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北朝鮮の建国節、習近平欠席!

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
習近平、動かず(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 9月9日の北朝鮮建国記念日の式典に習近平国家主席が欠席することが分かった。代わりにチャイナ・セブンの一人で党内序列ナンバー3の栗戦書氏が行く。習近平が欠席する理由の一つは北朝鮮がアメリカに提出している核申告リストを中国が不十分だとみなしているからで、二つ目はわざわざトランプに中国が非核化を邪魔していると批判する口実を与えたくないからだ。

◆習近平が欠席することは早くから分かっていた

 実は中国政府高官を取材することにより、9月9日の北朝鮮の建国記念日の式典に、習近平国家主席は欠席することが、かなり早くから分かっていた。しかし、それは相当に深いインサイダー情報だったので、公開することはできなかった。

 しかし、先ほど、日本時間の8時前に、CCTV(中央テレビ局)のニュースに注目しろという連絡があり、中国政府が公式に発表したことを知った。

◆習近平の特使として栗戦書が決まったことを、どう解釈するか

 習近平の代わりに、チャイナ・セブン(中共中央政治局委員7人)の一人で党内序列ナンバー3の栗戦書(全国人民代表大会委員長)が行くことがわかったが、なぜ栗戦書なのかを、考察してみよう。

 党内序列から言えば、ナンバー1は習近平で、ナンバー2は李克強(国務院総理)だ。習近平が行かないとして、もし李克強が行ったとしても、金正恩委員長と李克強がひな壇に並んでいる姿を想像してみるといい。何といっても中国政府(国務院)のトップである。トランプ大統領から「やはり北朝鮮の非核化を邪魔していたのは中国だ!」という誹(そし)りを受けることは免れないだろう。

 もし習近平が行かないとすれば、本来なら、かつて北朝鮮に行っていたポスト劉雲山に相当する王滬寧(おう・こねい)が行くのが順当な決定だ。しかし、金正恩が3度も訪中したのに対して、失礼だという配慮がなされたものと解釈できる。

 だからせめて、李克強の次の序列の栗戦書にしたのだと思う。

◆なぜ習近平は欠席するのか

 冒頭に書いたように、習近平が欠席する理由は二つある。

 一つはアメリカのポンペオ国務長官との交渉で、北朝鮮が提出した核申告リストのレベルが低いと中国が思っていて、満足していないからだ。早く完全に近いリストを提出して終戦宣言と同時交換をしてほしい。本気で核放棄をするのなら、今さら出し惜しみしてもしょうがないだろうと中国は思っている。

 金正恩にしてみれば、完全な核申告をして全ての核やミサイルの位置が分かってしまったら、万一にもアメリカに裏切られたらお終いだという気持ちがあるのは理解している。いつまでもドナルド・トランプが大統領でいられるかも疑問だ。他の大統領に代わった時に、アメリカが考え方を変えないとも限らない。だから、金正恩としてはアメリカが先に、せめて「終戦宣言をする」と確約しなければ完全なリストを提出することはできない。

 それも、習近平側は理解している。

 しかし、そのようなことをしている間に時間が過ぎ、本当にトランプが大統領でなくなり、唯一最大のチャンスを失えば、もう二度と朝鮮半島の平和体制は来ないだろう。

 習近平は金正恩の「本気度」を信じたからこそ、3回も訪中を受け入れ、「人道的支援」を約束し、「段階的非核化」も受け入れた。

 だから、なんとしてもその「本気度」を先に見せてほしいというのが中国の姿勢だ。

 もう一つの理由である、トランプが「北朝鮮が非核化を遅らせている原因は中国にある」というニュアンスのツイッターを投稿していることを考えてみよう。

 そのような状況の中で「習近平と金正恩」が並んで手を振る図は、見せるわけにはいかないだろう。だから習近平は行くのをやめた。

 この視点から言うと、やはり「習近平よりもトランプが強い」「トランプの方が上だ」ということが言える。いまこの時点での力関係は、トランプの勝ちなのである。

 習近平の欠席は、以上のことを、われわれに教えてくれる。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

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