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「長時間労働者39.9%」は、マネジメントが滅茶苦茶なのが原因だ

遠藤司皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー
(写真:アフロ)

 8月21日、BIGLOBEは「働き方に関する意識調査2019」を発表した。

 調査によれば、長時間労働をしている人は、2017年の42.1%から、2019年の39.9%と、この二年でほとんど変わっていない。「長時間労働をしているか」との質問に対し、「とてもそう思う」が11.9%、「ややそう思う」が28%という結果となった。

 長時間労働の理由としては、「仕事量と人員のバランスが合っていないから」が53.4%と、半数以上を占める。2017年の調査では53.9%であったから、状況はほぼ変わっていないことになる。驚くことに、会社での長時間労働をなくすための工夫に関して質問すると、「工夫していることはない」が、36.4%にものぼる。取り組みについても、「ノー残業デーの設定」が31.6%、「業務の平準化」が20.1%、「残業の事前申告・承認制」が20.1%となった。

 仕事量と人員のバランスが合わないのは、無駄な業務が多いからであって、人手不足のせいではない。それが理解されていないから、個人の裁量で改善させようとし、会社は何も工夫しないのだ。工夫にしたって、ノー残業デーを設定しても別の日に業務が詰められるだけだし、業務の平準化は悪くないが、下手な人に任せれば、ひっかき回されて終わることになる。さらには、残業を申告・承認制にすれば、余計な申告作業が増えるだけだ。意味がないどころか、逆効果である。

 ようするに、やり方が滅茶苦茶なのだ。社内設備の刷新は時期が来なければ難しいから、二年ではさしたる改善効果が上がらないと言う人もいる。しかし、本当に必要なのは、業務を支えるシステムの改善ではなく、業務そのものをなくすことであろう。そうすれば、設備の維持コストを削減することもできる。より価値のあることに使うことができるようになる。

まず「なくす」、次に「削る」

 調査にあるように、約8割の会社では、長時間労働を抑制する専任の組織がないようだ。

 しかし働き方改革は、個人の裁量に任せるのではなく、会社が率先して行うものだ。なぜなら業務は、会社の都合で上から降ってくることが多く、個人の裁量でどうにかなるものではないからだ。

 抜本的な改革が望まれるときには、トップマネジメントが率先して選任の組織をつくる必要がある。カルビー元会長の松本晃氏の手法は、大変参考になる。

 カルビーでは、無駄な会議や書類を一掃した。また、売れない商品を生産中止にし、社員を生産的でない仕事から解放した。これらはマネジメントの父、ピーター・ドラッカーも推奨していた手法である。松本氏は言う。書類そのものには、ほとんど価値がない。コンビニに持って行っても、何も買えない。そういうものを一生懸命、時間をかけてつくるのはどういうことか。読まされる方だって時間の無駄だ。まったくの正論である。

 会議も同様で、ほとんどは何の価値もない。やめたら社員はみんな喜んだし、仕事にも何の支障も起きなかった。まさしく、楽しいのは集める側だけで、呼ばれた方はちっとも楽しくないのだ。意味のある会議とは、情報が伝えられる、勉強になる、意志決定がなされる、の3つがそろう会議だけだ。素晴らしい考え方である。さあみんな、カルビーに転職しよう。

 ここまでが、会社の選任組織の仕事である。つまり、業務レベルでの改善は会社が行うべきだが、作業レベルとなれば、個人の裁量、あるいはチームの裁量に任せる必要がある。個々の作業は、はたから同一に見えても、実際には異なる。上からの平準化によって、逆に非効率になる恐れがあるのだ。

 考え方は「すべての作業を1分削る」である。例外なく、すべての作業だ。100ある作業を、すべて1分削ることができれば、1時間40分もの時間が削減できる。メールの文章を3行減らそう。離れた部署に行く際には、一度に2、3の用事を済ませてしまおう。紙出力は時間がかかるから、やめよう。「平素より大変お世話になっております」などの枕詞は、署名に入れてしまおう。チームで仕事をする際には、メッセンジャーやチャットを活用しよう。フレデリック・テイラーが『科学的管理法』で述べたように、細部を工夫し、習慣化することで、作業は効率化される。

 業務にせよ作業にせよ、詰めつめで8時間以内に落とす、という姿勢ではいけない。できれば仕事にゆとりをもたせて、5、6時間程度まで削減することを目指すべきだ。そのためには、抜本的な改革を行い、業務そのものをなくす必要がある。書類作成や会議のみならず、生産性の低い仕事もまた、思い切って捨ててしまおう。トップの意識が変わったとき、ようやく社員もまた、作業レベルの改善を行う気持ちが生まれるというものだ。

創造的な仕事を「増やす」

 生産性とは、労働量に対して生まれた生産量あるいは生産価値のことである。つまり、より少ない時間で、より多くの価値を生み出すことが、生産性の向上である。

 そうであれば、生産性を高めるためには、労働時間を削るだけでなく、より高い価値を生み出すビジネスへとシフトする必要がある。そのため、業務と作業を削ることで余った時間は、より生産性の上がるビジネスを構想し、実際に試す時間に使われなければならない。すべての創造的=生産的な会社は、そうした時間を活用している。

 重要なことは、社員の好きなことに取り組ませることだ。創造性の研究者ミハイ・チクセントミハイは、創造的な人生を送るための最初のステップは、好奇心や興味を育むことだと述べている。好奇心とは、カーネギーメロン大学のジョージ・ローウェンスタインによれば、情報の空白に対する反応だ。すなわち、知りたいことと、すでに知っていることの間に空白があるとき、人は好奇心を抱くのである。

 創造とは、いまだ手の届かないものに到達するための営みである。そこに到達するには、未知なるものとの出会いと、試行錯誤のための時間が必要である。そのような時間を確保するためなら、社員は知恵を出し合い、業務と作業を削る方法を考え出すだろう。自分の好きな仕事、創造的な仕事を、余計な仕事によって邪魔されたくはないからである。

 創造的な仕事は、社員の内なる動機によってしか生まれない。社員の自由意思を尊重し、行動に移す時間を確保できる会社だけが、生産性を高めることができるのである。

皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー

1981年、山梨県生まれ。MITテクノロジーレビューのアンバサダー歴任。富士ゼロックス、ガートナー、皇學館大学准教授、経営コンサル会社の執行役員を経て、現在。複数の団体の理事や役員等を務めつつ、実践的な経営手法の開発に勤しむ。また、複数回に渡り政府機関等に政策提言を実施。主な専門は事業創造、経営思想。著書に『正統のドラッカー イノベーションと保守主義』『正統のドラッカー 古来の自由とマネジメント』『創造力はこうやって鍛える』『ビビリ改善ハンドブック』『「日本的経営」の誤解』など。同志社大学大学院法学研究科博士前期課程修了。

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