東大研究不正調査、医学部教授おとがめなしのカラクリ(8月4日東大公開資料追加)

東京大学の研究不正調査、医学部の教授は一切おとがめなし。(写真:ロイター/アフロ)

待たされた調査結果公表

 もう一年近くになる。

 東京大学の研究者たちの論文に問題があると、匿名の告発があったのは昨年の8月だった。

 2017年8月1日、ようやくその調査報告が発表された。

東京大学は1日、分子細胞生物学研究所の渡辺嘉典教授らが執筆し、国際科学誌に掲載された論文5本に、グラフの捏造(ねつぞう)など研究不正があったとする調査結果をまとめ、発表した。

出典:東大、渡辺教授らの論文不正を認定 グラフ捏造など

 8月3日に一部資料がホームページで公開された。

 一方で、医学部の教授らの論文には研究不正がなかったと結論づけた。

なぜ医学部はおとがめなしなのか?

 研究不正が認定された渡辺嘉典教授は、ホームページにて文章を発表している。

指摘を受けました操作は、論文の各実験から得られる結論を覆そうとする意図で行ったものではなく、それぞれ掲載誌の指導に従って必要な修正作業を進めております。これらの操作が捏造、改ざんに当たるという厳しい不正認定を受けましたことに対し、自己の不明を深く反省いたします。

出典:東京大学の論文不正調査の結果を受けまして

 渡辺教授が研究不正の認定を受けたのは、告発文の指摘をみればよく分かる。また、公開された資料にも、画像に手を加えた具体例が書かれている。

 しかし、医学部の研究者たちの論文がおとがめなしというのは、まったく解せない。告発文には、多々の問題点が指摘されており、一部はたとえミスだったとしても、統計学的におかしいとさえ指摘されていたのだ。

 現時点で東京大学が公表した調査報告書がウェブページにアップされていないのだが(アップされ次第リンクを追加する)、私は報道機関の方から、調査報告書のコピーをいただき、読んでみた。その内容は、まったく納得できるものではなかった。

 8月3日に公開された記者会見資料には、なぜか医学部関連の資料がない。公開され次第追加する。

個別の指摘に答えていない

 調査報告書は、医学部の研究者たちの論文に様々な問題点があることは認めている。しかし、様々な疑問点に対して個別に答えるのではなく、複数の論文の指摘を10項目に分類し、それに対して回答しているのだ。

東大の調査報告書より
東大の調査報告書より

 しかも、意図的な操作ではなく、ケアレスミスや避けられないエラーだから研究不正ではないという。また、問題ある図は訂正したから、研究不正の指摘はあたらないという。

 (8月4日追記)「医学部の研究者たち」と一緒くたにしないでほしいとのご指摘を受けたが、東大側が医学部の論文の問題をまとめて発表しているので、こう書かざるを得ない。確かに、一部の疑義は論文誌の編集の問題でシロだったようなのだが、誰のどの論文、という具体的なことが書かれていないのだ。そういう意味でも、個別の疑義に個別に答えていないのは問題ありだと思う。

 なぜ、個別の指摘に対して、生データなどを提示し答えなかったのか。それは、問題ある論文の多くが2014年以前に出版されていたからだろう。

 2014年以前は、文部科学省の研究不正に対するガイドラインは2006年につくられたものを使っていた。このガイドラインでは、「調査機関は、不正行為が行われなかったとの認定があった場合は、原則として調査結果を公表しない」とされているのだ。

 ちなみに2014年につくられた新ガイドラインでは、「調査機関は、調査結果(認定を含む。以下同じ。)を速やかに告発者及び被告発者(被告発者以外で特定不正行為に関与したと認定された者を含む。以下同じ。)に通知する。」とあるのみだ。

 研究不正の定義も異なっており、旧ガイドラインでは「ガイドラインの対象となる研究活動は、文部科学省及び文部科学省所管の独立行政法人の競争的資金を活用した研究活動であり、対象とする不正行為は、捏造、改ざん及び盗用であり、故意によるものでないものは不正行為には当たらない。」とされる。一方、新ガイドラインでは「本節で対象とする不正行為は、故意又は研究者としてわきまえるべき基本的な注意義務を著しく怠ったことによる、投稿論文など発表された研究成果の中に示されたデータや調査結果等の捏造ね つ ぞ う、改ざん及び盗用である(以下「特定不正行為」という。)」

 東大医学部の論文の問題点は多く、故意でなくとも「研究者としてわきまえるべき基本的な注意義務を著しく怠った」といえるが、旧ガイドラインの範囲で研究不正ではない、と認定したのだろう。

 告発の様々な指摘に答えておらず、しかも生データも提示があったとされるだけで、公開されていない。確かに旧ガイドラインに沿った結果と言えるのかもしれないが、これでは研究不正ではないと簡単に納得するわけではない。

渡辺教授との差

 医学部の論文では、画像の加工があったことは認められているが、研究不正ではない。一方、渡辺教授らは研究不正となった。この差は何か。

 どうやら、画像を完全に消し去ると、論文の結論に影響を与えるか否かに関わらず研究不正、濃淡をいじったりしたが、論文の結論に影響を与えなければ研究不正ではない、ということになるようだ。どちらも改ざんにあたると思うのだが…

少なくとも問題ある研究行為

 このようにまったく納得がいかない結論となった。

 百歩譲って、東大の調査報告を受け入れたとしても、東大の研究室では、問題ある研究行為(Questionable Research Practice (QRP))、研究クログレイ(白楽ロックビル氏)が常態化していたことは明白だ。

 なぜ研究クログレイはいけないのか。白楽ロックビル氏は以下のように述べる

  1. 悪い奴(個人・組織)ほど偉くなる、悪い奴ほど得をする
  2. 研究文書・発表の信頼性を下げる
  3. 研究者がお互いの信頼性を下げる
  4. 国・企業・国民が研究・研究者を信頼しなくなる
  5. カネ、モノ、ヒトの無駄が生じる
  6. 社会や個人に有害となる
  7. 特定の国だけでなく、悪影響は世界全体が平均的にこうむる

 この研究クログレイのほうが研究不正より数が多く、研究に損害を与えているとの声もある。

 東大の分子細胞学研究所は、加藤茂明教授に続いての研究不正認定だから、組織として重く受け止めているという。

 しかし、医学部からはそういう声はきかない。非常に残念だ。

 今回の件は海外のメディアも報道している。

 Natureニュースの記事中で、マサチューセッツ工科大学の細胞生物学者、アンジェリカ・アモン氏(Angelika Amon)は以下のように言う。

ここには灰色の領域はありません。データ操作は科学的な不正行為です(原文:There is no grey area here. Data manipulation is scientific misconduct.)。

出典:Natureニュース記事

 日本の研究の信頼回復は遠いと言わざるを得ない。