北朝鮮の対中非難は今に始まったことではない

北朝鮮制裁決議協議のため2016年1月に訪中したケリー国務長官と王毅外相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

今般北朝鮮が暗に中国非難を公開したことを「異例」としているが、それは違う。これまで何度も公開で非難してきたし、特に習近平政権になってからの非難は激しさを増している。中国の視点から、これまでを振り返る。

◆なぜ日本メディアは「異例」とし、核サミットの習近平発言と結び付けるのか?

4月1日に北朝鮮の朝鮮中央通信が、4月2日には同じく北朝鮮の労働新聞が中国を暗に批判したとして、日本のメディアの多くはこれを「異例」としている。おまけに一斉に、3月31日にワシントン核セキュリティサミットの際に行われた米中首脳会談における習近平国家主席の発言にその原因を求めている。

日本のメディアの、この横並びぶりがあまりに際立って、筆者の目には、これこそが「異様」に移る。

1992年の中韓国交正常化以来、北朝鮮が中国を(暗示する形で)ほぼ名指しで非難するのは、何度もあり、特に習近平政権になってからの非難表明は尋常ではないほどだ。

だというのに、なぜ、今般の非難を、まるで初めてのように「異例」と報道するのだろうか?

当然、意図的だとは思っていない。しかしそうなると、たいへん僭越ながら、もしかしたらこれまでの非難をご存じないのではないかと懸念されるので、中国で報道されてきた、北朝鮮によるこれまでの対中公開非難を、習近平政権以降を中心にして振り返ってみたい。

◆習近平政権になってからの北朝鮮の対中公開非難

習近平政権になってから、なぜ北朝鮮が中国に対して敵意をむき出しにし始めたかというと、習主席がアメリカとの間に「新型大国関係」(G2)を提唱し始めたからだ。この言葉は、胡錦濤政権最後の年あたりから胡錦濤前国家主席が言い始めたものだが、それを受け継いで正式な国家戦略として唱えたのは習主席だ。

それだけではなく、韓国のパククネ大統領は習近平が国家主席になると、早々に訪中し大歓迎を受けている。また習主席は中国建国以来、初めて北朝鮮よりも先に韓国を訪問した国家元首である。

北朝鮮にとって最大の敵国は韓国とアメリカだ。

したがって北朝鮮の金正恩第一書記の激怒ぶりは尋常ではなかった。

習近平政権になったからの北朝鮮による対中公開非難の主だったものだけでも、いくつか列挙してみよう。

1.2013年7月1日午前1時48分 : 北朝鮮側の祖国平和統一委員会

韓国のパク大統領が2013年6月27日に北京で習主席と首脳会談をし、盛大な公式訪問歓迎行事でもてなされたあと、29日に清華大学で講演をした。これに対して、朴大統領が帰国の途に就いた7時間後の7月1日午前1時48分、北朝鮮側の祖国平和統一委員会は、中国を「外部勢力」という言葉で暗示して、激しく非難した。

実は2012年12月にも北朝鮮のミサイル発射に関して中国が国連安保理の対北朝鮮制裁決議に賛同すると、北朝鮮は「責任のある大国たちが理性を失い」という言葉で暗に中国を批難している。

7月1日の対中批判の背景には、2013年5月22日に朝鮮労働党中央委員会政治局常務委員の崔龍海が金正恩第一書記の特使として訪中したときの状況がある。23日に習主席と会うことはできたものの、従来の慣例である「手土産」持たせなかった。いつもは北朝鮮政府高官が訪中後、帰国するときには、たとえば「約10万トンの糧食とか肥料とか石油」などの手土産を持たせるのだが、習主席は崔龍海特使を「手ぶらで」帰国させてしまったのである。この鮮明な対比は、金正恩の怒りを激増させる結果を招いていると、中国では分析している。

中国としては、北朝鮮に新しい指導者が誕生すると真っ先に訪中して挨拶するのに、金正恩はせず、特使を派遣するに留めたことに不快感を抱いていた。北朝鮮は、翌月6月に行われる米中首脳会談に先立って、北朝鮮に不利なことを「習近平-オバマ」会談で話さないように釘を刺したつもりだろうが、裏目に出ている。

2.2014年7月24日: 労働新聞

2014年6月29日、7月2日および7月8日、北朝鮮が弾道ミサイルを発射したことに対して、国連安保理で制裁決議が行われようとしていた。それに対して7月21日、北朝鮮の国防委員会は「中国が制裁に反対する意思表示をせず、北朝鮮を支持していない」ことに強い恨みを持っている発言をしたと、7月24日の労働新聞が伝えた。

3.2014年8月12日 : 「朝鮮中央通信」

2014年8月10日、ミャンマーのネーピードーにおいて東アジア首脳会議(EAS)参加国外相会議が開催された際、北朝鮮の李外相は国際的な舞台で、「ある人は」という表現を用いて中国の北朝鮮政策に関して非難する発言を行なった。何度も繰り返し非難の言葉を、中国を暗示する「ある人」に対して言っているが、たとえば「ある人は誰に対して『抑制しなさい』といさめるべきかを勘違いしている」などと言っている。つまり「中国は、アメリカの朝鮮半島における威嚇をいさめるべきなのに、事態の掌握をまちがえ、米韓を庇護し、北朝鮮に圧力を与えている」という趣旨の非難をしているのだ。

北朝鮮の李外相はこのとき中国の王毅外相とも中朝外相会談を個別に行っているのだが、8月12日の北朝鮮の朝鮮中央通信は、中朝外相会談には触れず、李外相の対中非難スピーチのみを報道し、中国政府を怒らせた。

2015年にも類似の現象が起きているが、長くなるので、列挙は以上までとする。

◆3月から対中国非難は決まっていた

中国でも報道されているが、日本の時事通信社が、3月28日、「中国の制裁同調は敵対行為=党文書で闘争指示-北朝鮮」という報道をしている。

それによれば、李英和・関西大学教授が、中国への闘争を呼び掛ける北朝鮮労働党中央本部の「方針指示文」のメモを入手したとのこと。3月10日に地方の下級幹部向けの講習会で示されたものを参加者が書き写したものだという。これは明らかに国連安全保障理事会における北朝鮮制裁決議に中国が賛同したことを恨んでのことで、核サミットでの米中首脳会談における習主席の発言(3月31日)を受けた反応ではない。

しかし日本のメディアの多くは、執拗なほど米中首脳会談における習主席の発言を流しながら、北朝鮮がそれを受けて「中国を暗示する非難をした」として、それを「異例」と位置付けることを怠らない。

これではまるで、今般の米中首脳会談が蜜月だったように映り、米中関係の真相から目をそらさせる。このことに関しては4月3日付の本コラム「ワシントン米中首脳会談、中国での報道」で書いた通りだ。

細かな違いのようでありながら、ここまでほぼ一斉に中朝関係を不正確にとらえるのは、その積み重ねによって中国の動きや北朝鮮の動きを見誤らせ、最終的には日本国の不利益につながるのではないかと憂慮する。