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新型コロナ感染「3つの密」をブチ破る窓開け(#Madoake)実践法

榎木英介病理専門医&科学・医療ジャーナリスト
窓はどれくらい開けたらいいのか(写真:アフロ)

窓開け運動(#Madoake)じわじわ広がる

 3月26日に書いた記事「窓を開けて世界を救おう!新型コロナウイルス集団感染を防ぐシンプルな方法」はお陰で好評で、提唱者の伊藤智雄さん(神戸大学教授)がメディアに取材されるなど、じわじわと賛同者が広がっている。

 新型コロナウイルス感染の可能性を低くすることができる密集、密接、密閉の「3つの密」を避けることの重要性は政府も強調しているところで、ポスターも作られている。

首相官邸ホームページより
首相官邸ホームページより

 窓を開けることは、安倍首相も記者会見で触れている。

 そして、集団による感染のリスクを下げるため、いわゆる3つの条件をできるだけ避ける行動を改めてお願いいたします。第1に、換気の悪い密閉空間。第2に、人が密集している場所。そして第3に、近距離での密接な会話。密閉、密集、密接。この3つの密を避ける行動をお願いします。

 新学期からの学校再開に当たり、今週、文部科学省がガイドラインをお示ししました。教室の窓を開けて、換気を徹底するなど、3つの条件を回避する対策をそれぞれの教育現場で徹底的に講じていただくことで、子供たちの感染防止に万全を期す考えです。

出典:令和2年3月28日 安倍内閣総理大臣記者会見

 Twitterのハッシュタグ#Madoakeでは、様々な方々が窓を開けることの重要性をツイートしている。ぜひ読者の皆さんも、窓を開けたとことなどを写真に撮って、その重要性を発信して欲しい。

 しかし、窓をどれくらいの頻度でどう開ければ良いのか分からないといった声も聞く。窓開けの効果に対する疑問や、花粉症や寒さ(夏だと暑さ)、防犯など、窓を開けられないという声も聞く。

 そこで、ここでは、こうした疑問に可能な限り答えてみたい。

窓開けが感染を防ぐ根拠

 まず、窓を開けることがどの程度新型コロナウイルス感染を防ぐのか。

 北海道大学の西浦博教授らの論文(査読前なので注意)では、屋外より密閉した環境の場合、新型コロナウイルスの感染率が19倍近く高くなるという。

The odds that a primary case transmitted COVID-19 in a closed environment was 18.7 times greater compared to an open-air environment (95% confidence interval[CI]: 6.0, 57.9).(閉鎖環境で初感染者がCOVID-19を感染させた確率は、屋外環境と比較して18.7倍高かった(95%信頼区間[CI]:6.0、57.9))

出典:Closed environments facilitate secondary transmission of coronavirus disease 2019 (COVID-19)

 前回記事でも紹介したように、コロナウイルス感染症のSARS(今回の新型コロナウイルスに近いコロナウイルス)が広がったベトナムの病院では、病室の窓を開けて感染を防いだ。

 国立感染症研究所 感染症情報センターの「非流行期におけるSARS対応のガイドライン」は以下のように述べる。

病室

陰圧室が望ましいが、なければ陽圧にならない個室を準備する。独立した空調が有ることが望ましいが、もしも無い場合にはその病室に関しては空調施設を利用せず、窓を開けて十分な換気を行うことが推奨される。病室の窓を開放する場合には、それが公共の場に直接面していないことを確認すること。

出典:国立感染症研究所 医療機関における SARS 非流行期の院内感染対策 ―SARS アラートの概念とアラートへの対処法―

 しかし、新型コロナウイルスに関して、どの程度換気すれば良いのかというデータは現段階ではない。

窓開けの頻度

 新型コロナウイルス感染を防ぐのに十分な換気をするための窓開けとはどの程度だろうか。

 3月23日に、公益社団法人 空気調和・衛生工学会会長、田辺新一氏と、一般社団法人日本建築学会会長竹脇出氏の名前で談話が出でいる。

 談話では、「換気をするだけで感染リスクを充分に低減できるという考えは避けて頂くことが望ましいことになります」としつつ、「最新の知見で 5μm 前後の飛沫、飛沫核はある時間空気中を漂うことが分かっています。これらによる感染リスク低減には換気は有効です」と述べる。

 換気は効果があるのだ。では、換気するための窓開けはどの程度の頻度でやればいいのだろう。

よく間違えられるのが、換気回数という用語です。換気回数 2 回/時は1時間に2度窓を開けることと誤解されていることがあります。換気回数とは1時間に部屋に入る外気量(立米)を室容積(立米)で割ったものです。換気回数は室内の空気の入れ替わりのスピードを表す指標です。つまり換気回数が大きいほど、汚れた室内の空気を外気で希釈し、速く入れ替えることができます。今後さらに詳しい解説などを情報発信する予定です。

出典:新型コロナウイルス感染症制御における「換気」に関して 緊急会長談話

 窓の開け方は建物によりケースバイケースにならざるを得ないが、室内の空気が可能な限り入れ替わるようにすることが重要ということだ。

 一つの窓を開けるより、風が通るように二つ以上の複数の窓を開けることも可能ならば行ってほしい。

3月31日追記

 WHOはずっと窓やドアを開けた方が良いと言っている。

Open windows and doors whenever possible to make sure the venue is well ventilated.(可能な場合はいつでも窓とドアを開けて、会場が十分に換気されていることを確認してください。)

出典:WHO Getting your workplace ready for COVID-19(3月3日)

タクシーでの感染を避けるには?

 最近は利用者が減っているが、タクシーの運転手が新型コロナウイルスに感染したケースが報告されている。

 Yahoo!ニュース個人でも、自動車評論家の国沢光宏さんが記事を書かれている。

 窓開け運動の提唱者、伊藤智雄さんは、発煙装置を用いてどのように窓を開けたら良いか実験を行った。すると…。

今回、気流を可視化する気流検査器を使って検討しましたが、良い結果でした。方法はシンプル。「運転手、乗客とも座ってる席の窓を数cm開ける」これで運転手、乗客の間の呼気はほとんど交わりません。密閉空間ではなくなります。原理はベルヌーイの定理。タバコを吸われる方は実感していると思います。車など移動してる物体の「少し開けた窓」は空気を激しく排出する。確かめましたが、一カ所では不十分です。運転手だけ開けると、運転手さんの方に空気が漂っていきます。なので、「人がすわってる場所はみな数cm開ける」が最強です。あと、後部座席に3人はいくらやっても過密すぎですから規制すべき。重要なポイントは「あまり寒くない」。ヒーターしっかりかければ快適。だからやりやすい。

出典:伊藤智雄さんフェイスブック投稿

 というわけで、タクシーは全部の窓を数センチ(2cm前後)開ける、後部座席真ん中には乗らないことを心がけてほしい。

 バスや電車の場合はデータがないが、換気がしっかりしていない場合は、停車時のドアの開閉に加え、窓を少し開けて「ベルヌーイの定理」で中の空気を外に出すのが重要だと思う。

外からウイルスは入ってこないのか

 窓を開けたら外からウイルスが入ってこないか心配する声も聞かれた。

 ウイルスがごく微量飛んでくることが全くないとは言えない。しかし、心配する必要はない。

 ウイルスや菌などが何個あれば感染が起こるのかは、種類によって違う。しかし、新型コロナウイルスは1個や2個程度で感染が起こるような強力なウイルスではない。もしそうなら、感染はもっと広がっているはずだ。

 外から入ってくることより、室内でたくさんのウイルスを吸い込む方がよほど危ないということを理解してほしい。

暑さ寒さ花粉症、そして開かない窓対策

 春になったとはいえ、東京でも雪が降るなどまだまだ寒い。花粉症もおさまっていない。

 これに関しては、大変心苦しいが、今回はある程度我慢していただけたら幸いだ。

 特に、夏の暑い時期まで感染が収束しない場合は、熱中症などの心配もある。

 窓を開けた時の寒冷や花粉症への対策は、ぜひTwitterのハッシュタグ#Madoakeなどでお教えいただけたら幸いだ。花粉症対策には花粉を吸着するカーテンが有効だという。こうした情報を共有したい。

 窓が開かない部屋には機械による換気も重要だ。

窓の開かない部屋などでも機械換気を利用することで換気を行うことは可能です。オフィスビルなどでは、換気が可能な空調設備で室内環境が維持されています。通常は省エネルギーを考えて必要な換気量を満たすように運転されています。外気を多く取り入れると冷暖房効率は悪くなりますが、業務に支障がない範囲で、外気取入量を増やすなどの対策を講じることは可能であると考えられます。

出典:新型コロナウイルス感染症制御における「換気」に関して 緊急会長談話

 ビル等が機械換気を導入する時に補助金を出すなどするのも、経済刺激策の一つとして考えられるかもしれない。

 繰り返しになるが、新型コロナウイルスは決して窓を開けるだけで防げるわけではない。窓を開けても密集、密接すれば感染の可能性はある。手洗いも重要だ。

 けれど、この危機の中、少しでも感染を減らすために、手軽にできる窓開けをぜひ行ってほしい。

窓を開けて換気しよう!
窓を開けて換気しよう!
病理専門医&科学・医療ジャーナリスト

1971年横浜生まれ。神奈川県立柏陽高校出身。東京大学理学部生物学科動物学専攻卒業後、大学院博士課程まで進学したが、研究者としての将来に不安を感じ、一念発起し神戸大学医学部に学士編入学。卒業後病理医になる。一般社団法人科学・政策と社会研究室(カセイケン)代表理事。フリーの病理医として働くと同時に、フリーの科学・医療ジャーナリストとして若手研究者のキャリア問題や研究不正、科学技術政策に関する記事の執筆等を行っている。「博士漂流時代」(ディスカヴァー)にて科学ジャーナリスト賞2011受賞。日本科学技術ジャーナリスト会議会員。近著は「病理医が明かす 死因のホント」(日経プレミアシリーズ)。

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