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中国はトランプ大統領就任1周年を、どう見ているか?

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
トランプ米新大統領就任式 議事堂前で宣誓式(2017年1月20日)(写真:ロイター/アフロ)

 1月20日でトランプ氏の大統領就任から1年となる。CCTVは特別番組を組み1年を振り返った。特に同日、米政府機関が一部閉鎖に陥ったことと、米指導者への支持率が過去最低になり中国を下回ったことに焦点が。

◆CCTVが特集番組

 中国共産党の報道機関の一つである中央テレビ局CCTVは、ドナルド・トランプ氏が大統領に就任してから1周年となることに関して特集番組を組んだ。以下はまだ米政府機関の一部が閉鎖になる前の時点における報道だが、中国はいったい、トランプ政権の何に焦点を当てているのか、そのポイントをご紹介したい。

1.TPP(Trans-Pacific Partnership、 環太平洋戦略的経済連携協定)から離脱した。

2.パリ協定(気候変動抑制に関する多国間の国際的な協定)から離脱した。

3.ユネスコ(国連・教育科学文化機関)から脱退した。

4.NAFTA(North American Free Trade Agreement、北米自由貿易協定)に関する再交渉。

5.以上4項目(1~4)から、アメリカがいかに保護主義の方向に向かっているかが分かる。また、国際社会におけるアメリカのプレゼンスを著しく低下させた。

6.2017年8月、ロシアへの経済制裁追加を決定し、ロシアの反発を招いた。

7.エルサレムをイスラエルの首都と宣言した。

8.イラン核協定の離脱を図ろうとした。

9.以上の2項目(7&8)は、国際社会からの反発を受け、アメリカの信用を失墜させた。

10. 内政においても「分断化」を助長させた。自身が所属する共和党においても、党員の80%しかトランプを支持していないし、民主党に至っては8%しか支持していない。

11. メキシコとの国境に壁を築こうとし、アメリカへの渡航に関しても特定の国や民族に対して渡航禁止令を出すなど制限を加えようとした。そのため国内において世論分断を助長している。

12. 軍事、安全保障面においても世界を不安定化させており、2018年度の国防予算として7000億ドルを可決させた。

13. サイバー司令部を新設し、10個目の合同作戦司令部に格上げした。サイバー空間を5つ目の新たな戦場にした。

14. 経済に関しては税制改革を実行したり、エネルギー開発に関する規制を撤廃するなどして株価上昇を招き急成長を遂げているように見えるが、しかしアメリカの経済学者は「トランプ政権の一連の経済政策はアメリカの中長期的経済成長の見通しを損なう恐れがある」と見ている。

 概ね以上だが、全体として「それに比べて中国は……」という言葉が滲み出ており、また一方では、民族の差別や国防予算などに関しては、「それ、中国が言える話なのかな?」という疑問を抱かせるものが少なくない。

◆新華網など

 中国政府の通信社「新華通信社」の電子版「新華網」は1月20日、「トランプ、米大統領就任一周年」という短い記事付きの写真を18枚ほど掲載している。ほぼCCTVと類似の内容だが、CCTVで言わなかった要素としては、「どんな通知簿が出たのだろうか?」として、「アメリカ・ファースト」は「アメリカを再び偉大にすることができるのだろうか?」という疑問を投げかけている。

 少なくとも、「アメリカが、いかにわがままで身勝手であるかに関しては、世界に明らかにさせてくれた」と分析している。

 大統領の権限をいかにして発揮するかに関しては、自分が決めた政策を実施するという方向に動いただろうが、同時にアメリカの「分断者」としての役割を果たし、国内民意の対立を激化させたということができると批判している。

 政府系メディアの「参考消息網」は「成果は非凡だったのか、それとも権威が地に落ちたのか?」という見出しで、新華網に出ているトランプ大統領の象徴的な写真に沿って説明を加えている。

 また、「第二次世界大戦後、1年で支持率がここまで落ちた大統領はいない」として、支持率低迷を強調する報道も目立つ。

◆一周年目に米政府機能麻痺――喜ぶ中国

 特に、日本(および中国)時間20日に米政府機関が一部閉鎖に追いやられた報道もある。

 何よりも政府機関の一部閉鎖が、よほど「うれしい」らしい。

 習近平国家主席の支持率を調査するなどという「背信行為」は中国には存在しない。それはほぼ、国家転覆罪的な犯罪として取締りの対象となるだろう。また、「つなぎ予算が期限を迎える」などという現象も、中国にはない。「閉鎖」の中国語として、「関門」という単語が中国のネット空間を踊った。

 「なんと皮肉なことに、大統領就任1周年記念の日に関門」という環球時報系列の報道もあれば、「人民日報海外版」も喜びを隠さない。CCTVも同様だ。

 それもそのはず。

 1月18日付のコラム「バンクーバー外相会議に中国強烈な不満」に書いたように、中国としては、北朝鮮問題解決のための会議に中国を招聘しなかったアメリカに、憤懣やるかたないほどの憤りを覚えている。

 そこにさらに17日夜、米海軍のミサイル駆逐艦ホッパーが、中国が自国領と主張している南シナ海のスカボロー礁海域に進入したのだ。 これに関しては別途考察するが、中国の対米感情は、ここに来て、一気に悪化している。

◆中国、勝利感――国際社会におけるアメリカ指導者への支持率が中国を下回る

 アメリカのギャラップ社が134の国と地域を対象に調査したところによれば、アメリカの指導者に対する世界の支持率は30%と、中国の31%を、わずかながらではあるものの下回った。たとえ1%の差であっても、習近平国家主席にとっては、嬉しくてならないだろう。CCTVもネット情報も、「遂にアメリカを凌駕する日が来た」と言わんばかりの論調が目立つ。まるで勝利感に浸っているような勢いさえ感じる。

 アメリカ議会においても、上院も下院も議員数では共和党が民主党より多いのに、「その自分が属する多数党においてさえ、指導力を発揮できなかったことになるのだ」と、優越感丸出しだ。対比させるかのように9000万人近い中国共産党員の頂点に立つ習近平の権力の強さをアピールし、全党を掌握していることを強調した。

 しかし、一党支配体制国家と比べてもらっては困る。

 おまけに中国共産党は日中戦争時代に毛沢東が日本軍と共謀して強大化した党だ。その事実を覆い隠し激しい言論統制を行なっているのだから、中国は国家として嘘をついているのである。国民と全世界を騙しながら成長してきた国だ。

 国内における国家主席の支持率も、統計など取ってはならない。

 さて、そんな独裁国家と民主主義国家のゆくえ――。

 そして、その象徴である習近平とトランプ――。

 まさに「どちらが世界を制するのか」、世界はその動向を注視している。

 米中の仲が悪くなれば中国は日本に秋波を送ってくる可能性もなくはない。日本にとっても他人事ではない。身を引き締めて大局を見失わないようにしたいものである。 

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

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