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自民党総裁選4候補の対中政策と中国の反応

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
自民党総裁選立候補者4人(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 自民党総裁選4候補の対中政策を、人物像を含めて考察し、中国が日本で公表された各候補の対中政策をどのように見ているかを分析する。

◆河野太郎候補

 18日に日本記者クラブで行われた公開討論会で、日中関係に関する記者からの質問に対して河野氏は主として以下のように答えている。

 ●日中関係は人的交流というのが基礎の1つだ。このコロナの中で全くそれが動いていないというのがやはり非常に大きいのではないかと思う。

 ●首脳会談は定期的にやっていくべきで、政府間の会談というのも続けて意思疎通を図ることが大事だ。

 河野氏は「人的交流」を重視するために中国外交部の華春瑩報道官とのツーショットを何度も自撮りしたのだろうか。

 「首脳会談は定期的にやっていくべき」と回答したのは記者の質問の中に「来年は日中国交正常化50周年となるが、それを機に中国との間で首脳外交を再開するのか」という質問に答えたもので、つまり河野氏が総理になったら来年の50周年記念に「習近平を国賓として日本に招聘する」ということを意味する。

 この一つを考えただけでも河野氏を総裁に選んだら、日本は「親中まっしぐら」に進むことを示している。筆者は『激突!遠藤vs.田原 日中と習近平国賓』で書いたように、今この状況下における習近平の国賓来日には絶対に反対だ。

 河野氏はまた9月17日の記者会見で、弾道ミサイルを相手国領域内で阻止する敵基地攻撃能力の保有に関し「おそらく昭和の時代の概念だ」と述べた(産経新聞<河野氏「敵基地攻撃能力は昭和の概念」>や朝日新聞デジタル<河野氏「敵基地攻撃論は昭和の概念」 高市氏唱える「電磁波」に異論>など)。

 中国や北朝鮮を刺激したくないという意図が如実に表れている。

 また、5Gなどを活用したデジタル社会を提唱してハイテク化を推進するような主張をしている割には、最先端のハイテクが必要な敵基地攻撃能力を「昭和の時代」と言って、日米同盟重視で逃げたことこそ「昭和の時代」と言うべきではないだろうか。回答で「敵基地攻撃能力」を「敵基地なんとか能力」と言ったところを見ると、ひょっとしたら敵基地攻撃能力の何たるかを明確には認識していないのではないかとさえ疑ってしまう。

 一方、「親子は別人格」だと思っているが、しかし河野太郎氏の父親で「河野談話」で知られる河野洋平氏は9月15日、都内の青木幹雄・元参院議員会長の事務所を訪れ、息子・太郎氏の「支援に協力を求めた」ようだ。16日の読売新聞が<父親として居ても立ってもいられず…悲願成就へ河野洋平氏、かつての「参院のドン」訪問>と伝えている。

 これでは9月12日のコラム<河野太郎に好意的な中国――なぜなら「河野談話」否定せず>に書いた中国の観察が正しかったことになるではないか。

 河野氏はスピーチがうまいし、原稿に目を落とさないという点では高く評価する。しかし、本人が媚中的なだけでなく、韓国に融和的姿勢を見せる石破氏が応援していたりなどという点を見ると、河野氏が総理大臣になることを考えただけで日本の未来は絶望的なほど尊厳を失っていくだろうと暗澹たる気持ちになってしまう。

◆岸田文雄候補

 同じ場面で比較するなら、18日に日本記者クラブで行われた公開討論会で、日中関係に関する記者からの質問に対して岸田氏は主として以下のように答えている。

 ●首脳を始め要人の対話はすべての基本になる。ぜひこうした対話は続けていかなければならないと思っている。

 ●来年の日中50周年に向けて、少しずつ人的交流を積み重ねながら、将来を探っていく。なかなか今すぐには未来の方向性は見通せませんが、こうした手がかりは大事にしていかなければならないと思っている。

 「人的交流」を重んじ、結局来年の日中50周年記念では、習近平の国賓来日を推進するかもしれないという意味では河野氏と変わらないが、しかし敵基地攻撃能力に関しては「抑止力として用意しておくことは考えられる」と肯定的な回答をしており、ウイグル族など少数民族の弾圧に関する人権問題を担当する首相補佐官を新設する方針も明らかにしている(読売新聞<岸田氏、少数民族弾圧など人権問題担当の首相補佐官新設へ…動画ライブ配信>)ことを考えると河野氏と同じなわけではない。

 総体的に見ると、岸田氏には、どの方向にでも行けるような曖昧模糊としたところがあり、「中庸」といった印象を与える。

 実は岸田氏が外務大臣だったころ、NHKの「日曜討論」に同時出演したことがある。日米安保に関するやや厳しい質問をしたかったので、事前に番組司会者に生放送で聞いていいか否かを尋ねたところ、「大いにぶつけて下さい。大歓迎です」と激励されたので質問をした。

 それまで岸田氏に関しては上品な面持ちなどから好感度が高く、ある意味ファンだったのだが、回答するときの岸田氏の態度は実に傲慢で「お前ごときが何を言うか」といった偉ぶった表情だったことから非常に失望した経験がある。

 しかし今般の立候補に当たっては、昨年の総裁選失敗で「岸田はもう終わった」と言われたことから反省し一念発起した旨のエピソードを聞いたり、また実際に謙虚になった真剣な表情を見るにつけ、支援したい気持ちが少しだけ湧いてきた。

◆高市早苗候補

 高市氏に関してはわざわざここで書くまでもなく、実に毅然としていて主義主張が一貫しており、対中政策に関しても頼もしく、全くブレがない。国家観もしっかりしているのは高市氏だけだ。スピーチもうまく、全面的に支持したい。

 一つだけ難を言うなら、個人的感覚だが、推薦人の中に片山さつき氏がいることだ。

 片山氏は、その昔、ある政治家のパーティーで一緒になり、ご挨拶をしようと思って、相当に腰を低くして名刺を渡したのだが、彼女は「0.1秒」ほど私の顔を見たが、名刺を見ることはなく、サッと私の手から名刺を取るとそのまま隣にいた秘書に「捨てるように」渡し、私とは口を利くこともなければ顔を見ることもなく、他の大物政治家の所ににじり寄っていった。

 こんな人物が推薦人に入っていると、論功行賞で閣僚になったりする可能性があるので、それを思うと高市氏を応援したい気持ちが引いていく。

 議員の方々、日ごろの言動は重要であることを肝に銘じてほしい。

 「大河の一滴」とまでは言わないが、「一寸の虫にも五分の魂」がある。

 「お前ごときが」という傲慢さは、自らに跳ね返ってくる。

◆野田聖子候補

 野田氏に関しては、やはり多くを語る必要はないだろう。対中政策に関しては非常に「平和的」で、昔の社会党を思い出す。中国からも「ハト派」と称されている。

◆中国の4候補に対する反応

 さて、その中国だが、自民党総裁選に関する情報は、まるで自国の問題であるかのように、実ににぎにぎしくネットに溢れかえっている。

 官側の論評としては中国共産党機関紙「人民日報」傘下の「環球時報」電子版「環球網」が最も多く、新華網や中央テレビ局CCTVの情報も数多くみられる。

 いずれも「明確に親中である」として河野太郎を大きく扱っている。

 たとえば9月18日の「環球網」は、その日の午後に行われた日本記者クラブでの公開討論会を、記者の質問が終わるやいなや、17:11に<日本自民党総裁選挙公開討論会、日本メディア:河野太郎が中国とは定期的に首脳会談を行うべきと言った>というタイトルで報道している。

 相当準備していないと、これだけの早業はなかなか難しい。

 もちろん大きく扱っているのは、本コラム冒頭に書いた日中関係に関する発言で、「定期的に首脳会談を行うべき」と「政府間の会談を通して意思疎通を行うことが非常に重要だ」という言葉だ。

 この報道の11分後である17:22には、「環球網」は<アメリカが中国に対抗するために日本に中距離弾道ミサイルを配備するのを認めるのか?日本の自民党総裁候補4人は各自の意見を表明した>というタイトルで「河野氏と岸田氏が慎重な態度」、「高市氏が積極的に肯定」、「野田氏が否定」と報じ、野田氏を「ハト派」と持ち上げている。

 そもそも9月17日の「環球網」の<派閥の力が弱まり、対中姿勢が異なる、自民党総裁選の“争奪戦”が開幕した>にあるように、中国は「日本を中日間四つの政治原則という正常な軌道に戻し、両国の往来を維持する方向に持って行ける人物」がトップに立ってくれればいいと思っている。他国の選挙にあれこれ言うなと思うが、米中関係が悪い今、中国は日本との関係構築に必死だ。特に半導体関係などアメリカから制裁を受けているために、何としても日本の技術が欲しい。

 日本を味方に付けて、何とかアメリカが仕掛ける対中包囲網を崩したいと思っている。

 もっとも、9月10日のCCTVの<日本自民党総裁選挙競争激烈>では、「誰がなろうと短命で終わり、日本は回転ドア式首相の時代に戻るだろう」と達観している解説も見られる。

◆日本は同じ過ちを繰り返すな

 日本は中国共産党の誕生から始まって、日中戦争の時も天安門事件の後も、ひたすら中国共産党が発展し、一党支配体制が維持される方向に貢献してきた。その詳細は『裏切りと陰謀の中国共産党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』の第七章四で述べた。

 今回の選択も、必ずその方向に動いていく。

 米中の力が拮抗している今、日本は最後の決定的な貢献を中国共産党に対してするような道を選んではならない。

 中国は言論弾圧を強化していく国であることを、どうか忘れないでほしい。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

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