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米中関係「四十にして惑う」

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
トランプ大統領と習近平国家主席(写真:ロイター/アフロ)

 四十にして惑わずと言うが、今年1月1日に国交正常化40周年を迎えた米中関係は「四十にして惑っている」と中国共産党系の環球時報が伝えた。中国は今のアメリカをどう見ているのか、そして今年はどうなるのかを考察する。

◆環球時報評論――「四十にして惑う」米中関係

 昨年末の12月28日、中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」が「“四十にして惑う”中米関係はどこに行くのか」という評論を掲載した。孔子曰く「四十にして惑わず」から始まるその評論には、米中関係には「一つの中心」と「三つの基本点」があるとして、概ね以下のようなことが書いてある。

1.一つの中心:「全面的に展開し始めたアメリカの対中競争」が中心。

  ●政治的にはアメリカは、アメリカ主導の国際秩序に中国が挑戦しようとしていることを阻止し、中国がアメリカ社会に“浸透”しようとしているのを阻止しようとしている。

  ●経済的にはアメリカは、貿易不均衡問題と中国の市場開放の問題を解決しようとしており、また、中国が科学技術領域で著しい進歩を遂げようとしているのを阻止しようとしている。さらに、中国の産業政策を変えさせようとさえしている。

  ●安全保障上アメリカは、中国の軍事力が高まっていることに対応しようとしており、また中国の地政学的な戦略を抑制しようと試みている。

2.三つの基本点:アメリカは「断絶、規制、圧力」という三つの基本点を用いて中国に以下のことをしようとしている(「米中」は原文通り「中米」に)。

  (1) 断絶 

  ●アメリカの優勢なハイテクが中国に流れることを阻止するために、以下の措置をアメリカが中国に対してとっている。

   ・技術面で中米断絶を推進する。

   ・中国の対外投資政策を変えさせる。

   ・中国の対米投資を制限する。

   ・中国の留学生や学者がアメリカでデリケートな技術方面の専門を学ぶのを禁止し、アメリカで科学技術の研究活動に従事するのを禁止する。

  ●アメリカの国防関連業の対中依存がもたらすリスクを軽減するために以下のことを実施する。

   ・中米産業チェーンの連鎖から脱却する。

   ・アメリカの国防関係請負業者(軍事産業関係者)は中国大陸にある生産基地を他に移転させる。

  (2) 制限

   アメリカは対中政策を「接触」から「競争」に転換したのに伴い、対中制限を強化させている。たとえばアメリカは中国の政治的浸透を制限するために、中国メディアや文化機構(孔子学院や基金会)がアメリカで活動することを制限し始めた。その目的のために中国人の入国ビザ制限を設けたりしている。(筆者注:現に米連邦議会上下両院の超党派議員連は、アメリカのAP通信が、中国政府の通信社である新華社との業務提携を強化したことに対して、中国政府のプロパガンダ工作に利用される恐れがあるとして抗議表明をしている。孔子学院に関しては昨年2月28日のコラム「孔子学院が遂にFBI捜査の対象に」で詳述した。)

  (3) 圧力

   中国企業あるいは個人がアメリカの知的財産権を侵害しているとして、アメリカはネットビジネスやスパイ活動に対して、アメリカが実施しているイラン制裁や北朝鮮への制裁命令に違反するとして司法手続きや制裁を加えることによって中国に圧力を加えている。それ以外に台湾問題や南海(南シナ海)問題などにおいても圧力をかけている。

◆トランプ陣営の混乱

 トランプ陣営には、対中政策に関して5つの派閥があると、評論は続ける。

 1. 貿易保護主義者:対中貿易赤字に強い関心を持つ一派。

 2. 戦略保護主義者:中国がアメリカのハイテクを盗み取ろうとしているとしてそれを防止することに強い関心を持つ一派。

 3. ウォール街一派:中国の金融市場に進出することに強い関心(筆者注:これに関しては拙著『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』のp.174にある「清華大学の顧問委員会に数十名の米財界CEO」とp.276にある「ウォール街と結びつく習近平」で詳述した。) 

 4. 国家安全タカ派:中国の戦略と競争し、中国を抑え込もうとしている。

 5. 国家安全穏健派:中国の軍事現代化、南シナ海、台湾問題などに圧力を加えながら、一方では激しい衝突が起きないようにするとともに、両国関係の安定に危害を及ぼさないようにしている。

 これら5つの派閥が互いに牽制し合ったり協力したりしているが、トランプは全体を掌握できておらず、その時々の自分の政治的なニーズによって取捨選択したりしている。しかし結果的にはホワイトハウスの混乱を招いている。

◆力を付けた中国が気に入らないアメリカ

 評論は続ける。中国が力を付けてきたので、常に世界の老大(ラオダー。トップ)でいたいアメリカは気が気じゃない。中国がアメリカに追いつき追い越して、世界のナンバー1になるのを、何としても防ぎたい。中米関係は「協力と競争の共存」モデルから、「競争主導型」モデルへと転換しつつある。長年、米中両国は経済交流と人文交流を基礎に置いてきたが、今はそれが崩れ2010年以来、最も悪化している。

 2018年12月初旬に米中間では90日間の休戦合意が成されたが、これはあくまでも貿易面であって、科学技術方面では、アメリカは絶対に譲らないだろうし、中国も譲らない。

◆2019年は厳しい1年に

 したがって2019年は厳しい状況が続くだろう、と評論は締めくくっている。中米対立は常態化し摩擦に対する双方のコントロールは緊迫してくる。

 とは言え、そう悲観することもない。なぜなら中米両国は、互いに離れられない関係にあるからだ。もちろん今は、共和党も民主党も同様に対中強硬で一致しているが、しかしそこには明らかに「トランプの烙印」があり、長期的にはアメリカ国内の政治経済状況の変化が、必ず対中政策に変化をもたらすしかないところに追いやられる。

 これからの40年間を考えると、力関係が変わってくるので、新しい協力モデルと競争への新しい規則が生まれてくるだろう。(以上が、評論の概略)

◆トランプと習近平の新年祝賀交換

 米中国交正常化40周年を記念して、トランプ大統領と習近平国家主席が今年1月1日、祝賀メッセージを交換したと、新華社が伝えた

 それによれば。習近平は「協力こそが双方にとって最善の選択であり、40年間の中米両国の発展の経験を活かし、協調、協力、安定を基礎とした両国関係をともに進めたい」と述べ、トランプは「協力を進め、建設的な米中関係を築くことは私の優先事項だ。われわれ(二人の)力強い友情は、今後数年にわたる偉大なる成果を得る上で、すばらしい基礎を築きあげた」と述べたとのこと。

 昨年12月29日にも、習近平はトランプの要望に応じて、米中首脳による国際電話を交わしたと、12月31日付の人民日報海外版が報道している

 トランプは習近平に「米中関係は非常に重要だ。全世界が強い関心を寄せている。私は習近平主席との良好な関係をかけがえのないものとして大切に思っている。アルゼンチンで得たコンセンサスが対話に発展し、両国と世界に有利な成果をもたらすことを期待し、うれしく思っている」と述べた。

 習近平はトランプに「私も大統領同様、中米関係が安定的に発展することに賛同します。現在、われわれ両国は非常に重要な段階に差し掛かっています。アルゼンチンで得たコンセンサスを、両国は積極的に実行に移そうと努力している。互いが互利互恵の成果を得るよう、そして世界に有利な協議ができるよう、希望しています」と答えた。

◆ペンスに「黒鳥の歌」を歌わせるトランプ

 胡錦濤政権のころ、当時の温家宝首相は、よく海外で平然と「中国の政治体制改革」を論じていた。中共中央では禁じられているはずなのに、当時の胡錦濤国家主席は批判もせず触れもせず、温家宝に好きなように言わせていた。そこで筆者は温家宝のこのメッセージを「白鳥の歌」と名付けたことがある(『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』)。

 それになぞらえて、今度はペンス副大統領の激しい対中批判(たとえば昨年10月4日のハドソン研究所におけるスピーチなど)を、「黒鳥の歌」と名付けることにした(『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』p.286)。

 なぜなら、トランプはペンスに対中攻撃をさせておきながら、素知らぬ顔で、習近平には「かけがえのない友情」などと平気で讃辞を送るからだ。

 環球時報の評論および年末年始の米中両首脳の電話会談や祝賀メッセージを見る限り、2019年の米中関係は、貿易摩擦に関しては双方が適宜譲歩し、中国の国家戦略「中国製造2025」に関しては双方ともに絶対に譲らない二面性を保ちながら進んでいくのではないかと思われる。 

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

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