活動をしている人や、何かの組織を代表して発言している人だとなおさら危険性は上がる。

 議論をするにしても、文脈を踏まえずに一つのツイートだけですべてだと判断されて物言いが付けられて、ただディスコミュニケーションが積み重なっていくだけになるケースを見かける機会も増えた。少なくともTwitterに関しては、気軽に使っていいツールとは言えなくなっているのではないだろうか。

誰もがストーカーの被害者になる可能性がある

 今回の事件で、富田さんの活動を「アイドル」と報じているメディアが多いが、実際は「シンガーソングライター」であるということで、吉田豪氏のような人から意義が出されている。

 アイドルでもないしヲタでもない!小金井刺傷事件の報道に感じるモヤモヤ|ほぼ週刊吉田豪

 とはいえ、優月さんのインタビューで触れたように、アイドルと歌手、それに声優が同じイベントに出演するケースもあり、それぞれを区分けするのが難しいというのが実態だと個人的には考える。ただ、「オタク」が起こした事件というよりは容疑者のストーカー行為を問題にすべきだというのは吉田氏が指摘する通りだと思う。

 また、ストーカー行為とまではいかないまでも、「ファン」という名のもとに何をやってもいいと勘違いしているというケースはアイドルやシンガーソングライターだけに限らない。例えば、アート界隈では女性作家に一対一で会うことを要求したり、長々とギャラリーで時間を拘束する「説教オヤジ」の存在が以前より問題視されてきた。

 3_4追記 女性作家につきまとうギャラリーストーカーの問題(Togetterまとめ)

 この手の人は、有名作家の作品を有料で展示する公立美術館でなく、無料で入れる小さな画廊・ギャラリーに出没する。大抵の場合はギャラリーのスタッフと作家本人がいるのみで、直接コミュニケーションが簡単に取れてしまう。つまり「接触」のハードルが低い。それだけに作家がひとりで対応しなければならないわけで、非常に危険な環境ともいえる。作家自身が作品を売らなければいけないこともあり、在廊する日時を告知するケースが多く、どこにいるか分かってしまうし、個展・企画展のポストカードやお礼の手紙から自宅がどこか知れてしまうこともある。

 そのほか、同人活動をしている人やデザインフェスタに出るような手芸作家などならば参加しているイベントにネットで付きまとわれて迷惑だと感じている人が直接やってくる可能性があるし、『ツイキャス』『ニコニコ生放送』などで配信活動をしている人は居場所が割れて同様のリスクがあるだろう。

 表現活動をしていなくても、居場所が他人に常に知れる状態というのは非常に危険だ。例えば歯科助手なども言葉を交わすだけでなく身体の接触があるだけに「ファン」がついてしまうケースがあるという話を耳にする。「お客」として来るだけに無下にできず、コミュニケーションに悩むことのある仕事は、他にもたくさんあるだろう。

 このような事、特に場所バレと、前述したネットでのコミュニケーション不全によるトラブルが合わさって臨界に達した時、冨田さんのように事件になってしまう可能性は誰にでもある。「アイドル」の世界の事だと他人事感覚でいるべきでない。誰もが自分にも起こり得る事だと考える必要があるように思う。