北朝鮮問題、中国の秘策はうまくいくのか――特使派遣の裏側

中国の対北秘策を練る習近平総書記(写真:ロイター/アフロ)

 17日、習近平総書記の特使が北朝鮮を訪問。名目上は党大会の報告だが、実際上は米朝首脳会談の模索だ。その実現のために中国は北朝鮮に対して持っているカードを切っていない。今ようやく中国の秘策を明かす時が来た。

◆中国の秘策とは

 これまで「中国には対話を通して北朝鮮問題を解決するための秘策がある」と書きながら、まだ公開すべき時ではないと判断して、具体的な内容を書いてこなかった。「もったいぶるな」というご叱責も受けたが、今ようやく、それを明らかにしても大丈夫な時が来たと思う。

 そこで先ずは、その秘策とは何かを、簡潔に申し上げたいと思う。

 その秘策とは、「米中蜜月を北朝鮮に見せつけた上で、北朝鮮と交渉に入り、中国が北朝鮮に対して持つ3枚のカードをちらつかせながら、北朝鮮の核・ミサイル開発を凍結させ、米朝首脳会談へ持ち込む」というものである。

 3枚のカードとは、これまで何度も書いてきたが、以下の3つだ。

 カード1:中朝軍事同盟の破棄

 カード2:断油(原油輸出の完全停止。北への「油」の90%は原油)。

 カード3:中朝国境線の完全封鎖。

 「カード1」に関しては今年8月に中国の「環球時報」が北朝鮮のグアム島周辺へのミサイル発射予告に対して「もし北朝鮮が米領土領海に先制攻撃をしてアメリカが反撃してきた場合、中国は中立を保つ」と宣言している。つまり「中朝軍事同盟は守らない」ということだ。9月4日付けコラム<中国が切った「中朝軍事同盟カード」を読み切れなかった日米の失敗>に書いたように、中国のこの威嚇に対して、北朝鮮はグアム島周辺へのミサイル発射を諦め、日本の北海道上空を飛び越えるルートに変更した。

 「カード3」に関しては、かつて毛沢東も実際に行なったことがあり、また今年4月下旬に北朝鮮が核実験の予告をした時にも中国はこのカードを使って北朝鮮を威嚇し、5月初めの一帯一路国際サミットの時には核実験を抑え込んでいる。

 このように、中国のこれらのカードを用いた北朝鮮への威嚇は一定の効果をもたらしている。

 ましてや、北朝鮮が最大の敵とするアメリカと中国が蜜月とあっては、ひとたまりもない。北朝鮮にとっては、それこそが最大の恐怖だ。

 そこで中国は、「北朝鮮に対しては何もしない状況で」、その恐怖だけを北朝鮮に現実として見せつけ、あとは特に「制裁を強化することなく」、むしろ「カードを使わない」ことによってカードの威力を温存させ、北朝鮮と「交渉に入る」という腹づもりなのである。

◆敢えてタイミングをずらした特使派遣

 10月24日に5年に一回開催される第19回党大会が閉幕し、25日には一中全会(中共中央委員会第一回全体会議)が閉幕すると、翌26日に新華社は習近平(中共中央)総書記の特使として中共対外聯絡部(中聯部)の宋濤部長をベトナムとラオスに派遣すると発表した。中国の党大会に関する報告で、一般にその国の与党の長に会い、口頭で報告する。実際、10月31日から11月3日にかけて、宋濤はベトナム、ラオスを訪問し、当該国の最高指導者と会っている。

 中聯部は「中国共産党」の代表として、関係国の政府与党の長と連絡し合い面談する。2007年の党大会後に特使として北朝鮮に派遣された劉雲山も、2012年党大会後に派遣された李建国も中共中央政治局委員の一人だったのに、このたびの北朝鮮に派遣された特使は中共中央委員会委員に過ぎないので、これは「格下げ」で、北朝鮮に対して発した何らかのシグナルだといった報道が日本で一部見られるが、それは完全な間違いだ。今年はどの国も中聯部部長が派遣されている。「無駄を無くそう」という習近平のスローガンに沿ったコスト節減を実施していることを国内にアピールすることが目的だ。

 ただ、5年前までの過去においては、「北朝鮮、ベトナム、ラオス」といった周辺の社会主義国家への特使派遣が同時に発表されるのが常だったが、今年は「北朝鮮」だけが、その国名から抜けていた。

 どうするつもりかを注意しながら観察していたところ、11月15日に、「習近平総書記の特使として、17日に宋濤部長を北朝鮮に派遣する」という発表が成された。

 なぜこのタイミングにしたかは明らかだ。

 中国にとって5年に一回開催される党大会は国家最高レベルの重要会議だ。もしこの間に北朝鮮がミサイル発射などの暴挙に出たら、中国は中国が北朝鮮に対して持っている3枚のカードを切ると、北朝鮮を威嚇していたにちがいない。

 このカードは、使ってしまうと脅しにならないので、いざという時に使うために、使わずに手に持っていて「威嚇する」。これが中国の基本戦略だ。だから党大会開催中は、北朝鮮はおとなしくしていた。

 11月8日~10日には、トランプ大統領が訪中した。

 北朝鮮の最大の敵はアメリカなので、そのアメリカと緊密になる中国を北朝鮮は許すことができない。しかし現在の国力で米中が組めば、北朝鮮は一瞬で木っ端微塵となる。トランプ訪中期間に、もし北朝鮮が暴走すれば、中米はその瞬間に提携して北朝鮮を軍事攻撃するだろう。だから、やはり北朝鮮は大人しくしていた。

 それを確認した上で、中国は特使を北朝鮮に派遣することを決めたのである。このタイミングを「党大会の報告」という理由を付けて選ぶことができるように、10月26日には敢えて北朝鮮を除外したという、中国の周到な戦略が見えてくる。

 トランプ訪中期間に、水面下で米中両国の間に何らかのコンセンサスが得られていたものと考えられる。

◆それを裏付けるトランプのツイートや発言

 それを裏付けるように、トランプは連続ツイートをしたり、そのツイートに対する質問に対して回答したりしている。11月12日から17日の発信や発言には以下のようなものがある。

 ●私は彼(金委員長)と友人になろうと一生懸命やっている。いつの日か実現するかもしれない!

 ●(金委員長と友人になるのは)奇妙なことかもしれないが、いかなる可能性もある。個人的関係ができることは、北朝鮮にとっても世界にとっても良いことだ。実現するかは分からないが、実現すれば非常に素晴らしい。

 ●習近平国家主席は、朝鮮半島の非核化というわれわれの共通の目標を実現するために、中国の偉大な経済的影響力を行使してくれると誓ってくれた。

 ●中国が特使を北朝鮮に送るぞ。これは大きな動きだ。何が起きるか見てみよう!

◆北朝鮮の対応

 宋濤は17日に平壌に着くなり、金正恩(朝鮮労働党)委員長の側近である崔竜海(チェ・リョンヘ)党副委員長とも会談した。中聯部によると双方は、「中朝関係発展のため共に努力する必要性について一致した」という。

 18日、朝鮮労働党の外交部門を統括する李洙ヨン(リ・スヨン)党副委員長と会談し、朝鮮半島を含む地域情勢や中朝関係などの問題について意見を交わしたのち、北朝鮮側は宴会を催して歓迎の意を表している。

 しかし、20日、宋濤が帰国する日になっても金正恩との面会のニュースは流れて来ない。会ったのか否かに関しては不明のままだ。おそらく、金正恩は中国側が出す「威嚇的条件」を、すぐさま呑むつもりはないということの表れだろう。交渉は、ようやく入り口の段階に入ったものと見ていいかもしれない。

 なぜなら、北朝鮮の韓大成(ハン・テソン)駐ジュネーブ国際機関代表部大使は17日、中国がロシアとともに提案してきた「双暫停」に関しては受け入れる可能性がある含みを表明している。ロイター電が伝えた。

 何度も繰り返し書いてきたが、「双暫停」とは、「米朝双方が軍事的行為を暫定的に停止して話し合いのテーブルに着く」という提案である。韓大成は「米韓側が受け入れたら、われわれも将来どうするかを考える」と述べている。そのことから考えると、反応は悪くないと考えていいだろう。

 少なくとも北朝鮮側の歓迎ムードは伝わり、中国を仲介役にする期待はあるものと判断できる。

◆この結果に関して中国側は

 中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」は20日、「米韓は中共特使の在朝活動を凝視している」というタイトルの記事を掲載している。その中で「中国は北朝鮮問題の当事者ではなく、当事者はあくまでも米朝両国だ。中国に過剰に期待するな」と弁解した上で、「中朝関係は非常な困難に直面している。一回の訪問で問題が解決することはない」と表明している。

 つまり、中国は「これまで練ってきた秘策を実行に移す用意はあるが、しかし一気に解決するというわけにはいかず、スタート地点にようやく立った」と言いたいのだろうと判断される。

 北朝鮮はアメリカ本土に着弾できるICBM(大陸間弾道ミサイル)を完成させるまでは話し合いのテーブルに着かず、しかも絶対に核・ミサイル開発を放棄しないことを対話の前提としている。

 片やアメリカは、北朝鮮が核・ミサイル開発を完全放棄するまでは対話に応じず、放棄こそが対話の前提条件だとしている。

 これではいつまでも平行線をたどり、やがては「圧力」の名の下に戦争に突き進む危険性もはらんでいるのは明らかだろう。経済的制裁には限界があり、アフリカや東南アジア諸国など、北朝鮮と国交を結んでいる国は160数ヵ国あり、抜け道はいくらでもある。

 中国やロシアに関しては特定的に監視できても、これらすべてを完全に監視の目から漏れないようにするのは容易ではない。

 となれば、中国の「威嚇的条件」を北朝鮮が呑むか否かが、今後の鍵となろう。

 それが実現できなかった時のために中国は予防線を張っている。それが環球時報に滲み出ており、また中央テレビ局CCTVがこのニュースを扱わないことにも如実に表れている。

 水面下における中朝間の駆け引きから目が離せない。