都知事選後に「リベラル」が向き合うべき「表現の自由」と「コミケ」

『Re:animation NEW YEAR PARTY 2014』(筆者撮影)

猪瀬直樹氏の辞任によってもたらされた東京都知事選挙。2014年2月9日の投開票が迫り、各メディアでの中間調査では舛添要一氏の優勢が伝えられている。とはいえ、準備期間が充分にないままの選挙戦で、候補者側も有権者側も戸惑いを隠せないままに時間が過ぎている、というのが実際のところなのではないだろうか。

2012年末の衆議院選挙により民主党政権が敗北して以降、「リベラルの再構築」の必要性を唱える言説を見る機会が増えたが、「敵失」の僥倖ともいえる今回の都知事選を安倍晋三内閣へ掣肘を加える絶好の機会であると捉える人も少なくない。

一方で、paperboy&co.の創業者で実業家の家入一真氏が公約を掲げずにTwitterなどでユーザーから実現してほしい政策を募集するというスタイルについて期待を寄せる向きもある。例えばジャーナリストの佐々木俊尚氏は「無責任なように見えて、政治家の専門性や当事者性が欠落してしまっているいまの状況の中では、逆に真摯な姿勢であるようにも感じる」として、「非常に限定的な選択」と断りつつその支持を述べている。

『いま求められているのは、リベラルの再構築だ。』(佐々木俊尚 blog)

2014年2月1日に家入氏が演説した渋谷ハチ公前広場には、若年層を中心に立錐の余地もない程の聴衆が集まった。その「熱」が「何かを変える」契機になるのかもしれない。だが、1995年に都知事になった故・青島幸男氏が公約通り世界都市博覧会を中止にした以外は無策だった苦い過去を忘れていない有権者も多いのでないか。そういえば、青島氏は参議院議員時代から「街頭演説をしない」選挙スタイルを特徴としており、従来型の政治をアンチテーゼとしていたあたり家入氏との共通点が少なくないように思える。

アンチテーゼといえば、「リベラルの再構築」論で個人的に不満なのが、安倍政権と新保守主義に対するブレーキ役としての存在意義ばかりが強調されて、「リベラル」そのものが持つ意味が置き去りにされていること。多くの場合は欧州圏における「第三の道」を志向した社会的公正を重視した政策への支持を指しているような印象があるが、「再構築」というならばさらに遡って「自由とは何か?」というところから洗い直さなければならないのではないだろうか?

その際、一番取っ掛かりとして適切に見えるのが「表現の自由」。

現在、国会で「単純所持の禁止」を盛り込む児童ポルノ法改正案が継続審議となっているが、出版・メディア関連企業が集中する東京にとっても無関係ではあり得ない。2010年には都の青少年健全育成条例の「非実在性」問題に対してコンテンツ業界やネットユーザーを中心に反対運動が巻き起こったことも記憶に新しい。また、風俗営業法によるダンス規制についても、摘発が相次いでいることにより見直しを求める動きがあるが、ごく一部を除き現行リベラル勢力は冷淡な印象が拭えない。

しかし、例えばコミックマーケット(コミケ)をはじめとする同人誌即売会は、こうした「表現の自由」を何より重視することにより生まれたカルチャーといえる。2014年1月30日にリニューアルされたコミックマーケット準備委員会の「コミックマーケットの理念と実相」の資料には「すべての表現者を許容し継続することを目的とした表現の可能性を広げるための場である」と宣言している。

・コミケットは、いかなる状況になろうとも、表現の多様性を追求し、その自由を守る受け皿であり続けます  ・コミケットは仮想空間では代替できない「ハレの日」の楽しさを、より多くの人と共有していきます  ・コミケットは同人文化の原点のひとつとして、世界に対するその象徴であり続けます  ・コミケットは見本誌として回収した二百数十万種の作品を第1回から継続して保存しています。この貴重な資料を維持・拡充・公開していきます 

出典:コミックマーケットとは何か?

準備会は、さらに「目指すもの」として、「マンガ・アニメ・ゲーム等の文化を通じ、日本の産業的・文化的な存在感の向上を目指すことで、社会に求められる役割を果たし貢献していきます」とうたっている。つまり、「表現の自由」を守ることにより、経済の持続可能性(成長、と言い換えてもいい)や社会の多様性や公正さにつながるという強靭な思想が根付いている。現在の日本でもっとも「リベラル」を体現するテキストだというのは言い過ぎだろうか。

この資料には、1975年からの来場者増加による警備・消防などの問題や、有害コミック問題、さらには度重なる脅迫状が送られきたコミケの歴史が振り返られている。幾度の中止の危機に晒されながらも継続しているのは、理念に加えて警察や行政、施設などと折衝を重ねた蓄積あってのことだと忘れてはならないだろう。

『Re:animation NEW YEAR PARTY 2014』(筆者撮影)
『Re:animation NEW YEAR PARTY 2014』(筆者撮影)

しばしば住民の生活権と対立しがちな「表現の自由」だが、交渉と対話により実施に結びつけるようなケースも増えている。

新宿歌舞伎町や中野を舞台に2010年より開催しているアニソン・クラブミュージック系DJが活躍するイベント『Re:animation』(『リアニ』)は、都市部の屋外で大音量の音楽を楽しむ空間を作り出すことに成功したが、その背景には自治体をはじめとする関係各所との粘り強い交渉をした上で運営への信頼が醸成され、来場者のマナーのよさも認知されたからこそ成し得ている。

『リアニ』は町おこしの文脈からも、ジャズフェスのような集客イベントとしてのポテンシャルを持っている。2014年1月26日には東京ジョイポリスで『NEW YEAR PARTY』を開き商業施設でも成功したが、これも新宿・中野での実績があってこそだろう。このように「表現の自由」を大上段に振りかざすのではなく、法令を順守しつつ可能性を広げるというリアリズムは、新しい「リベラル」のあり方としても示唆的なのではないだろうか。

コミケのような即売会や『リアニ』をはじめとするDJイベントは、これに加えて著作権絡みの問題もはらんでおり、微妙なバランスの上に成り立っている。しかし、同人誌市場は700億円ともいわれており今後も成長が見込まれている。また、海外のポップカルチャー愛好者に対するインバウンドという面でも、東京や日本のイメージに寄与しているのも間違いないだろう。

それを下支えする哲学としての「表現の自由」を守りつつ上手く運用していくことが、経済や外交にも影響を与えていくという認識こそが、今の「リベラル」に不可欠なように思える。2020年の東京オリンピックでは東京ビッグサイトが競技会場やプレスセンターとして利用される計画にもなっており、当然コミケにも関係してくる。今回の都知事選には間に合わないにしても、いずれは政治が真正面から向き合う時が来るのは確実なのだから、自民党政権へのアンチテーゼといった場当たり的な対応ではなく、強い思想を築いて欲しいなぁと願う次第です。