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中国CCTVが日本ポーランド戦を大きく報道――ネットも炎上

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
2018 FIFA W杯 前半に川島がファインセーブ(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

 中国中央テレビ局CCTVはボール回しの画面に焦点を当てて日本ポーランド戦を大きく報道した。ネットにも賛否両論のコメントが溢れている。取材から中国の絶望的なサッカー事情と日本への羨望も見えてきた。

◆CCTVが「ボール回し」をクローズアップ

(まずお断りしなければならないが、筆者はサッカー観戦は好きだが、専門的な知識は全くないので、それゆえの不適切表現があるかもしれない。もしあったら、何卒お許しいただきたい。中国における社会現象としての観察をご紹介するだけである。)

 29日のお昼のニュースで、中央テレビ局CCTVはFIFAワールドカップに関して報道した。ほとんどの時間が「日本×ポーランド」戦に割かれたことに、まず驚いた。

 おまけに延々と最後の10分ほどの「ボール回し」にのみ焦点を当て、終了の笛が鳴った後、日本の選手とポーランド選手が「笑いながら」肩を組んで何かを話している顔をクローズアップしているではないか。この映像ばかりをかなりの時間を割いて流し続ければ、視聴者にはCCTVが何を言いたいかは分かる。

 29日の夕方の30分間の全国ニュースでも、なんとまた日本ポーランド戦のあの「ボール回し」を報道したではないか。マティス米国防長官の訪中とか訪韓とかのニュースの後にである。この力の入れようは何なのだろう。

 こうなったら徹底してみてみようと30日のニュースも気を付けていたら、なんとお昼のニュースで、今度は特集まで組んでいる。今度は「日本のボール回しに試合会場ではブーイングが」とか「途中で席を立ち帰ってしまう人も出たくらいだ」と、事実ではあっても、やはりそこに焦点を絞っている。

 そこで、ハッとして、中国大陸のネットを見てみた。

◆批判に溢れていた中国のネット空間

 検索してみて、さらに驚いた。

 日本(中にはポーランド)の戦い方に関する批判に満ちているではないか。しかもコメントの何と多いこと!炎上に近い状態だ。

 こんなに関心があるのだろうか。批判コメントから、いくつかを拾ってみよう。

●今夜のポーランド日本戦における日本の消極的な試合姿勢は、FIFAの処罰を受けるべきではないのか?

●FIFAは、たとえば5分か10分以上、戦おうとしない時間が続けば、出場停止にするくらいの罰則を設けるべきだ。

●サッカーファンをバカにしている!試合を見るために時間とお金を使っているんだ。サッカーは選手のためだけのものではない。

●韓国を見ろよ!敗退は分かっていても、あの強豪ドイツを破った。この根性にこそ、われわれはカネと時間を注ぐ価値がある。

●韓国は好きじゃないし、いつもは韓国をバカにしてた。でも今回は違った。初めて韓国を尊敬したぜ!あの強豪ドイツを倒したんだから。根性と闘志があれば強豪にだって勝てる!それを教えてくれた。この勇気をくれるからこそ、サッカーは観る価値がある。ランキングじゃない。

●日本は何を怖がっていたんだ。ポーランドが強すぎるからか?で、16強に残ることができさえすれば、サッカーファンに清々しい勇気を与えなくても無礼にはならないとでも言うのか?

●何がSAMURAI Japanだ!動漫(アニメ・漫画)でSAMURAIのファンだったけど、これはSAMURAI精神じゃない! 勝ち負けではなく、生き様だ。だから切腹だってあった。そこに惚れていた。コスプレ祭だって、SAMURAI姿をやってたのに……。もうサッカーを観るのも嫌になったし、日本の動漫さえ嫌いになりそうだ。よくも僕らの心を弄(もてあそ)んでくれたな!

●所詮、日本の心なんて、そんなもの。勝つためなら手段を選ばない。それが日本民族の本性さ。

●醜い民族が醜い国家を創る。醜い国家だからこそ、ここまで醜いサッカーを創り出せる。

●これがスポーツ精神なのか?!

●五輪だって、参加することに意義があるとか言ってるじゃないか。これって、ランキングのために魂を売ったのと同じだ。賞金が欲しいのか?金のために試合をしているのか?

●よくも俺にサッカーを嫌いにさせてくれたな。日本はアジアの希望だったのに……。魂を汚された思いだ。

●それにしても、なぜポーランドまでが日本の「怠惰」に合わせたのか?ポーランドは強い。敗退は決まっていても、ここで一点を先制したのは見事だ。国に戻っても誇りにすることができるだろう。なのに、なぜ攻撃をやめたのか?万一日本の反撃に遭って失点したくなかったからなのか?

●試合が終わったあと、日本選手とポーランド選手が肩を組んで、「ニタニタ」笑っていた。まるで八百長だ!こんなものに金を払った人たち、時間を使った人たちは騙された思いしかない。何より「心」を注いだ者たちを裏切り、侮辱した。

●他国の試合結果任せで、他力本願。自分から点を取りに行こうとしないなんて、「他人の褌で相撲を取る」のと同じだ。これをするなというのが、日本のカルチャーではなかったのか。日本の精神文化に憧れてはいけない!僕らは裏切られた。

●恥を知れ!

●サッカー史上、こんな醜い試合は見たことがない。永遠に歴史に残るだろう。

 キリがないので、この辺にしておこう。

◆肯定するコメントも

 中には日本のやり方を肯定するコメントもある。

 西野監督は苦渋の選択をしたのだろうというコメントだ。それは戦うよりも、もっと勇気を必要とする選択で、勝ち残ることを優先するなら、やむを得なかったのではないかと、好意的だ。しかし、肯定はごく少数派。

◆中国の若者を直接取材してみた

 そこで、中国の若者を直接取材してみた。非常に優秀な成績で中国のトップの大学を出た知性派だ。

 以下、Qは筆者、Aは取材した中国の若者である。

Q:なぜCCTVがあんなに熱心に日本ポーランド戦を報道し、ネットも燃え上がっているのかしら?

A:それは中国のサッカーチームがあまりに弱いからでしょう。

Q:そんなに弱いんですか?

A:弱いなんてものじゃないです。あれは雑魚(ざこ)です。

Q:雑魚?

A:はい、雑魚です。中国人は誰一人、中国チームに期待などしていません。中国のサッカーチームは存在しないに等しいです。当然、予選も落ちましたし。

Q:習近平はサッカー好きで、サッカーを振興させようとしてるんじゃないんですか?

A:はあ……。

Q:なぜ、そんなに弱いのかしら?

A:体制のせいでしょう。

Q:体制って?

A:指導体制というか、人材育成をするつもりは全くないですからね。

Q:なぜ?受験勉強の邪魔になるから?

A:中国ではサッカーは出世の道につながらないし、かと言って、勉強をやめてサッカーに専念すればいいほど、サッカーの練習は生易しいものではないし、親が、子供にそういうリスクを負わせたくないというのがあります。チームワークに向かないという国民性も否定できません。

Q:なるほど!おもしろい視点ですねぇ!

A:今回は日本がコロンビアやセネガルで大奮闘したから、中国人としては羨ましいという気持ちが強かったかもしれません。日本をアジア代表として応援している中国のサッカーファンもいましたし。

Q:そうでしたか。だからあんなに逆に失望して、ネットが燃え上がったりしたのかもしれませんね。もっとも、CCTVは喜んだんじゃないかな。

A:はい。CCTVはブーイングが起きたりしたことを喜んだと思います。ネットのサッカーファンは、たしかに日本に期待して憧れた分だけ失望したというのはあると思います。日本はここ数年ヨーロッパのリーグにサッカー選手を参加させたり、凄い勢いで選手を育てていますから、中国のサッカーファンは羨ましいと思っています。

Q:そうなんですか、知りませんでした。ところで、あなた自身は、日本ポーランド戦をどう見ていますか?

A:私は西野監督の選択は正しかったと思います。彼には、マイアミの奇跡を起こしながらもグループ戦敗退をしたという苦い経験があるので、あの決断をするしかなかったのではないでしょうか。彼はベスト16以上のことを考えているから、選手の体力を温存するためにポーランドとの試合では二軍を出しています。だからポーランドに先制点を奪われてしまった。あの状況下では、もうあの選択しかなかったと思います。

 おおむね以上だ。

 ネットのコメントだけ見ていると、てっきり「反日感情」かと思ったら、案外、日本への羨望だったことが分かった。

 取材してみないと、分からないものだ。

 ただ、そのことから考えても、CCTVの報道ぶりは上質だとは言えない。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。2024年6月初旬に『嗤う習近平の白い牙』を出版予定。

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