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「他人の不幸を喜ぶ人たち」はどうすれば幸せになれるのか

遠藤司皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー
(写真:ペイレスイメージズ/アフロ)

 5月24日、ダイヤモンドオンラインに「職場・仕事で「嫉妬心」を抱くことは、本当に悪いことなのか」と題する記事が掲載された。

 記事にあるように、嫉妬心は悪しきものとされているが、ビジネスの現場ではよい方向に働くこともある。例えば、同僚と切磋琢磨したり、負けたくないという気持ちを奮起させたりするために、嫉妬心は有効だ。その一方で、他者に対する恨みや非協力的な態度にもつながりかねないという危険もある。そのような扱いづらい感情が、嫉妬心というものである。

 バーナード・マンデヴィルは『蜂の寓話』のなかで、嫉妬は悪徳ではあるが、産業の振興をもたらすと述べている。有益かどうかはさておき、たしかに感情は、人間を何らかの行為へと誘うのである。そうであれば重要なことは、それがよい方向に向かうようにすること、またそうなるような環境を整えることであろう。嫉妬心の悪しき側面に目を向けながら、人を誘う方法について検討していきたい。

他人の不幸を喜ぶ気持ち

 個人心理学の創始者アルフレッド・アドラーに言わせれば、感情はコントロールできない。あくまでも感情は、何らかの刺激に対する反応 response にほかならず、押し殺すことも、別の感情へと変えることも、できはしないのである。

 ただし、刺激と反応の間には、その人の認知がある。例えば、他者から「バカだなぁ」と言われたとき、親密な関係を表しているのだと考える人もいれば、公然と貶められたと考える人もいる。前者の場合では喜びの感情が生じるし、後者の場合では怒りの感情が生じることだろう。

 人は刺激に対し、自分のなかで意味づけをすることで、感情を生み出しているのだ。したがって人が変えられるのは、結果としての感情ではなく、物事をどう捉えるかである。捉え方次第で、世界はあなたにとって生きやすくもなるし、反対に敵だらけの場所にもなりうる。

 とかく自尊心の低い人は、周囲の反応を否定的に捉えやすい傾向がある。ささいな出来事にも過剰に反応し、何度も思い返すことで主観的な事実を飛躍させてしまい、ネガティブな感情を増幅させてしまうのだ。こうして彼らは、強い嫉妬心、特殊な嫉妬心を抱いてしまう。とりわけ自尊心の低い人が抱く嫉妬心は、厄介な方向に行きやすい。

 ケンタッキー大学の社会心理学者、リチャード・スミスは、シャーデンフロイデという他人の不幸を喜ぶ感情について研究している。ネットの世界で言うところの「メシウマ」というのが、この感情だ。自尊心の低い人、すなわち現状の自分を認めておらず、自分の可能性を信じられない心もちの人は、シャーデンフロイデを抱きやすいようである。

 シャーデンフロイデは、自らが直接手を下したときではなく、その人が勝手に自滅したり、不正行為によって失墜したりしたときに、生じやすい。この点からしても、自尊心の低い人が抱きやすいものであることが分かるだろう。彼らは自分の可能性に否定的であるから、手を出さない。そのため、他者自身の落ち度によって失敗してくれたほうが、都合がよいのである。

 シャーデンフロイデが単なる嫉妬の感情と異なるのは、社会的に「上」の人間ばかりではなく「下」の人間に対しても抱かれることだ。この場合の「上」とか「下」というのは、あくまでもその人の認知によるものである。スミスは言う。

「私たちは、自分自身の良さを感じるように動機づけられている。つまり、自分についてのポジティブな感情を維持する手立てを探る。そのために頼りになる方法が、自分たちが価値を置いている属性について、他者より優れている自分を見つけ出すことだ。自尊心が揺らいでいるときに、劣った人物と比べると良い気持ちになる。」

 よってスミスは、シャーデンフロイデは「下」になったものとの比較によって生じると述べている。不正を働いた人や、大きな失敗をした人は、自分と同等か、それよりも「下」になったはずだ。そのように感じられる出来事が生じたときに、シャーデンフロイデは生じるのである。偉そうなことを言っていても、所詮はその程度。だとしたら、自分ができないのも当然だろうと自らを納得させ、安心させるのである。

 自尊心の低い人が他者と比較するとき、その人の心は不安に陥る。そして、自分自身では大きな成果を収めることはできないと感じているから、他者のランクのほうが下がることを期待してしまう。言うまでもなく、そのような人たちからなる組織では、ビジネスは発展していくことはない。組織とは、各々が自らの強みを発揮し、互いに協力し合うことで目標達成を目指す集団のことである。

自尊心を高めるには

 出来事に対して前向きな捉え方をするには、自尊心を高める必要がある。

 自尊心の高い人は、チャレンジ精神が旺盛である。失敗は成功のもとであり、現状の欠点は経験を積むことで克服できると考えている。よって立ち直りが早く、何度も試行し続ける。かくして実践知を身につけ、さらに大きな成功に至ることができるようになる。

 反対に、自尊心の低い人は失敗を恐れてしまう。そのため彼らの自尊心を高めるには、少し頑張ればできるかもしれないと期待できるくらいの仕事に取り組ませるとよい。それが達成できたときには、もう少しハードルの高い仕事に取り組ませるのである。ようするに、学習のステップを踏ませることが必要である。

 もちろんその際には、他者と比較させないように配慮すべきである。自尊心は、安心できる環境のなかでしか高められることはない。それゆえまた、たとえうまく行かなくても咎めず、挑戦に向けて促さなければならない。失敗の先に成功があるのだと、積極的に意識づけを行わなければならない。

 元来、自尊心を持たない人などいない。彼らは過去に、否定されたり、けなされたりし続けたことで、自尊心を失ってしまったのである。だとしたら行うべきは、自尊心を植えつけることではなく、回復する機会を与えることである。人としての心を取り戻すために、温かく見守ることである。

 最後に一言。善いことをしている人は、たとえそれが失敗に到ろうとも、善い人である。だとすれば、それでよいではないか。たとえ成功していても、悪人であれば意味がない。善い人間になろうと懸命に努力し続けている人よりも立派な人など、どこにいると言うのだろうか。

皇學館大学特別招聘教授 SPEC&Company パートナー

1981年、山梨県生まれ。MITテクノロジーレビューのアンバサダー歴任。富士ゼロックス、ガートナー、皇學館大学准教授、経営コンサル会社の執行役員を経て、現在。複数の団体の理事や役員等を務めつつ、実践的な経営手法の開発に勤しむ。また、複数回に渡り政府機関等に政策提言を実施。主な専門は事業創造、経営思想。著書に『正統のドラッカー イノベーションと保守主義』『正統のドラッカー 古来の自由とマネジメント』『創造力はこうやって鍛える』『ビビリ改善ハンドブック』『「日本的経営」の誤解』など。同志社大学大学院法学研究科博士前期課程修了。

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