ファーウェイ、一夜にして独自OS:グーグルは米政府に包囲網解除を要求か

HUAWEI(写真:ロイター/アフロ)

 米国から締め出されアンドロイド提供も断られたファーウェイは一夜にして独自OSを発表し、中国ネットは燃え上がった。かえって安全を脅かすことを理由にグーグルは米政府のファーウェイ包囲網解除を要求している。

◆一夜にして独自OS「華為(Huawei)鴻蒙(Hongmeng)」を商品登録

 5月15日に米政府からエンティティ・リスト(Entity List)(貿易を行うに好ましくない相手と判断された企業などのリスト)に挙げられたファーウェイは、5月21日に中国の中央メディアの集中取材を受けた(詳細は5月22日付のコラム<Huawei一色に染まった中国メディアーー創設者が語った本音>)。

 今回は、このとき任正非CEOが言った以下の二つのことに注目したい。

 1.スペア・タイヤは早くから準備している。

 2.グーグルとは、いろいろ話をしている。その内容は今は言えない。

 全体として任氏は、ともかく「これまで30年間、共に歩んできたアメリカの企業に感謝している」と、ひたすら米企業への感謝の思いと「市場を支え合う仲間」としての友情を強調していた。

 まず「1」に関して述べよう。

 ファーウェイの頭脳である半導体メーカー(正確には理念設計)のハイシリコンは、任氏の取材に先駆けて「ハイシリコンにはスペア・タイヤがある」とネットで書簡を公開していたが、任氏も取材で「スペア・タイヤ」に関して言及した。

 それによれば、ファーウェイは米大手半導体メーカーのクァルコムなどから半導体の一部を輸入はしていたものの、「それは世界の市場に融け込むためであって、ファーウェイ自身は実は早くから同じレベルの半導体を準備している。だから半分は自社の半導体を使い、半分はわざと他社から輸入していたのだ。これは、いざという時の孤立を防ぐためだった」と語っている。

 OS(Operating System)に関しても同様のスペア・タイヤは早くから準備していると言っていた。

 そんな強がりを言ったところで、「さすがにOSに関してはお手上げだろう。どうせ出来やしないさ」と日本人の多くは「ファーウェイの失敗」に期待したようだが、その期待はすぐさま裏切られたようだ。

 取材から3日後の5月24日、中国の「国家知的財産権(知識産権)局商標局」はファーウェイが「華為鴻蒙(Huawei Hongmeng)」というファーウェイ独自のOSの商標登録を終えたと発表した。

 それによれば、ファーウェイは2018年8月24日にすでに独自OS「華為鴻蒙」を商標登録すべく申請を出していて、登録公告をしたのは2019年5月14日だとのこと。米政府がエンティティ・リストを発表する1日前のことだったことが分かる。事前に準備していたようだ。だからインタビューを受ける任氏の態度には余裕さえ感じられたということか。

 商標専用使用権の登録期間は2019年5月14日から2029年5月13日まで。

 任氏は「スペア・タイヤは早くから準備していた」と言っていたが、なんと、2012年から独自OS「華為鴻蒙」に着手していたというから、「いつ、何が起きてもいいように」周到に準備されていたものとみなしていいのだろう。

◆燃え上がる中国ネット

 現在、ファーウェイは100万台のスマホを用いて、独自のOSをさまざまな端末に搭載した時の適応性、安全性などの測定を行なっている。その測定に中国中の大手IT企業が支援を申し出た。

 アリババ、テンセント、バイドゥ……などが次々と応援の手を差し伸べ、中国のネットはファーウェイとそれを応援する大手企業に対して賛美の声を上げ、まさに「真っ赤に燃え上がっている」ようだ。

 特にアリババの馬雲が、トランプ大統領に「アメリカに300万人の就職先を提供する」と約束したことを取り消したために、「馬パパ、偉いぞ、よくやった!」と賛辞を惜しまない。

 中国のネットは「華為加油(ホァーウェイ、ジャーユー)(ファーウェイ、頑張れ)!」の応援歌に満ち、ファーウェイと人民の一体化が過熱している。

◆グーグルがファーウェイ側に寝返ったか?

 慌てたのがグーグルのようだ。

 トランプ政権がファーウェイに対して半導体などの輸出禁止を発表すると、グーグルは直ちにファーウェイに対してアンドロイドのライセンス剥奪措置を宣言。完全にトランプ政権の方針と歩調を合わせていた(かに見えた)。これは本来ならファーウェイに致命的な打撃を与えるはずだった。

 だというのに、ファーウェイの任氏は5月21日のインタビューで「グーグルは良い仲間だ。いろいろと方法を考えてくれている」と余裕の表情を見せていた。

 それもそのはず。

 グーグルは既にファーウェイがOSを独自開発していることを知っていたのだろう。そして任氏とは「話ができていた」としか思えない。

 ネットには

   ●青ざめるグーグル

   ●グーグルは慌てたのか?

   ●グーグルはファーウェイに寝返ったのか?

など、さまざまなショッキングな言葉が溢れているが、要はグーグルは米政府(商務省)に「トランプ政権によるファーウェイへの攻撃包囲網を解除するように求めた」というのである。

 理由は、「米政府はファーウェイに安全上の問題があると言うが、しかしオープンソースを用いてアンドロイドに類似したOSをファーウェイが作れば、かえって米政府の安全を脅かす危険性がある」とのこと。なぜなら、AOSP(Android Open Source Project)として公開されると、オープンソース・ソフトウェア・ライセンスが適用され、自由に閲覧もしくは再利用できるようなルールになっている(らしい)。だからファーウェイに、それはルール違反だと言えなくなってしまう(らしい)。グーグルは自由に改良できるLinuxをもとに作っているため、スマホなどを開発するメーカーによって積極的にカスタマイズされて発売されている。だから大丈夫なのだろう。素人目には、知財権に関して大丈夫なのかと思ってしまうが、グーグルもそういった批判は発表しておらず、むしろバグ(プログラム上の欠陥)が発生して安全が保証できないスマホが蔓延するので、ファーウェイ包囲網は、かえって米国に安全上のリスクをもたらすという論理で、グーグルは米政府に抗議している。

 しかし、これは「ファーウェイにしてやられた」ということではなく、最初から仕組まれていたのではないかと、筆者には映る。

◆シリコンバレー精神か?

 なぜなら、かつて『ネット大国中国 言論を巡る攻防』(2011年、岩波新書)でグーグルの中国撤退に関するプロセスをつぶさに追いかけたことがあるが、グーグルには常に「良心」がある。だからこそ中国政府の言論弾圧と統制に抗して、グーグルは中国市場を撤退したのだ。そのとき多くの中国の若者は民主を求めてグーグルとの別れを涙で惜しんだものだ。

 グーグルの理念「邪悪になるな」(Don’t be evil)に関しては、最近では3月25日付のコラム<グーグルよ、「邪悪」になれるのか?――米中AI武器利用の狭間で>でも触れたが、そのグーグルの魂は彷徨い続けているようにも見える。

 一方、筆者は『中国がシリコンバレーとつながるとき』(2001年、日経BP社)に書いたように、長年にわたってシリコンバレーの企業家たちと接触し、シリコンバレー精神とは何かを学んだつもりだが、彼らには母国アメリカに対する「反骨精神」のようなものがあり、常に「グローバルの世界」の中に命を見出して生きているように映った。その彼らがトランプ政権の「一国主義」あるいは「保護主義」に共鳴するはずがない。

 企業として生き延びるために一定程度は米政府に従うだろうが、彼らの魂は「グローバル」にある。それは中国政府に「いつ倒されるか分からない」として、全世界に拠点を広げていったファーウェイの運命に、一脈通じあるものがあるにちがいない。

 いずれにせよ、グーグルは「ファーウェイ包囲網の解除」を米政府に求めたことだけは確かなようだ。

 このニュースを最初に伝えたのはFinancial Timesのようだ。但しこのサイトは全文が読めたり読めなかったりして、不安定だった。現時点では “Subscribe to the FT to read: Financial Times Google warns of US national security risks from Huawei ban.” という見出しの所で読めるはずだが…。

◆「Hongmeng OS」搭載のスマホ発売日

 中国のネット情報ではあるが、「Hongmeng OS」を搭載したスマホの発売は、今のところ、今年の9月22日になるだろうとのこと。新たに「方舟OS」と命名し、MATE 30 PROという形で登場するらしい。

 任氏は5月21日のインタビューで、「少し遅れる」と言っていたが、9月22日であるなら、それほど遅れたとも言えないのではないか。

 任氏の言葉によれば、米企業と30年間にわたって培ってきた「友情」があるらしいので、今後、一つ一つ注意深く考察していく必要があるだろう。

 追記:グーグルの行動規範は形式的には“Don’t be evil”から” Do the right thing ”に変わった(2015年にAlphabet体制になってから)。しかしそれでもなお、現在の行動規範にも、最後の一文に “And remember… don’t be evil, and if you see something that you think isn’t right ー speak up!” (忘れないで……邪悪にならないで。もし不正を見つけたら、すぐに報告しよう!)という形で、“Don’t be evil”が残っている。