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「ヤングマン」逝く~西城秀樹さん死去の報道から考える血管の健康

榎木英介病理専門医&科学・医療ジャーナリスト
ご冥福を心よりお祈りいたします。(写真:アフロスポーツ/bj-league)

二度の脳梗塞と闘いながら…

 新御三家、若々しいイメージと多数のヒット曲で一世を風靡した西城秀樹さんが亡くなられた。

「傷だらけのローラ」「YOUNG MAN」などのヒットで知られる歌手の西城秀樹(さいじょう・ひでき、本名・木本龍雄=きもと・たつお)さんが16日午後11時53分、急性心不全のため横浜市内の病院で亡くなったことが17日に分かった。63歳だった。広島市出身。2003年と11年に脳梗塞を発症、右半身麻痺の後遺症が残っていた。4月25日に入院し、そのまま帰らぬ人となった。

出典:スポニチ

 私は子どものころYMCAのポーズを真似した世代だ。西城さんはまさに憧れのお兄さんだった。心よりご冥福をお祈りする。

 急性心不全ということしか明らかになっておらず、これ以上の詮索はしない。

 急性心不全に関しては以下の記事をご覧頂きたい。急に心臓が止まったということで、急性心筋梗塞などが考えられる。

脳梗塞と急性心不全に関係はあるのか?

 ここでは、おそらく多くの方々が気にされていると思われる、脳梗塞と急性心不全の関係を考察したい。

 西城さんは48歳と56歳のときに脳梗塞を発症されている。脳梗塞とは、脳の血管が詰まり、血液が流れなくなることで脳細胞が死んでしまう病気だ。

脳梗塞の種類。著者作成の講義用資料より。
脳梗塞の種類。著者作成の講義用資料より。

 脳梗塞には主に3種類ある。心原性脳塞栓症、アテローム血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞だ。

 心原性脳塞栓症は不整脈(心房細動)が原因で、心臓のなかに血の塊ができ、それが脳の血管まで流れていって血管をつまらせる。

 アテローム血栓性脳梗塞は、脳の血管が動脈硬化で狭くなり、そこに血の塊ができて血管をつまらせる。

 ラクナ梗塞は脳の小さな血管が高血圧などで傷つき詰まってしまう。

 西城さんの場合、2003年の最初の脳梗塞はラクナ梗塞だったという(ヨミドクター有料記事より)。

 その後健康に気を使った生活を送られてきたが、56歳のときに脳梗塞が再発した。そのときはMRIで血管が詰まっているのが分かり、半身麻痺の後遺症も出た。48歳のときのラクナ梗塞より大きな症状だ。アテローム血栓性脳梗塞と思われる。

 なぜ健康に人一倍気を遣ってきた西城さんが二度の脳梗塞に襲われたのか。

 気になる記事があった。「2001年11月にも、たばこの吸いすぎによる「二次性多血症」と過労による脱水症状のため10日間入院」したことがあったという(スポーツ報知記事)。

 二次性多血症(二次性赤血球増多症)とは以下のようなものだ。

喫煙患者では,主に血中の一酸化炭素ヘモグロビン濃度が上昇するため,組織の低酸素症により可逆性の赤血球増多症がみられる;この血中濃度は禁煙により正常化することが多い。

出典:メルクマニュアル

 喫煙は脳梗塞の危険因子である。そして、急性心不全の原因となる虚血性心疾患、急性心筋梗塞の危険因子でもある。

たばこの最大の問題は動脈硬化を促進することです。心臓や首、脳、手足などの血管の硬化は、喫煙者の方が非喫煙者より強いことがわかっています。さらに喫煙が心筋梗塞など虚血性心臓病の重大な危険因子の一つであることは、よく知られています。

吸わない人に比べ、喫煙者が突然死したり虚血性心臓病にかかりやすくなったりする危険度は、どれだけ高まるのでしょうか。

米国のフラミンガム研究という有名な疫学研究によれば、喫煙者が虚血性心臓病や心筋梗塞になる危険性は、非喫煙者の2~3倍で、突然死はなんと5~10倍になっています<表1>。

喫煙は脳出血とはあまり関係がありませんが、脳硬塞の危険因子であり、脳卒中全体のリスクを高めます。

出典:国立循環器病研究センター

 あくまで一般論であるが、脳梗塞と急性心不全の原因である虚血性心疾患、急性心筋梗塞は動脈硬化という共通の原因があるのだ。

血管の健康が寿命を決める

 脳梗塞や心筋梗塞は、血管が傷み、固くなり、狭くなる動脈硬化が原因となって引き起こされることが多い。

 私達病理医は、脳梗塞や急性心筋梗塞で亡くなった患者さんを解剖させていただくことが多いが、こうした患者さんの血管は、あらゆるところで動脈硬化を起こし硬くなっている。一方長寿を全うされた患者さんの血管は、動脈硬化が少なくきれいなことが多い。

 がんなどの別の要因がなければ、血管の健康が寿命を決める大きな要因なのだ。

 動脈硬化は突然起こるのではなく、長い間の生活習慣などが影響し、静かに進行していく。症状が出たときには、相当動脈硬化が進んでいる。

 動脈硬化に影響を与える「高血圧」「高脂血症」「喫煙」は三大危険因子と言われる。

 動脈硬化が進んだ時点で禁煙などをしても、症状の進行を緩めることはできても血管を昔の状態に戻すことはできない。

 だからこそ、この記事を読まれた皆さんは、今すぐ自分の生活習慣を見直して欲しい。

 10代のお子さんと奥様を残されて旅立たれた西城さんの悔しさはいかばかりだろう。あらためてご冥福をお祈りすると同時にご家族に哀悼の意を表したい。

病理専門医&科学・医療ジャーナリスト

1971年横浜生まれ。神奈川県立柏陽高校出身。東京大学理学部生物学科動物学専攻卒業後、大学院博士課程まで進学したが、研究者としての将来に不安を感じ、一念発起し神戸大学医学部に学士編入学。卒業後病理医になる。一般社団法人科学・政策と社会研究室(カセイケン)代表理事。フリーの病理医として働くと同時に、フリーの科学・医療ジャーナリストとして若手研究者のキャリア問題や研究不正、科学技術政策に関する記事の執筆等を行っている。「博士漂流時代」(ディスカヴァー)にて科学ジャーナリスト賞2011受賞。日本科学技術ジャーナリスト会議会員。近著は「病理医が明かす 死因のホント」(日経プレミアシリーズ)。

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