ネイチャー誌が糾弾~日本発最悪の研究不正が暴く日本の大学の「不備」

サイエンス誌に続きネイチャー誌が…

 世界中の科学者が読む雑誌が二つある。アメリカのサイエンス誌と、イギリスのネイチャー誌だ。どちらも様々な分野の科学論文を掲載すると同時に、世界中の科学に関するニュースを取り上げるという特徴がある。

 その二大巨頭が、日本の研究者が起こした同じ研究不正の事例を大きく取り上げた。

 その事例は史上最悪の一つとも言われる。

 それってあのSTAP細胞事件?と思ったあなた。まったく間違っている。

 STAP細胞事件など比べ物にならないほど大きな事件を、日本人研究者が起こしていたのだ。それが、元弘前大学の教授だった故S氏がおこした事件だ。

なぜ最悪なのか

 その事件が最悪と呼ばれるには理由がある。与えた影響が大きすぎるのだ。

 S氏が書いた論文は、診療ガイドラインなどに引用され、患者の骨粗鬆症の予防法の根拠となっている。

S氏の論文が多数引用されている
S氏の論文が多数引用されている

 上の写真は、ある診療ガイドラインが参考にした論文のリストの一部だ。S氏の論文(赤下線)が多数掲載されている。

 これらの論文に研究不正や、研究不正には至らないものの、問題点が発見された。具体的には、研究対象とされた患者がいなかったなどのデータねつ造や、論文の著者が不適切であったことだ。

 こうした問題点により、S氏の論文は撤回された。撤回された論文の数は60を超える。

 撤回論文を監視する「リトラクションウォッチ」は撤回論文の数でランキングを作っている。S氏は世界第三位にランキングされる。

 ちなみに、世界第一位は日本の麻酔科医、第五位はS氏の共同研究者の医師、第六位は一位の麻酔科医と共同研究をしたことがある麻酔科医だ。上位6人中3人が日本人の医師、上位15人中6人が日本人(うち医師が5人)と、日本人は世界に恥をさらしている状態なのだ。

個人別撤回論文数ランキングより著者作成。赤字が日本人。
個人別撤回論文数ランキングより著者作成。赤字が日本人。

 当然のことながら、論文が撤回されたことにより、診療ガイドラインは訂正を余儀なくされる。間違った診療が行われていたことになり、影響は甚大だ。

日本の大学の不備を指摘

 ただ、ネイチャー誌の記事は、日本人研究者の問題を取り上げたわけではない。ネイチャー誌が指摘したのは、日本の大学の研究不正調査体制に問題があるということだ。

 記事では、長年S氏の論文の問題点を指摘してきたAndrew Grey氏の調査を取り上げている。

 Grey氏は、S氏や共著者が所属していた久留米大学、弘前大学、慶應義塾大学とニューヨーク大学のWinthrop病院が、S氏の研究不正に対しどのような調査を行ったのかを調べた。

 すると、これらの大学の調査は「不透明で、不十分」であったという。誰がどの論文を調査したのかも明らかにしなかったうえ、研究不正の調査にばかりエネルギーを注ぎ、重要であるはずの研究が妥当かどうか、論文の撤回や修正が必要かどうかの判断はおざなりだったという。

 記事の中で、研究の誠実性に関する専門家であるCK Gunsalus氏は、日本の機関は、不正行為を調査するためのプロセスを見直すべきであると指摘している。日本の研究機関は外部の評価委員を入れる、Gunsalus氏が作成したチェックリストを活用するといったことが必要だという。

 私自身何度も記事にしてきたが、日本の研究機関の研究不正の調査には大きな問題がある。研究不正が認定されなければ、調査報告書は公開されないうえ、研究不正の可能性があることを指摘した研究者を処分したりもするのだ。

 ただ、問題は大学などの研究機関だけにあるのではない。松澤孝明氏によると、日本の研究不正への対応は、第三者機関がなく、各研究機関に任されている点が特徴だという。

松澤孝明氏のまとめを紹介した白楽ロックビル氏のページから著者作成。
松澤孝明氏のまとめを紹介した白楽ロックビル氏のページから著者作成。

 文部科学省は、独立した調査機関もなく、各研究機関に任せることは、「学問の自由」を尊重しているからだというが(あるシンポジウムでの担当者の発言より)、果たしてそれで十分だろうか。

 日本の研究者、研究機関、そして行政に向けられている目は厳しい。せめて関係者は当事者意識を持つことから始めなければならない。