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習近平の「三期続投」はあるのか? (「習・李 権力闘争説」を検証するPart3)

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
習近平国家主席・中共中央総書記・中央軍事委員会主席(写真:ロイター/アフロ)

習近平が2022年以降も総書記&国家主席を続投するのではないかという憶測がある。来年の第19回党大会で定年を越えた王岐山を留任させて李克強を追い落とそうとしている説とともに。それらの可能性を分析する。

◆「三期続投説」に関して

習近平と李克強が激しく権力闘争をしているということを主張する人々は、さまざまな憶測を創りだしては、世をにぎわしている。

その中に習近平が二期目の2022年以降も総書記 (2023年に国家主席) の座を放棄せず、2022年から2027年までもトップの座に留まる可能性があるという「三期続投説」がある。

そのためにいま開かれている六中全会は、習近平にとっては権力闘争の正念場だという分析をしている報道も見られる。

そこで今回は、中国共産党においては、「任期は二期に限るという規定」があり、さらに国家主席に関しては憲法にその制限が明記されていることを、ご紹介しよう。

前回のコラム「六中全会、党風紀是正強化――集団指導体制撤廃の可能性は?」を補足するなら「集団指導体制を撤廃するには民主集中制を撤廃しなければならず、民主集中制を撤廃するには憲法改正を行なわなければならない」ということになるが、「三期続投」を実行する場合も憲法を改正しなければならない。

◆「任期は二期を越えてはならない」という憲法の制約

中華人民共和国憲法の第七十九条には、「国家主席および国家副主席の任職は、(全国人民代表大会の任期同様)連続して二期以上を越えてはならない」という規定がある。

第六十七条には「全国人民代表大会常務委員会委員長および副委員長の任職は、連続して二期以上を越えてはならない」という条文がある。

さらに第八十七条には「国務院総理、副総理および国務委員の任職は、(全国人民代表大会の任期同様)連続して二期以上を越えてはならない」という条文がある。

したがってもし、習近平が2023年後もなお「国家主席」でいることは、憲法上、許されないのである。

習近平は2013年3月から2018年3月までの5年間が、第一期目の国家主席、2018年3月から2023年3月までが第二期目の国家主席で、合計10年間、国家主席でいることは合法的だ。しかし第三期目、つまり2013年3月以降も国家主席でいようということは、憲法第七十九条に違反するので、不可能である。

それを可能にして「三期連続の続投」を実行するためには、憲法改正を行なわなければならない。

この憲法改正は、憲法第七十九条だけではなく、常に全国人民代表大会常務委員会委員長に関する制約(第六十七条)と、国務院総理などに関する制約(第八十七条)と連動する形で規定されているので、もし習近平が連続三期「国家主席」でいようとすれば、これらすべての制約に関しても改正をしなければならなくなる。

それだけではない。

憲法第一百二十四条には「最高人民法院院長」に関しても「(全国人民代表大会の任期同様)連続二期を越えてはならない」という制約があり、第一百三十条には「最高人民検察院検察長」も「(全国人民代表大会の任期同様)連続二期を越えてはならない」と条文がある。

つまり、中華人民共和国という「国家全体の枠組み」を改正しない限り、「国家主席の三期続投」は絶対に許されないことになっている。

これほどきつい縛りがあるというのに、「権力闘争説」を主張する日本の論者あるいはメディアは、習近平が来年の第19回党大会において、王岐山を留任させることによって、自らの三期続投を可能ならしめようとしているという憶測を流布させている。

◆党規定でも制約

それなら、三期連続、中共中央(中国共産党中央委員会)総書記にだけなって、国家主席にはならないという選択肢もあるのではないかと、考える人もいるかもしれない。そのようないびつな形を取ってまで総書記として三期続投するということに意義があるとは思えないが、党規定の方ではどうなっているのかを、念のために見てみよう。

実は2006年6月10日、中共中央弁公室は「党と政府の領導幹部職務任期に関する暫定的規定」という文書を発布している。「領導」というのは基本的には「指導」の意味だが、「指導」よりも「君臨して統率する」というニュアンスが含まれている。

その第六条には、「党と政府の領導幹部は、同じ職位において連続二期の任職に達した者に関しては、同一職務において、二度と再び推薦することもノミネートすることもしてはならない」と規定してある。

したがって、ありとあらゆる側面から、「三期続投」は禁止されているのである。

この国家の基本構造とも言える憲法や党規約の制約を覆してまで、習近平が三期続投を試みようとするとは思いにくい。将来に汚名を残すことは明瞭だからだ。

現在開かれている六中全会においても、この方向へ移行するための操作をすることは考えられないと判断すべきだろう。

◆王岐山の扱いに関して

ただし、王岐山が来年の第19回党大会で、一般に言われている年齢制限(68歳)を越えていても(王岐山は69歳)、チャイナ・セブン(中共中央政治局常務委員)に留任させるか否かは、実は別問題である。

なぜなら、「七上八下」(党大会開催の時に67歳ならば次期政治局常務委員に推薦していいが、68歳になっていたら推薦することはできない)というルールは、あくまでも暗黙の了解事項であって、年齢制限に関しては、文書化された規約は全く存在しないからだ。

したがって反腐敗運動のために、どうしても「余人をもって代え難し」と判断されたときには、王岐山を留任させる可能性はなくはない。

このことが、決して「習近平の三期続投のための布石」にはなっていない、というだけのことである。

ましていわんや、李克強を落すための策略など、あり得ないと考えていい。

また、もし李克強がかつていた共青団を弱体化させたいと思っているのだとしたら、なぜ習近平は今年9月29日に「『胡錦濤文選』を学習せよ」などという指示を出したのだろうか。説明がつかない。胡錦濤は李克強を推薦した、言うならば今となっては生存者の中では共青団の総本山だ。

胡錦濤を絶賛し、胡錦濤に学べという指示を出したということは、共青団を追い落とそうとしていない何よりの証拠だし、そのようなことをしたら、一党支配体制は間違いなく揺らいでしまうと断言していい。

権力闘争説を前提とした中国分析は、日本にいかなる利益ももたらさない。慎むべきではないだろうか。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

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