米中対立はむしろ「熱戦」

遠くて近く、近くて遠い、トランプ大統領と習近平国家主席(写真:ロイター/アフロ)

 トランプ大統領が対中関税を25%に引き上げる意向だ。となれば中国に製造工場を持つアップルなどは打撃を受ける。また米議会は中国の対米投資を厳格化はしたが、対中投資する米企業への報復を避けて抑制的だ。米中の相互作用を考察する。

◆中国製品に対する関税を10%から25%に

 トランプ大統領は11月26日、2000億ドル相当の中国製品に対する関税を10%から25%に引き上げるとの見通しを示したと、ウォール・ストリート・ジャーナルが報じた。

 それによれば、関税率の引き上げは来年1月1日から実施するようだが、もし中国との協議で合意できなければ、中国からの残り全ての輸入品についても関税発動に踏み切ると発言しているとのこと。

 そのような中にあっても、今月末アルゼンチンで開催されるG20(20ヵ国・地域)首脳会議で、習近平国家主席と会談したい旨をトランプ大統領は1ヵ月ほど前に中国側に伝えている。

◆中国企業の対米投資制限に関して

 トランプ大統領は、「中国がアメリカ企業買収やアメリカ企業への投資によってアメリカの知的財産を侵害している」として、中国の米企業買収や対米投資を阻止するための法案を議会で通そうとしていた。しかし、結果的に中国だけを狙い撃ちせずに、どの国に対しても適用される「対米外国投資委員会(Committee on Foreign Investment in the United States。以下、CFIUS)」の権力強化に留めている。CFIUSは「外国から米国への投資に対する国家安全保障の確保を目的とした審査を行う委員会」で、この「外国」は中国に限らず、日本を含めた全ての外国を対象としている。

 今年8月13日、トランプ大統領は、CFIUSによる審査制度等に大きな変更を加える「2018年外国投資リスク審査近代化法(Foreign Investment Risk Review Modernization Act)」に署名し、同法が成立した。この「外国」には、日本も含まれる可能性だってある。

 なぜこのような遠回りなことをしたかというと、中国だけを狙い撃つと、中国でビジネス展開をしているアメリカ企業が中国から締め出されるという報復を受ける可能性があるからだ。それほどに、中国とアメリカは互いに深く、広く、複雑に食い込んでいる。

◆清華大学経済管理学院顧問委員会の米投資ファンドCEOたち

 何度も例にとって申し訳ないが、習近平の母校の清華大学経済管理学院には数十名の米大財閥が顔を揃えている。習近平は必要に応じて日頃から顧問委員会委員と連携を取っており、年に1回は総会を開く。

 顧問委員会の中で、投資ファンドに特化した会社のトップが委員を務めているアメリカ企業を、いくつか列挙してみよう。

●ジェネラル・アトランティック(General Atlantic)投資グループ(委員:ウィリアム・フォードCEO)

  ジェネラル・アトランティックは 1980 年に設立され、成長企業に資本と戦略的支援を長期的に提供する株式投資会社だ。ニューヨーク、グリーニッチ、パロアルト、メキシコシティ、サンパウロ、アムステルダム、ロンドン、ミュンヘン、北京、香港、ムンバイ、シンガポールなどに 100 人以上の投資専門家を置いている。

●KKR社(投資ファンド)(委員:ヘンリー・クラビス共同創設者&共同CEO)

 KKRは1976年に3人のユダヤ系アメリカ人「コールバーグ(Kohlberg)、クラビス(Kravis)、ロバーツ(Roberts)」の頭文字を取った社名で設立された。世界的規模を持つ投資会社で、ニューヨークに拠点を置く。同じユダヤ系アメリカ人であるキッシンジャー元国務長官と仲が良く、もちろんキッシンジャー・アソシエイツを通して中国入りしている。

●カーライル・グループ(The Carlyle Group)(委員:デイヴィッド・ルーベンシュタイン共同創立者&共同CEO)

 カーライル・グループは、アメリカ、ワシントンD.C.に本拠地を置くプライベート・エクイティ・ファンド(投資ファンド)である。1987年に設立され、現在、バイアウト(株式を買い占めることや企業を買収すること)、グロース・キャピタル(企業が投資ファンド等からのリスクマネーを利用してM&Aを行い、企業価値を向上させていく投資)、リアルエステート(不動産投資)、レバレッジド・ファイナンス(企業が他の企業の支配権を獲得する際に、その被買収企業側の資産や将来のキャッシュフローなどを担保として買収資金を融資すること。レバレッジ:てこの作用)の4つの部門に分かれている。

●ブラックストーン・グループ(The Blackstone Group)(委員:シュテファン・シュワルツマン共同創立者&CEO)

 ブラックストーン・グループは、アメリカの大手の投資ファンド運用会社で、最も大きな上場株投資会社の一つである。本社はニューヨークにあり、キッシンジャー・アソシエイツはブラックストーンの本社ビルの中にある。仲の良さが窺われよう。1985年に設立。世界各地に支社を持つ。シュワルツマンは習近平政権になってから清華大学に中国の若者を対象とした人材養成のための「蘇世民書院」を設立(蘇世民はシュワルツマンの中国名)。習近平とは非常に緊密で、中国のために貢献したいという熱烈な親中派だ。ブラックストーンが保有する資産には、軍事・衛星技術関連の会社が含まれると指摘されており、この技術が中国政府に渡らないようにアメリカ政府は懸念しているようだが、習近平とシュワルツマンの緊密さは増すばかりである。シュワルツマンは、トランプの古くからの友人だったこともあり、キッシンジャーの推薦によりトランプ政権誕生当初はトランプのブレインである大統領戦略政策フォーラムの議長を務めていたが、このフォーラムはメンバー(16人)の内の何人かがトランプの政策に反対したため、その後、解散した。トランプのブレインだった人物が習近平の傍にいて習近平を熱烈に応援しているのである。この現実を見て見ぬふりをしながら、米中関係の分析をすることは不可能だ。

◆複雑に食い込んでいる米中の投資

 彼らはみな米企業の対中投資をする際にアドバイスを与えながら、中国でのビジネス展開を支援し、中国企業の対米投資をも支援する。

 中国にいる在米企業が、もし中国政府によって締め出されたら、アメリカ経済は崩壊に近いほど減衰する危険性を孕んでいる。だからトランプ政権は中国に対して思い切り強硬に出たくても出られない。

 筆者は1990年代初期から在米の華人華僑を取材し続けてきたが、彼らは意図的にその複雑さを深めることにより、米中が戦争できないようにしているのだと言っている。

 あらゆる面から米中両国は複雑に絡まっているのであり、ただ単に米中二大国が対立し、その対立がしばらくは続くということを以て、「新冷戦」などという言葉で、現在の米中関係を位置づけることは、現状の把握を誤らせる。

 金融あるいは投資は、グローバルな世界で動いている。金融工学という学問にしても、実は米ソ冷戦構造の消滅によってニーズが少なくなったロケット工学などに使われる物理学の流体力学が応用されたことにより補強されたという側面を持つ。流動的なダイナミズムを持っているのだ。

 だから、トランプ政権は中国の米企業買収や米企業への投資を阻止したいと思っても、一直線に中国をターゲットにした強硬な対抗法案を決議することができず、やむなくCFIUSを介して迂回しなければならなかった。

 グローバルなつながりが絡み合い、複雑な「作用・反作用」の原理が動く中で、もし「○○戦」という単語を使いたいのなら、むしろ「熱戦」と言うべきで、米ソ対立時代になぞらえた「新しい冷戦」という概念を用いてしまった瞬間に、米中の実態を見失う。

◆困り果てたアップル

 その証拠の一つに、中国製品に対する関税を10%から25%に引き上げたときのアップルの困惑がある。

 アップル製品の多くは台湾企業を通して、中国大陸で製造している。受託しているのは台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業だが、鴻海が中国大陸に持つ生産拠点で製造している。賃金が安いからではない。大陸には膨大な数のエンジニアという「人材」がいるからだ。 

 いま米中対立の根幹になっている「中国製造2025」が発布された原因の一つも、実はこの事実と深く関係している。

 たとえば、一台のiPhoneの利潤に関しては、理念設計側のアップルが80ドルほどを儲け、中の構成要素である半導体などのキー・パーツを製造する日本企業は20ドルほどを稼ぎ、そして組立作業しかやっていなかった中国は、ほんの数ドルしか稼ぐことができない。これが2012年9月の反日デモのときに若者の不満として噴き出した。

 今般のトランプの「中国製品に対する関税を10%から25%に引き上げる」という表明に関して、アップルは猛然と反対。アメリカの消費者の反発も招くのは明らかだ。

 そこでトランプはアップルのハイテク製品の関税だけは10%に留めるかもしれないと、ほのめかしている。それでもトランプの「10%から25%」にという発言が報道された瞬間に、アップルの株価は下落した。

 なお、アップルのティム・クックCEOも、顧問委員会の委員である。

 ことほど左様に、米中は貿易や金融、投資そして人物など、すべての面において絡み合い、「熱い戦い」を繰り広げていることを、見逃してはならない。

 詳細は、来月出版される『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』で分析した。